対抗力
対抗力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 16:46 UTC 版)
借地借家法では、借地人・借家人が、借地権・借家権を第三者に対抗するための対抗要件について、民法の特則を置いている(10条、31条)。 そもそも、賃借権は貸主と借主との契約により生じる債権にすぎないため、物権のような絶対性がなく、第三者に対抗することはできないのが民法の原則である。例を挙げると、 Aは地主である甲と土地の賃貸借契約を結び、その借地に家を建てて住んでいた。ある日、甲がその土地を第三者である乙に売却した。土地の新たな所有者となった乙はAに立ち退きを要求した。 Aは家主である甲と建物の賃貸借契約を結び、その借家に住んでいた。ある日、甲がその建物を第三者である乙に売却した。家屋の新たな所有者となった乙はAに立ち退きを要求した。 上記の2つの例では、Aと甲との間の賃貸借契約は、あくまでその2人の間で締結されたものであるから、契約外の乙にとっては無関係である。したがって、Aは乙に対してその土地・建物についての賃借権を主張できず、乙は所有権に基づき、Aに対して明渡しを求めることができることになる(「売買は賃貸借を破る」という原則)。 もっとも、民法上、賃借権を登記していれば、賃借人は、新所有者に対してもこれを対抗することができる(民法第605条)。すなわち、甲が賃貸物件を乙に売却した場合も、賃借人Aは、予め賃借権設定登記を受けておけば、新所有者乙に賃借権を主張し、住み続けることができる。しかし、賃貸借契約においては、特約がない限り、賃借人は賃貸人に賃借権の登記を求めることはできないというのが判例・通説である(大審院大正10年7月11日判決民録27巻1378号)。そして、実際上も、通常の地主や家主は、賃借権を登記することによって得られる強力な効果を嫌い、任意に登記に協力することはまずない。そのため、賃借権設定登記という方法によって賃借人が新所有者に自己の権利を主張するという方法は有名無実化していた。 しかし、これでは、賃貸人が、賃料の値上げに応じない賃借人について賃貸物件を第三者に売却して立ち退かせるなどして、値上げを迫ることもできることになり、賃借人の立場は非常に弱いものになる。そこで、借地人・借家人の地位を保護するために、本法では以下のような規定が設けられている。 借地人は、その土地上に自己名義の登記済建物を所有していれば、第三者に対して借地権を対抗することができる(10条1項)。登記済建物の滅失後2年以内ならば、その土地上の見やすい場所に、建物を特定するために必要な事項、滅失があった日、および建物を新たに築造する旨を掲示することで、第三者に対して借地権を対抗できる(10条2項)。一時使用の借地であっても適用される(25条は10条の適用を排除していない)。登記は「表示の登記」でよい(最判昭50.2.13)が、借地人本人名義の登記である必要がある(家族名義の登記に対抗力を認めなかった判例(妻名義につき最判昭47.6.22、長男名義につき最判昭41.4.27)がある)。 借家人は、建物の引渡しがあったとき、すなわち借家人がその借家に居住等で占有していれば、第三者に建物賃借権を対抗することができる(31条1項)。借地と異なり、一時使用の借家では適用されない(40条は31条の適用を排除している)。 このように、本来は債権に過ぎない賃借権だが、本法の規定により物権と類似する対外的効力を有するに至っている。これを「賃借権の物権化」という。
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