五大オペラハウスへ
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日本での公演の後、東京バレエ団は8月25日から約2ヶ月半をかけてヨーロッパの9カ国19都市を回るツアー(「第9次海外公演」)を行った。プログラムは『ザ・カブキ』全幕(Aプロ)と『レ・シルフィード』、『シンフォニー・イン・D』などのミックスプロ(Bプロ)の2種類で、全52公演のうち31公演でAプロを上演することになっていた。ダンサー、スタッフを合わせて110人、総費用7億円という大がかりなツアーとなった。 このツアーにおいてAプロの『ザ・カブキ』は、イギリスのロイヤル・オペラ・ハウス、イタリアのミラノ・スカラ座、ドイツのベルリン・ドイツ・オペラ、オーストリアのウィーン国立歌劇場、フランスのパリ・オペラ座といった、ヨーロッパの伝統と格式を誇る大劇場でもお披露目された。 このうちパリ・オペラ座については、当時は20数年間にわたりフランス以外の団体の上演を認めて来なかったため予定には入っていなかった。しかし佐々木と前オペラ座総裁のマッシモ・ボジャンキーノ(英語版)が旧知の間柄であったことから、そのつてによりフランス文化省と契約する形で2日間の公演を実現することに成功した。 なお、オペラ座での公演が決まるとチケットは売り切れ、新聞『フィガロ紙』などは2日間しか公演を行わないことを閉鎖的であるとしてオペラ座を批判したため、2週間のロングラン公演を2年後に行うことが決まった。 海外公演での『ザ・カブキ』に対する反応は、ロンドンの初日やウィーンでこそ冷やかなものであったが、ロンドンでも最終日にまずまず受け、ミラノやベルリン、パリでは大いに受けた。特にこのツアー最大の山場であるパリ・オペラ座では第1幕の塩冶判官の切腹シーンで割れんばかりの拍手と「ブラヴォー」がかかり、討ち入りの場面で塩冶浪人たちが整列すると大きな拍手、終幕後はブラヴォーと拍手の渦となった。バレエ批評家のジルベルト・クールナン(フランス語版)は"Triomphe!"(「大勝利!」)と思わず叫び、佐々木の隣で鑑賞していたオペラ座学校の校長クロード・ベッシー(フランス語版)も涙で眼を腫らしながらブラヴォーを送った。幕が閉じても手拍子が15分間も続き、幕の後ろでは、ベジャールを含めたスタッフ・キャストがオペラ座での大成功を泣きながら喜びあったという。 オペラ座初日の終演後、舞台の上ではセルジュ・リファールから佐々木に「ディアギレフ賞」が、パリ舞踊大学から主演のエリック・ヴ・アンに「ニジンスキー賞」が贈呈された。 なお、ツアーから帰国後まもない11月3日には、日仏文化の交流に多大な貢献があったとして、日本政府からベジャールに勲三等旭日中綬賞が贈られた。 翌1987年2月27日、28日には東京文化会館で凱旋公演が行われた。それに先立ち、朝日新聞は2月26日付け夕刊でヨーロッパツアーの様子を紹介し、すでにパリ、ベルリン、ポーランドから再演の申し込みが相次いでいるという「成果」を紹介した。一方、『ザ・カブキ』の成功について、演劇評論家藤田洋の次のようなコメントを紹介している。 ザ・カブキ帰国公演 27・28日 上野 「今日化」で先越された本家 歌舞伎は伝統的な様式がきっちき決まっているから、昨年『仮名手本忠臣蔵』を東京の国立劇場で通して上演するのに三日かかった。現代の日本人にアピールするように、全体を三時間ぐらいに圧縮して上演できないだろうか、という懸案を、歌舞伎界の心ある人々は考えていたのだが、それをベジャールに、バレエという西欧芸術の様式によって先を越されたのが、たいへん残念だ。 — 藤田洋(「朝日新聞」2月26日付夕刊)、『朝日新聞縮刷版1987年2月号』、995頁より引用 東京バレエ団第9次海外公演(1986年)日月火水木金土8/24 8/25 サンタンデール B(mix) 8/26 サンタンデール B(mix) 8/27 サン・セバスティアン B(mix) 8/28 サン・セバスティアン B(mix) 8/29 8/30 8/31 9/ 1 ロンドン A ザ・カブキ 9/ 2 ロンドン A ザ・カブキ 9/ 3 ロンドン A ザ・カブキ 9/ 4 ロンドン B(mix) 9/ 5 ロンドン B(mix) 9/ 6 ロンドン A ザ・カブキ*2 9/ 7 9/ 8 9/ 9 ミラノ A ザ・カブキ 9/10 ミラノ A ザ・カブキ 9/11 ミラノ B(mix) 9/12 ミラノ B(mix) 9/13 ミラノ A ザ・カブキ 9/14 ミラノ A ザ・カブキ 9/15 9/16 9/17 9/18 カリャリ A ザ・カブキ 9/19 カリャリ A ザ・カブキ 9/20 カリャリ B(mix) 9/21 カリャリ B(mix) 9/22 9/23 9/24 シュトゥットゥガルト A ザ・カブキ 9/25 シュトゥットゥガルト A ザ・カブキ 9/26 9/27 トリノ A ザ・カブキ 9/28 トリノ A ザ・カブキ 9/29 トリノ B(mix) 9/30 10/ 1 ベルリン A ザ・カブキ 10/ 2 ベルリン A ザ・カブキ 10/ 3 ベルリン A ザ・カブキ 10/ 4 10/ 5 ウィーン B(mix)*2 10/ 6 ウィーン A ザ・カブキ 10/ 7 10/ 8 ブラティスラバ A ザ・カブキ 10/ 9 ブラティスラバ B(mix) 10/10 ブルノ A ザ・カブキ 10/11 10/12 プラハ A ザ・カブキ 10/13 プラハ B(mix) 10/14 10/15 10/16 10/17 パリ A ザ・カブキ 10/18 パリ A ザ・カブキ*2 10/19 10/20 パリ B(mix) 10/21 パリ B(mix) 10/22 パリ B(mix) 10/23 10/24 ブリュッセル A ザ・カブキ 10/25 ブリュッセル A ザ・カブキ 10/26 ブリュッセル A ザ・カブキ 10/27 フランクフルト B(mix) 10/28 ルクセンブルク A ザ・カブキ 10/29 ルクセンブルク A ザ・カブキ 10/30 ルートヴィヒスハーフェン B(mix) 10/31 ルートヴィヒスハーフェン A ザ・カブキ 11/ 1 ノイス B(mix) ※スペインでは『ザ・カブキ』の抜粋を上演している。 「*2」は昼夜2回公演を意味している。
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