音楽語法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/09 05:07 UTC 版)
ロマン派の時代にはバロック音楽や古典派音楽から受け継がれた和声語法を言い表すために「調性」という概念が確立された。バッハ・ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンらによって示された偉大な機能和声法を、ロマン主義の作曲家は自分たちの半音階的な新機軸に混ぜ合わせようと試みた。よりいっそうの動きのしなやかさとより大きなコントラストを実現するため、またより長大な作品の需要を満たすためである。 半音階技法だけでなく、不協和音もいっそう多用されてさまざまに活用された。たとえば、しばしば最初のロマン派の作曲家と見なされているベートーヴェンや後のリヒャルト・ワーグナーは和声法を拡張し、以前は使われなかったような和音を用いたり、従来とは異なる方法で既存の和音を扱ったりした。ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》に散見される「トリスタン和音」は、和声機能の解釈の仕方やその美学的な意味をめぐって多くのことが論じられてきた。 作曲家はますます遠隔調に転調するようになり、古典派の時期に比べると予備なしの転調が頻繁になった。時には転調の軸足となる和音に代わって音符一つで転調することさえあった。このような音符を(たとえば嬰ハ音を変ニ音へと)エンハーモニック的に書き換えることによる遠い調への転調をフランツ・リストらの作曲家は試みた。どの調にも移ることが可能になる減七和音のような仕掛けも積極的に研究された。 ロマン派の作曲家は、音楽を詩に見立てたり叙事詩や物語の構成に似せたりした。それと同時に、演奏会用作品の作曲や演奏のためのより体系化された基礎を彼らは創り出した。ロマン主義の時代には、ソナタ形式など以前の習慣が規則化された。歌曲の作曲においては、旋律や主題にますます焦点が向けられた。循環形式がいよいよ積極的に多用される中で旋律の強調は現れた。当時ありがちだった長めの楽曲にとって、循環形式が重要な統一手段であることは明らかだった。 以上の傾向(和声のよりいっそうの巧妙さや流麗さ・長大で力強い旋律・表現の基礎としての詩情・文学と音楽の混淆)はみな程度の差はあれロマン派音楽以前にも現れていた。それでもロマン主義の時代にはそういったものが中心的に追究されるべきものとされたのであった。ロマン派の作曲家は、科学技術の助けも受けた。たとえばオーケストラにも匹敵するほどの力強さや音域をピアノにもたらしたように、科学技術は重大な変化を音楽にもたらした。
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