噴火への警戒、対策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/25 14:37 UTC 版)
「桜島の大正大噴火」の記事における「噴火への警戒、対策」の解説
2019年には姶良カルデラ内にある桜島のマグマだまりには、大正大噴火前の約9割のマグマが蓄積されていると推定されており、2020年代のうちに大正大噴火前の蓄積量に到達するものと見られている。そのため大正大噴火級の大噴火が発生するリスクが高まっていると判断されている。また17世紀以降、日本の火山の中で3億トン以上の噴出物を噴出した噴火を複数回起こしているのは、北海道駒ケ岳、有珠山、樽前山、桜島の4火山であり、その他、1926年に噴火に伴う火山泥流で144名の死者、行方不明者を出した十勝岳を加えた計5つの火山が、日本国内で噴火災害の危険性が最も高い火山であると見なされている。 大規模噴火に備え、桜島では鹿児島地方気象台による定常観測の他に、京都大学防災研究所附属火山活動研究センター桜島火山観測所が設けられ、鹿児島大学や大隅河川国道事務所が設置したものを含めて桜島島内に地震計が計18基設置され、傾斜計、伸縮計、GPSによる連続観測体制も整備されており、日本の火山の中でも最も充実した火山観測監視体制が整えられている。この観測網によって大規模噴火の前兆現象を確実に把握できるものと判断されている。 次回の大規模噴火でも、これまでの大規模噴火と同様に桜島の山腹部に噴火口が形成され、桜島全域に火砕流や噴石の影響が及ぶ可能性が高い。そのため、噴火が始まる前に島民の避難を完遂できることが求められる。そこで桜島から鹿児島市街地へフェリーによる避難や、地続きである大隅半島への避難計画が立案されている。避難場所は各集落ごとに指定されており、また風向きによって降灰範囲などが変化することも考慮して、避難先も別地域に複数準備されている。そして桜島の各世帯には桜島火山のハザードマップ、避難マニュアルが配布されている。その上で全住民の避難名簿が作成されており、名簿と紐づけされたバーコードが貼付された防災ヘルメットが全住民に配布されている。また、活動火山対策特別措置法に基づく避難施設緊急整備地域に指定されたことにより、住民や観光客の島内における一時的な避難施設として鹿児島市と鹿児島郡桜島町(当時)は1973年(昭和48年)度から1987年(昭和62年)度にかけて退避壕32基・退避舎20施設、垂水市は1978年(昭和53年)度に退避壕5基を整備した。 緊急避難の後は避難生活の長期化に備え、約1週間後から約2か月後までは宿泊、入浴設備などを備えた研修施設等で過ごし、その後は災害仮設住宅へ移動する計画が立てられている。 大正大噴火が再度起きた場合、風下ではかなり広範囲に1メートル以上の火山灰が降り積もる等、桜島島外でも深刻な火山災害に見舞われる可能性がある。鹿児島市では2017年より大量降下火山灰、軽石に関する検討が始められ、避難対応、救急医療、軽石火山灰除去、ライフライン対策、土石流、河川氾濫対策の6つの作業部会が設けられ、対策の検討が進められている。大量の降下火山灰は道路網に深刻な打撃を与えることが想定されており、そして大正大噴火後に重大な被害が発生した土石流、河川の氾濫、また粒度が細かかった大正大噴火のような火山灰が大量に降下した場合、雨に濡れてセメント状となった火山灰が送電線の碍子にこびりつく等によって、電力供給に深刻な影響をもたらすことが懸念されている。これら道路の復旧、土石流対策、停電対策にはまだまだ多くの課題が残っている。 大正大噴火時には無かった新たな問題も想定されている。例えば大正大噴火開始直後に発生した桜島地震後、流言飛語が飛び交ったあげくに鹿児島市内がパニック状態に陥ったが、ソーシャル・ネットワーク・サービスが発展した現代、善意の危険情報がネット上で拡散されて混乱に拍車をかける可能性が指摘されている。また航空網の発達の結果、大正大噴火級の大噴火が発生した場合、航空輸送に深刻な打撃を与えることが懸念されている。とりわけ西風が卓越している日本周辺の環境下では、桜島での大噴火は日本国内の広範囲の航空網に打撃を与える可能性が高いと考えられている。 また大正大噴火のステージ3の噴火のように、噴火開始後1年以上経過した後も溶岩の流動が続くような事態も想定され、その場合、長期間にわたって桜島島内の道路網が麻痺すると考えられるなど、まだ検討の俎上に上がっていない防災上の課題も数多いと考えられ、早急により多角的な視点からの防災計画の検討と実行が求められている。
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