可聴域周波数の電波による説明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 02:42 UTC 版)
「電磁波音」の記事における「可聴域周波数の電波による説明」の解説
無視できない報告は多いにもかかわらず、その理論的説明にもまた多数の困難が存在している。 何より、いかに報告が多数であろうとも、こうした現象はまれな上に気まぐれなため科学的に統制された環境での再現性が確保されにくい。 推計では電磁波音は毎日観測して一生に一度体験する程度の頻度だとされる。 また、実在するなら電磁的現象が伝播を担っていると考えられるが、流星から光以外に強い電磁波が出るということは観測されておらず、そうした理論も存在していなかった。 その上、電磁場やその乱れが自然環境の中で音を生み出すという顕著な例は、強い静電場中の放電にともなうコロナ音ぐらいしか知られていなかった。 流星の音を物理的に根拠づけるにはこうした困難をすべて解決する必要があったが、いくつかの手がかりも存在していた。 低い周波数の電波は、まだ流星が出していないと確認されていなかった。 また、核実験では、爆発と地磁気との相互作用によって放出される低い周波数の強力で瞬間的な電磁波(電磁パルス)が実験に参加した兵士に音の感覚を生じさせたという報告があった。 一方、太陽黒点に関しては、磁力線がねじれて密集することでエネルギーを溜めこむという理論があった。 天文学者コリン・ケイは、1978年にオーストラリアのシドニーを含むニューサウスウェールズ州で目撃された非常に大きな火球にともなう音の体験例を調査したことをきっかけに、上のような事実を組み合わせて、1980年に伝達するのが音波の可聴域の周波数に対応するような低い周波数の電磁波だとして説明できるとした磁気スパゲッティ (magnetic spaghetti) と形容した理論を提示した。 ケイのアイデアを精緻化したブロンシュテンの磁気流体力学的解析によればプラズマの電気伝導率が十分に大きなとき、地磁気の磁力線はプラズマの流体に「凍り付き」、乱流がスパゲッティのようにそれを巻き込んでいく。 それによって磁場が強くなるが、一瞬の後、この状態が崩壊するときに数 kHz 台の電波が発生するのだとする。 解析によると、このようなことが起こるためには火球の大きさに関する閾値が存在し、電気伝導率がある値より大きくなるような大火球でなければならない。 強い磁場は数 ms 持続し、崩壊するときにそのエネルギーのうち 1/1000 だけが電波に変わる。 高速な流星の粒子が持っていた運動エネルギーはもともと非常に大きいため、解析では、こうした小さな割合のエネルギーのさらに 1/1000 でも音波に変換されるなら「サラサラ或いはヒューヒューというような音を聞くのには十分」であるとされた。 火球の明るさの下限は −12 等級で、これはほぼ満月の明るさに匹敵する。 火球の電磁波音は2種に大別されると考えられ、そのひとつは連続して聞かれるノイズ状の音であり、もうひとつは一瞬だけはじけるような音である。 ケイとブロンシュテンの理論とは別に、1999年にマーティン・ビーチ (Martin Beech) らが、はじけるような瞬間的な音に対して、強い電場のパルスが原因であるとする理論を提出した。 この理論では、プラズマ中を伝わる衝撃波は電子を強く拡散させ一瞬だけ強い電場を生み出すとする。 音を発生させるのために必要な火球の大きさは磁気スパゲッティ理論による場合よりも小さくおよそ −7 等でよいとされる。 こうした理論にしたがって電磁波が火球から発生しているとしても、ヒトは目で可視光を感じる以外、通常電磁波を直接感じることはできない。 フレイ効果や経頭蓋磁気刺激のように、マイクロ波や強い磁場変化が直接内耳や脳に作用して聴覚を生ずる場合もあるが、考えられている大きさの低い周波数の電磁波でそれを裏付けるような理論や実験はない。 ケイらは可聴域の電磁波が音に変換されることがあるか無音室に座らせた被験者で実験を行った。 その結果、4 kHz で変動するピーク間 160 V/m の電場で一部の被験者に音が聞こえることを確認した。 音を知覚した閾値が低い人の特徴から、ケイは髪の毛やメガネなど身の回りのものがトランスデューサーとなっていると結論した。
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