審理併合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 11:59 UTC 版)
「富山・長野連続女性誘拐殺人事件」の記事における「審理併合」の解説
2被告人とも、富山事件については富山地検が富山地裁へ、長野事件については長野地検が長野地裁へそれぞれ起訴した。刑事訴訟法第8条は、複数の関連事件がそれぞれ事物管轄の同じ別々の裁判所へ係属した場合、検察官または被告人の請求により、審理を1つの裁判所に併合できることが規定されている(以下の条文を参照)。 刑事訴訟法第8条数個の関連事件が各別に事物管轄を同じくする数個の裁判所に係属するときは、各裁判所は、検察官又は被告人の請求により、決定でこれを一の裁判所に併合することができる。 前項の場合において各裁判所の決定が一致しないときは、各裁判所に共通する直近上級の裁判所は、検察官又は被告人の請求により、決定で事件を一の裁判所に併合することができる。 どの裁判所に併合すべきかを決定する基準については刑事訴訟法・刑事訴訟規則のいずれでも明示されていないが、最初に起訴を受けた裁判所(当事件の場合は長野地裁)へ併合する慣行がある。これを受け、長野・富山の両地検は最高検察庁とも協議し、長野地裁への併合を求める方針を決めた。その理由は、「富山事件は共謀・犯行の場所が富山県やその近辺に限定されている一方、長野事件はそれらが富山・長野・群馬・埼玉・東京の各都県におよび、取り調べが予想される証人も各地に散在している(富山の証人が長野まで出頭することは十分可能だが、群馬・埼玉・東京などに居住する証人が富山まで出頭することは著しく困難である)」というものだった。 また、Mは当初、私選弁護人を選任せず、国選弁護人の選任を申し出た上で、「富山は自身の出生地で、友人・知人も多く、家族も生活している。家族につらい思いをさせたくないので、少しでも富山から離れたい」として、長野地裁への併合を希望していた。その後、富山事件について国選弁護人2人(宇治宗義・澤田儀一)の2人が選任されると、Mは弁護人との接見を通じて、同年6月10日付の上申書(富山地裁宛)で「どこで裁判を受けるかは弁護人に一任したい」という心境を述べていたが、同年7月1日付でなされた長野地裁の裁判官による取り調べに対しては「私の真意は(長野での審理を強く希望した)5月14日付の上申書当時から全く変わっていない。富山で審理が開かれると、親戚・家族に大きく迷惑がかかるし、知り合いの傍聴人(北野の家族ら)とも顔を合わせることになり、冷静な気持ちで審理に対処できない」「国選弁護人2人に一任する旨を表明したのは、彼らから弁護活動の都合や、北野の弁護人の立場などの説明を受け、『自分の希望や都合ばかり言うわけにはいかない』と思って彼らの意向に沿ったものであって、長野で審理を受けたい気持ちは変わらない」と述べた。加えて、長野地裁から長野事件におけるMの国選弁護人として選任された田中隆・丸山衛の2人は、1980年7月7日付にMと初めて接見し、長野地裁で審理を受けたい旨を確認したとして、同地裁での審理を要望していた。 併合審理請求に対する各裁判所の判断裁判所裁判長決定日(1980年)決定理由被告人M側の主張北野被告人側の主張検察側の主張長野地裁刑事部(第一次)小林宣雄 6月7日 富山事件を長野事件に併合し、当裁判所(長野地裁)で一括して審理する。 両地検の検察官や被告人Mが当地裁への併合を求めている。 両被告人とも勾留中である(長野で公判が開かれても格別の不利益はない)。 長野事件は富山事件との共通の罪状(身代金目的拐取・殺人・死体遺棄)に加え、拐取者身代金要求の罪状が加わっていることから「富山事件より重大かつ複雑」で、しかも先に起訴されている。 長野地裁への併合を請求。 本人が富山地裁への併合を希望し、弁護人も同様の請求。 両地検の検察官とも、長野地裁への併合を請求。 富山地裁刑事部岩野寿雄 6月11日 長野事件を富山事件に併合し、当裁判所(富山地裁)で一括して審理する。 犯行場所は確かに長野事件の方が広範囲ではあるが、富山事件も富山・岐阜の両県下にまたがっており、拐取者身代金要求の訴因を除けば長野事件とほぼ同様の重大事犯で、まだ審理が始まっていない(審理の範囲・方法が予測できない)現段階では、検察官の主張するような差異の有無は、決定的な重要性を有するものとは言い難い。長野事件の方が先に起訴されたとはいえ、犯行そのものはむしろ富山事件の方が先で、重大性も先述のように両事件ともさほど変わらないため、係属の先後は大きな意味を有さない。 両事件をどちらの裁判所で審理すべきかは、検察官の立証活動・裁判所の審理の便宜などのほか、それにも増して裁かれる立場である被告人・弁護人の防御権行使上の便宜が重視されるべきだ。両被告人とも富山県在住で、両事件の重大性はほぼ同程度であることを考慮すれば、当裁判所で併合審理することが相当だ。 両被告人の弁護人とも、富山地裁への併合を請求。 長野地裁刑事部(第二次)小林宣雄 7月11日 両被告人の弁護人(Mについては富山地裁により、富山事件の弁護人として選任された宇治・澤田の両名)からの「富山地裁へ併合されたい」旨の請求をいずれも却下。宇治・澤田の両名は「Mは必ずしも長野に固執せず、どちらの裁判所で審理を受けるかを一任したい旨を表明したので、第一次決定を取り消した上で、改めて富山地裁への併合を求める」と請求していたが、長野地裁は上述したように「Mは当地裁に対し、改めて長野地裁で審理を受けたい旨を強く表明している。その心境が変化したことを前提とする請求人(弁護人2人)の所論は肯認し難く、第一次決定を変更すべき特段の事情も認められない」として、請求を却下した。 このように、両裁判所がまったく逆の決定を出す異例の展開となったため、上級裁判所の判断が仰がれることとなった。しかし、両地裁とも上級裁判所である高等裁判所が異なるため、両裁判所共通の上級裁判所である最高裁判所が決定を出すこととなった。最高裁第一小法廷(本山亨裁判長)は、1980年7月17日付で、「両被告人とも富山県在住で、最初の事件発生地も富山県である。弁護活動にも富山地裁の方が長野地裁より便利だ」として、両事件を富山地裁へ併合して審理することを決定した。この決定は、最高裁が刑事訴訟法第8条2項に基づき、下級審の併合決定を出した初の事例で、『朝日新聞』 (1980) は決定の背景について「被告人側の防御権・弁護権を重視したものとみられる」と報じている。
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