個人管轄
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:16 UTC 版)
国家管轄権の項で述べたように、国家は、国際法上、個人の国籍に基づき、属人的管轄権を行使できる。ここでは、国籍の決定、取得について述べる。 国籍(nationality; la nationalité)は、個人と国家の連結を意味し、それには二つの側面がある。 まず、国籍決定は、国家の自由である。国家は、自決権に基づきその国民の構成を支配するものとして国籍決定の排他的権限を有する。国際司法裁判所は、1955年の「ノッテボーム事件」判決において、「国際法は、各国家にその固有の国籍の帰属を決定する管理を委ねている」と述べた(C.I.J.Recueil 1955, p.23)。日本も、「国籍法」という形で、日本国籍取得の条件を法律で定めている。国籍取得のあり方は各国が自由にその基準を決めることができ、「血統主義」(jus sanguinis)と「生地主義」(jus soli)がある。日本の国籍法は、血統主義を採用している。また、「帰化」(naturalisation)は、外国人がその国の国籍を有する個人と結婚した場合や、継続的にその国に居所を有することから認められる場合である。 各国家に、国籍決定の自由を委ねている故に、各国の国籍付与が競合することもあり得る(国籍の対抗力)。国籍は、国家の外交保護権の行使の基礎となる。前掲「ノッテボーム事件」では、ノッテボームが34年間にわたってグアテマラに住んでいたこと、彼がリヒテンシュタインへ帰化した後もたびたび戻り彼の利益と活動の中心をグアテマラに保持していること、などから、裁判所は、ノッテボームとグアテマラの「長年にわたる緊密な結び付きの関係」(un lien ancien et étroit de rattachement)を認め、リヒテンシュタインはその要請を不受理と宣告されなければならないと判示した(C.J.I.Recueil 1955, pp.25-26; 皆川『国際法判例集』489頁)。これを「実効国籍の原則」という。 他方、国籍取得は、個人の基本的人権であるという側面も有する。「世界人権宣言」15条は、「すべての者は、国籍を取得する権利を有する」と規定する。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)24条は、児童の国籍取得の権利を認める。国籍は、その国内における人権保障を与えられる重要な要素である。ゆえに近年は、国籍取得の人権としての側面に重点が置かれ、特に国籍による差別の問題が議論される。 日本では、2008年6月4日の最高裁判決で、国籍法3条にある「準正」(legitimation)による国籍取得要件として、「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のものは、認知をした父又は母が子の出生時に日本国民であった場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき」、その子どもは日本国籍を取得すると規定している点につき、今日における社会情勢や家族のあり方の変化により、両親の婚姻を子の国籍取得の条件としているのは憲法14条の法の下の平等に反するとし、国籍法5条の憲法との「適合解釈」を行い、原告の日本国籍の取得を認めた。 最後に、法人の国籍について、連結要素としては、設立準拠法国、支配の場所、株主の国籍が考えられる。1970年の「バルセロナ・トラクション事件」(ベルギー対スペイン)では、ベルギーがその多数の株主の国籍国として外交保護権の行使を主張したが、裁判所は、外交保護権の領域では他の分野と同様に合理的適用が要求されているとし、法人の外交保護については一般に実効的連結に適用される絶対的基準は認められず、様々な結びつきのバランスをとらねばならないとし、「ノッテボーム」判決の適用を否認した。そして、当該法人がカナダで設立されそのカナダ国籍は一般的に認められていること、ベルギーもそれを認めてきたことなどから、ベルギーの訴えを退けた(C.I.J.Recueil 1970, pp.42-44, pars.70-76, pp.50-51, par.100、皆川『国際法判例集』521-527頁)。この判決については、種々の議論がある 。
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