大韓民国(韓国)の家事調停
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 04:00 UTC 版)
「家事調停」の記事における「大韓民国(韓国)の家事調停」の解説
韓国の家事紛争解決の特徴の一つとして、協議上離婚を認めつつ、離婚意思の確認や協議内容の適正化に法院(裁判所)が深く関与することが挙げられる。韓国では戸籍やその後継制度である家族関係登録に関する事務を法院が管轄しているので、戸籍部門と裁判部門とが連携するのは自然な発想である。 協議上離婚をする夫婦は、登録基準地又は住所地を管轄する家庭法院に揃って出頭し、協議離婚意思確認申請書を提出しなければならない(家族関係の登録等に関する規則73条1項本文)。申請書を受理した家庭法院は、離婚意思確認の期日を約1か月後(未成年の子を持つ夫婦については約3か月後)に指定するとともに、当日に申請書を提出した夫婦数組を集めて、離婚案内を行う。この離婚案内の中で、協議上離婚の手続教示、離婚相談の勧告及び親教育が行われる。このうち親教育は、未成年の子を持つ夫婦に対して行われる情報提供である。親の離婚が子に与える影響、親権・養育費・面接交渉とは何か、離婚後の親の役割、養育費の支払及び面接交渉の重要性といったことが説明される。離婚相談は、家庭法院の委嘱する専門家や民間の各種団体が提供する相談の場であり、離婚相談の中で事実上の合意支援が行われることもある。 離婚意思確認の期日には、夫婦が家庭法院に揃って出頭し、法官(裁判官)から離婚意思の確認を受ける(家族関係の登録等に関する規則74条1項)。離婚意思確認の申請者は、この確認を受けるまでは申請を取り下げることができ(同規則77条1項)、夫婦の双方又は一方が2回続けて離婚意思確認の期日に出頭しなかったときは、申請を取り下げたものとみなされる(同条2項)。 未成年の子を持つ夫婦は、「子の養育と親権者の決定に関する協議書」を提出しなければ離婚意思の確認を受けられない。同協議書には親権者及び養育者、養育費の負担、面接交渉権の行使及びその方法を記載するための欄があり、記載内容が子の福利に反するときは、法官が補正命令を発することもできる。法院書記官は同協議書の養育費に関する部分について養育費負担調書を作成する。養育費負担調書は、債務名義になる。 このように、韓国では、協議上離婚の手続が斡旋に近いものとなっており、かつ、一時の感情に任せた離婚や一方当事者の意向を反映しない離婚を食い止める安全網が敷かれている。そのため、高葛藤の夫婦以外は、協議上離婚の手続で自主的に合意を形成することができると考えられる。 ナ類 及びタ類家事訴訟 並びにマ類家事非訟事件 について家庭法院に訴えを提起し、又は審判を申請しようとする者は、まず調停を申請しなければならないが(家事訴訟法50条1項)、実際には、家事調停の申請は日本や中華民国と比較して非常に少ない。自主的に合意できる夫婦はあらかた協議上離婚をしているとしても、家事訴訟の年間処理件数に対する調停成立及び訴え取下げ(取下げとみなす場合 を含む。)の件数の割合が約38%ある(2011年から2016年までの6年間の平均値) ことからすると、第三者が介入すれば合意形成可能な多数の夫婦が調停を経ないで離婚訴訟を提起していると言える。実際に、「過当競争にあえぐ弁護士が家事調停より報酬の見込める離婚訴訟を依頼者に強く勧めている」との旨の指摘 がある。 家事調停事件は,それに相応する家事訴訟事件又は家事非訟事件を管轄する家庭法院又は当事者が合意で定める家庭法院が管轄する(家事訴訟法51条1項)。調停手続を主催する調停機関は、原則として調停委員会である(民事及び家事調停の事務処理に関する例規33条1項)。調停委員会は、調停長である法官と、各事件ごとに調停長が指定し、又は当事者が合意により指定する調停委員2名以上で構成する(同項、同法53条)。 家事訴訟法は、家事調査官が事前に事実の調査を行い、調停委員会が積極的に解決案を提示して当事者を説得するという進行を予定している(同法56条、58条1項)。 調停は,当事者間で合意された事項を調書に記載することによって成立する(同法59条1項)。調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的で調停の申立てをしたと認めるときは、調停をしない決定で事件を終了させることができる(家事訴訟法49条、民事調停法26条1項、40条1号。日本の調停をしない措置と同趣旨)。また、調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込みがないとき、又は成立した合意の内容が相当でないと認めるときは、調停申請の趣旨に反しない限度で、調停に代わる決定をするのが原則であり、一定期間内にどの当事者からも異議申立てがなければ、調停に代わる決定は確定する(家事訴訟法49条、民事調停法30条1項、34条、40条1号)。調停又は確定した調停に代わる決定は、当事者が任意に処分することができない事項を除き、裁判上の和解と同一の効力を有する(家事訴訟法59条)。 調停をしない決定があったとき、調停が不成立のとき又は調停に代わる決定に対する異議申請があったときは、訴えが提起されたものとみなされ(申請による調停の場合)、又は受訴法院に再度回付される(調停回付による調停の場合)(家事訴訟法49条、50条、民事調停法36条)。このとき、調停長又は調停担当判事は、意見を添付して記録を管轄家庭法院に送付しなければならない(家事訴訟法61条)。韓国では、離婚相談や親教育、家事調停に家庭法院の後見的機能を期待する見解が多い。 このように、韓国の家事調停は、少なくとも制度上は日本よりも斡旋としての性格がさらに明確である。
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