森下自然医学の終幕と示唆
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「森下自然医学」の記事における「森下自然医学の終幕と示唆」の解説
森下自然医学の組織は、森下の急逝と共に幕を引いた。森下理論の理解と価値の認識、そして後世に伝えようとする努力がなされないまま閉じられたことは、経営陣に恵まれなかったという学問上の不幸ともいえる。 しかしながら森下は、自身が第51回国会で参考人として証言した折、同じく参考人として同席していた当時の癌研究所長・吉田富三が紹介した、ドイツの「マックスプランク研究所の理想的な運営」というものに共鳴していたのかも知れない。 それは、「研究所というのは、科学者という人間中心主義」が伝統的な原則だという。研究所を新設するときに、世界のトピック研究をやるのではなく、国内に非常に優れた研究者がいれば、その人に研究所を与える。研究所はその研究者1代限りに与えるのであり、したがってそこで働く助手や研究者も、その研究所長が引退するときには同時に引退する。学問はそのときの科学者を中心にして進むのであるから、2代も3代も引き継がれて立ち腐れになるようなことは防がれている、というものであった。 たとえ対ガン科学に関しては意見が対立していたとしても、森下が吉田の紹介した研究所の在り方に共鳴し、科学者として心に深く留めていた可能性は充分にある。後継者をつくらず、組織の維持にも執着しなかったのは、そうした運営を是としていたとすれば頷ける。 森下は終生において、自然医学と現代医学は横の関係でなく縦の関係と述べ、根本から土台が違うため相容れないと考えていた。しかし、現代医学が細網内皮系の特性を明確にし、加えて経絡理論を採り入れれば、東洋医学と西洋医学が直結するという期待はもっていたようだ。 森下が腸管造血の研究で交流のあった千島から、のちに彼の牛乳推奨論や哲学(千島学説の八大原理)に同調しなかったことで攻撃された折、応戦すまいと黙しながらも、「自然がすべて解決してくれる」ともらしたという。 確かに、早くから腸内細菌の重要性に着目し、当時は全く無視されていた食物繊維について、腸内細菌の繁殖に積極的に寄与しているはずとの指摘や、ミトコンドリアの見解、慢性炎症の概念、万能細胞(細胞の多能性)の概念、オートファジーの概念、牛乳否定論など、断片的な細部においては、徐々に発見されつつはある。 2018年11月29日、米コロンビア大学のメーガン・サイクス教授らの研究チームが、腸移植を受けた患者21名を5年間にわたって追跡調査し、移植された腸には造血幹細胞をはじめとする複数種の前駆細胞が存在することを突き止め、研究論文を幹細胞領域の専門学術雑誌「セル・ステムセル」で発表した。日本での腸管造血説の公表から実に50年以上も経っており、それでも主要な造血機能との認識には至っていない。 森下は、分析的医学といわれる現代医学の二大病理学説に早くから否定的であった。 ドイツのウィルヒョウが唱えた「細胞病理学説:病巣の観察から病気の原因を明らかにする」、フランスのパスツールが提唱した「細菌病理学説:病巣から細菌を検出することで病気の存在を証明する」は、いずれも病気の結果として起こった現象を検証することで、それを病気の原因であると位置付けしているからである。 このことは、結果としては事実でも原因の証明ではあり得ず、本末転倒だと述べている。現代医学は病気を「悪」とみなし、攻撃あるいは排除するという疾病観であるのに対し、森下自然医学では、本来は病気にも存在理由があって、そこに至るまでの複雑な因果関係を研究しなければならないとしている。 そのためには、「健康とは何か」を理解する必要があり、医学というものは、生命科学に主眼を置いて研究・実践する学問であり、健康に関する学問でもあらねばならない。 森下自然医学のいう生命科学とは、生体の示す特有な生命現象を、生理学(働きのメカニズム)、解剖学(形態構造)、生化学(化学的な働き)が統合された視点から研究する学問である。 また、人間は自然界の生物であると同時に、特殊な社会をつくり上げ、その中で多大な影響を受けながら変遷を経ていることから、社会科学的歴史の法則に立った研究も求められる。 特に、受動的にも能動的にも「意識」をもっている人間は、「心の問題」も大きく、肉体と意識は相互に影響し合い、切り離して考えることはできない。 生命現象は総合的なものであり、便宜上細分化されている学問の総てが絡み合いながら同時進行しているのが現実であるから、統合的視点に立たなければ生命現象を把握することはできず、根治療法はなし得ないのである。
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