典型的な誤解とその原因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/15 07:43 UTC 版)
「0.999...」の記事における「典型的な誤解とその原因」の解説
数学の初学者はしばしば 0.999… と 1 が等しいことを理解できない。極限の概念や無限小の性質が日常の感覚と大きく異なっていることがその理由とされる。その共通の要因として次のようなものがある。 生徒は「十進数では、一つの数はただ一通りの小数で表すことができるはずだ」と思い込んでいる場合が多い。表示が異なる2つの小数が等しいことが分かると、それが逆説であるように見える。見かけ上よく知られた数 1 の登場でその感がさらに強くなる。 "0.999…"(または同様の表現)を、多いけれども有限の個数の "9" の列(おそらく可変であり特定できない長さ)として解釈する生徒もいる。たとえ生徒が "9" の無限個の列であることを受け入れたとしても、まだ最後の "9" が「無限の彼方に」あると期待しているのかもしれない。 直観やあいまいな教え方により、生徒は数列の極限を、一つの決まった値ではなくある種の無限操作と考えるようになる。それは数列の各項はその極限に達する必要はないからである。生徒が数列とその極限の違いを受け入れても、彼らは "0.999…" を極限ではなく数列を意味するものと読む可能性がある。 これらの考えは、通常の実数を扱う文脈においては誤っている。しかしながら、通常と異なる場面で適用するために発明された、もしくは、0.999… を理解するのに有益な反例としての、より精巧な数の体系構造においては、それらの考えの多くが部分的に正しいことが示される。 これらの要因の多くはデイヴィッド・トール (David Tall) 教授により発見された。教授は、自らが遭遇した大学生の誤解のいくつかについて、それを生徒に抱かせる原因となった指導法と認識の特徴を研究している。非常に多くの生徒がなぜ最初はこの等式を受け入れないのかを調べるために生徒を面接して、次のようなことを発見した。 「生徒は 0.999… を、決まった値ではなく 1 に限りなく近づく数列として理解し続けようとする。その原因は『先生は小数点以下の桁数がいくつあるかをはっきりと教えていなかった』という指導法の欠陥、または『0.999… は 1 より小さい数の中で、存在しうる、1 に最も近い小数である』という認識である。」 初等的な証明の中で 0.333… = 1/3 の両辺を 3倍する方法は、0.999… = 1 であることを容認できない生徒に受け入れさせるための、最も有効な手段であるかのように見える。しかしながら、第1の等式を信じることと、第2の等式を信じないことの矛盾に直面すると、今度は第1の等式を疑い始める者も現れるし(後述も参照)、または単に不満を抱くだけの生徒もいる。これより簡潔で有効な説明方法もなかなかない。厳密な定義を十分適用する能力のある生徒が、0.999… を含めてさらに進んだ数学の結果に驚いたとしても、なお直観的な想像に頼ってしまうことがある。例えば、ある解析学を学ぶ生徒は 0.333… = 1/3 であることを上限の定義を用いて証明することができるが、その後もなお、昔の筆算の理解に基づいて 0.999… < 1 であると主張した。別の生徒は、1/3 = 0.333… であることを証明することができるが、分数による証明に直面して「論理」が数学の計算を征服していると主張する。 ジョセフ・メイザー (Joseph Mazur) は別の才能豊かな微積分学の生徒について語る。その生徒は「私が授業で言ったことにはほとんどすべて異議を唱えるが、自分の使っている計算機には決して異議を唱えない」。さらに、23 の平方根を計算することも含めて、数学をするのに必要なのは 9桁(程度)だと信じるようになった。その生徒は 9.999… = 10 であるという極限の議論に相変わらず不愉快な感じを抱いていたが、それは「乱暴な推測をする、無限概念の成長過程 (wildly imagined infinite growing process)」と呼ばれる。 エド・デュビンスキー (Ed Dubinsky) による数学学習の理論 (APOS theory) の一部分として、デュビンスキーとその共同研究者 (2005) は、0.999… を「1 から無限に小さい距離だけ離れている数を表す有限で不確定の文字列」であると思う生徒は「無限小数の構成過程の完全な概念がまだ形成されていない」と述べた。たとえ 0.999… の構成過程の完全な概念を身につけた生徒であっても、まだその過程を(すでに持っている "1" の概念と同様の)一つの「対象」としてとらえ直すことができずに、0.999… という一つの過程と 1 という数の存在を矛盾するものととらえるかもしれない。デュビンスキーらはまた、「一つの対象としてとらえ直す」というこの精神的能力が、1/3 それ自体を数と見なしたり、自然数の集合それ自身を一つの対象として取り扱ったりすることと関係していると考えている。
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