土器の形態と用途
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 08:36 UTC 版)
土器の本体および各部位の名称は、土器全体のかたちを人間の身体に見立てて、ものを出し入れする部分を「口」、最下端部を「底」、その間を「胴」と呼び、各部の変化によって土器全体のプロポーションに変化が生まれることから、そのプロポーションによって甕(かめ)、壺(つぼ)、深鉢(ふかばち)、浅鉢(あさばち)、皿(さら)、碗(わん)、高坏(たかつき)などと呼び分ける。器種を細分化する際も、「短頸壺」(首)、「双耳壺」(耳)など人体に模した表現がよくなされる。 特定の人間集団が使用する土器群を抽出すると、使われる土器の形態や大きさは多種多様であるとともに、形態や大きさによって作り分けられ、使い分けられていることが判明している。用途に関しては、日用と非日用に大別され、日用品は、煮沸用(煮炊き用)、貯蔵用、供献用(盛付け用)、食事用、運搬用などがある。非日用品としては、祭儀用として祭礼儀式や神霊への供献の場面で、墓用として墓への副葬品として、また埋葬用の棺として用いられる。 ただし、時代によって生業や生活様式が異なることから、先史時代の土器に関しては特に、単純に形態から用途を類推することはできない。たとえば日本列島の場合、縄文土器は、当初煮炊きの道具として生まれたことが土器の表面にこびりついた煤状炭化物や吹きこぼれの痕跡によって確かめることができるが、その多くは深鉢の形状をなしており、これら深鉢形土器は縄文時代を通じて貯蔵、場合によっては子ども用の墓(土器棺)など多用途に用いられた。それに対し、稲作農耕が本格化して、米粒食が普及すると甑(こしき)、鍋、甕などが炊飯や煮炊き具として普及し、供献用ないし食器として椀(碗)が登場し、貯蔵のための甕の重要性が高まる。ただし、甕形の土器は縄文時代よりすでに液体などの貯蔵用として用いられており、弥生時代には棺としても用いられており、ここでもやはり形態と用途との対応は一義的ではない。 煮沸用土器については、耐熱性という点から多孔質を増して仕上げられており、陶磁器には代用不能な役割を担っている。また水などの液体を蓄えるという用途からすれば一般的には陶磁器は土器より優れているが、熱帯地方やイスラーム地域では、土器の多孔性をむしろ利用し、水が滲み出る際に生じる気化熱によって常に冷水を蓄えるということに利用されている。人類史的には、煮沸用土器が生まれたことで、生水ではなく煮沸した水を飲料に供給できたことは、中毒症の罹患や感染症の蔓延を防ぎ、人びとの定住化をおおいに促進させたものと考えられる。日本列島においては、縄文時代後期より海水を煮詰めて塩をつくる土器製塩がおこなわれるが、製塩土器もまた煮沸用土器にあたる。塩は調味料であるばかりでなく食品保存料であり、内陸部へもさかんに運ばれている。 なお、原始・古代の遺跡からは、通常の土器よりもサイズが小さく実用に適さない「ミニチュア土器(袖珍土器)」が出土することがある。祭祀用または玩具との説があり、多くは手づくねでつくられる。
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