国家管轄権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:16 UTC 版)
「国家管轄権」(les compétences de l'État; State jurisdiction) とは、国家が自然人、法人、物、活動に対して行使することができる、国際法によって与えられあるいは認められている権限をいう。これについては、国家管轄権が、国際法の存在以前からあるものなのか、あるいは国際法によって付与されたものなのか、という問題がある。いいかえれば、「ロチュス原則」すなわち、国際法で禁じられていない限り国家は自由に行動できる(「ロチュス号事件」常設司法裁判所判決; C.P.J.I., série A, n°10, 1927, p.19)という命題が今日でも妥当するのか、という問題である。学説上、いまだに見解は一致していないが、今日の「協力の国際法」(International Law of Co-operation)の分野においてはもはや同原則は認められない、とする見解も有力である(cf.「2000年4月11日の逮捕状に関する事件」国際司法裁判所判決ギヨーム裁判長個別意見、C.I.J. Recueil 2002, p.43, par.15)。 国家管轄権は、「属地主義」、「属人主義」、「保護主義」、「普遍主義」に分類される。 属地主義 (territorial principle; la compétence territoriale) とは、国家はその領域内(及び国際法によってそのようにみなされる場所。例えば、自国籍の船舶・航空機)にある人、物、活動に対して排他的に行使できる権限をいう。領域は、領土、領海、領空で構成される。ただし「領域使用の管理責任」といった国際法に服する。国家は、その領域内で私人により行われる違法行為から、他国、外国人、他国の領域を保護しなければならない(例えば、環境保護について、「トレイル溶鉱所事件」(米国/カナダ)仲裁裁判所判決)。 属人主義 (nationality principle; la compétence personnelle) とは、その領域外においてなされた行為(特に犯罪)に関して、その行為者の国籍国という連結により(「能動的属人主義」; la compétence personnelle active)またはその被害者の国籍国という連結により(「受動的属人主義」; la compétence personnelle passive)、その行為を自国の法秩序に置きあるいは処罰する権限をいう。日本の刑法では、能動的属人主義として刑法3条が、日本国民の国外犯に対して日本の刑法が適用される犯罪を列挙している。また、受動的属人主義としては、刑法4条の二が、条約により日本国外において犯された犯罪でも罰すべきとするものについて、日本の刑法を適用する旨、規定している(「人質にとる行為に関する条約」5条ほか)。 保護主義 (protective principle; la compétence réelle) とは、外国で行われた犯罪行為で、特に自国の重大な国家法益を侵害するものを自国の法秩序の下に置く権限である。日本の刑法では、2条が保護主義を規定しており、内乱、外患誘致、通貨偽造等に日本の刑法が適用される旨、規定する。 普遍主義 (universality principle; la compétence universelle) あるいは世界主義(Weltrechtsprinzip)は、国際共同体全体の法益を害する犯罪について、それが行われた場所、犯罪の容疑者の国籍、被害者の国籍にかかわらず、いかなる国もこれを処罰する権限をいう。古くからは、海賊は「人類全体の敵」(hostis humani generis)としていかなる国も処罰できるとされてきた。近年は、多数国間条約によって、普遍主義に基づく処罰を義務づける場合が増えてきている(「航空機の不法な奪取の防止に関するハーグ条約」4条、「民間航空機の安全に対する不法な行為の防止に関するモントリオール条約」5条、「アパルトヘイト罪の撤廃と処罰に関する条約」4条ほか)。 今日、この分野で最も議論が行われているのが、「国際法上の犯罪」(les crimes du droit des gens) である、「ジェノサイド罪」(集団殺害罪)(crime of genocide; le crime de génocide) 、「人道に対する罪」(crimes against humanity, les crimes contre l'humanité)」、「戦争犯罪」(war crimes; les crimes de guerre)(ジュネーブ諸条約の「重大な違反行為」)に対する普遍主義の行使である。このうち、1949年のジュネーブ諸条約の「重大な違反行為」については、同条約が普遍主義に基づく国内法の整備を締約国に義務づけている(それぞれ、49条/50条/129条/146条)。ジェノサイド罪については、1948年の「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」(「ジェノサイド条約」)6条が、犯罪行為地国と国際刑事裁判所のみに裁判権を付与しているが、その起草過程から、その他の場合の裁判権の行使も禁止しないと解されている(1961年「アイヒマン事件」イェルサレム地方裁判所判決、I.L.R., Vol.36, p.39; 「ピノチェト事件」スペイン全国管区裁判所(Audiencia nacional)判決、I.L.R., Vol.119, pp.335-336)。人道に対する罪については、国連総会決議3074(XXVIII)(「戦争犯罪及び人道に対する罪の容疑者の抑留、逮捕、引き渡し及び処罰における国際協力の原則」)に従えば、普遍主義の行使は認められる。ただし、普遍主義の行使は、予審と引き渡し要求の場合を除いて、容疑者が自国領域内にいることを条件とする(2005年万国国際法学会決議)。
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