主張する領土
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 00:00 UTC 版)
第一次世界大戦中の1916年に、イギリスはフランスやロシア帝国とともにオスマン帝国領を、アラブ人やクルド人などの現地住民の意向を軽視して、自分たちの勢力圏を決める秘密協定「サイクス・ピコ協定」を締結し、戦後その協定に修正を加えて国境線を引いた。オスマン帝国領から西欧列強の植民地となった地域はその後独立したが、シリア、レバノン、イラク、ヨルダンといった国々に分割されたという歴史がある。西欧列強は中東の古い秩序を根こそぎひっくり返してしまった。西欧列強が秘密協定によって引いた国境線によって作られた国々の枠組みは「サイクス・ピコ体制」と呼ばれる。ISILは、目標の一つとしてサイクス・ピコ体制の打破を掲げている。「押しつけられた国境」を消し去ろうとしているかのようである。 ISILは、イラクやシリアなどの中東諸国を、サイクス・ピコ協定に代表されるヨーロッパの線引きにより作られた「サイクス・ピコ体制」だとしてこれを否定し、武力によるイスラム世界の統一を目指している。 2014年、ISILは、「5年後に占拠する領土のプラン」を発表したと報道された(異論もある)。彼らが発表したとされる「領土」はスペインからアフリカ北部、中近東を経てパキスタン、中央アジア、中国西部にまで及んでおり、歴代のイスラム王朝の領土と重なっている(オーストリアの大部分のようにイスラム教徒支配を受けたことのない領域も含まれている)。そしてその区割りは現在の国境とは異なっている。 2014年7月に行われた最高指導者バグダーディーの演説では、ISILは将来的にはローマへ侵攻するとした。 彼らが発表したとされる「領土」には、イラクを除いて古称によると思われる独自の名称が付されている。 アナトール(Anaṭol) - トルコ アンダルス(Andalus) - スペイン、ポルトガル マグリブ(Maghreb) - アフリカ北西部 ヒジャーズ(Hijaz) - サウジアラビア南部 イラク(Iraq) - 現在のイラクからサウジアラビア北部の東半分まで コルディスタン(Koldistan) - トルコ、イラク、イランのクルド人居住地 ホラーサーン(Khurasan) - 西はイランからインドまで、北はカザフスタン、東は中国西部(チベット自治区、新疆ウイグル自治区の西半分)にまで達する。ただしバングラデシュは含まれていない。 シャーム(Sham) - シリア、イスラエルからサウジアラビア北部の西半分まで シナイ(Sinai) - シナイ半島(エジプト東部) コーカズ(Qoqaz…アラビア語で『コーカサス』) - ロシアからイランにかけてのカスピ海西岸。 ウーローバ(Ouroba) - 南東ヨーロッパ及びギリシャ。東はクリミア半島にまで達する。 アルキナナ(The land of Alkinana) - エジプト、スーダン及びリビア東部。 ハバシャ(The land of Habasha) - カメルーンからアフリカの角にかけてのアフリカ中部。 ヤマン(Yaman) - イエメン(「ヤマン」はイエメンのアラビア語での正式名称)。 ただし、中東調査会の高岡豊は、2014年11月の段階で、領土の主張は大義名分に過ぎず、ISILは支配した領域の統治を考えず、イナゴの大群のように移動しながら殺人、誘拐、略奪などを繰り返す運動体にすぎない、とした。また池内恵は、2014年11月の雑誌で「イスラーム国はオスマン帝国の復活を望んでいるのではなく、初期イスラム帝国のように、スンナ派アラブ人のカリフのもとに、イスラム教徒の諸民族や異教徒(キリスト教徒とユダヤ教徒)を支配下におく体制を目指している」とした。
※この「主張する領土」の解説は、「ISIL」の解説の一部です。
「主張する領土」を含む「ISIL」の記事については、「ISIL」の概要を参照ください。
- 主張する領土のページへのリンク