不動態
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不動態(ふどうたい、不働態とも、英:passivation)とは、金属表面の腐食作用に抵抗する酸化被膜が生じた状態のこと[1]。この被膜は溶液や酸にさらされても溶け去ることが無いため、内部の金属を腐食から保護するために用いられる。
酸化力のある酸にさらされた場合や、陽極酸化処理によって生じる。不動態の典型的な被膜の厚みは、例えばステンレスに生じる不動態の場合、数nmである。
すべての金属が不動態となるわけではない。不動態になりやすいのは、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛などやその合金である。また、これらの金属は弁金属(バルブメタル)と呼ばれる。
反応機構
酸化被膜の厚みが時間とともに増加するのだが、この反応機構を解明する要請は大きい。主な要因としては、母材金属の体積に対する酸化被膜の体積、金属酸化物から母材金属へ酸素原子が拡散するメカニズム、酸化物の相対的な化学ポテンシャルなどがある。酸化物層が結晶質である場合、結晶粒間の粒界は、酸素原子が下部の酸化されていない母材金属に到達する主要な経路を形成する。このため、粒界がない酸化ガラス被膜は酸化反応が遅くなる。不動態の形成に必要だが十分でない条件は、電位-pH図に示されている。防錆剤(腐食防止剤)の一部は、塗布した金属の表面に不動態化層を形成するのを促進する。溶液に溶けた化合物(クロム酸塩、モリブデン酸塩)は、金属表面に非反応性で溶解度の低い被膜を形成することがある。
具体例
アルミニウム
アルミニウムは、空気に触れると空気中の酸素により酸化して表面に薄い酸化アルミニウム層を形成する。この酸化アルミニウム層は不動態であり、腐食や酸化を防止する。しかし、一部のアルミニウム合金は、酸化皮膜を形成しないため、腐食から保護されないことがある。
チタン
チタン及びチタン合金の表面は、空気に触れると酸化し、酸化チタン(主に二酸化チタン)の薄い不動態化層を形成する。この不動態化層では、酸化物が徐々に成長し、厚くなっていくので、腐食に対する耐性が向上する。この不動態化層のため、海水のような腐食環境下であっても使用することができる。
実用例
不動態を用いた例として、次のものが挙げられる。
- アルマイト - アルミニウムの陽極酸化処理。希硫酸などを用いた電気分解により、アルミニウム表面に酸化アルミニウムの被膜を形成。
- 電解コンデンサ - アルミニウム、タンタルもしくはニオブを陽極酸化処理し、表面に緻密な酸化被膜を形成した陽極を用いたコンデンサ。
- ステンレス - 含有するクロムの空気酸化により、表面に酸化被膜を形成。
- 発色チタン -チタン、もしくはジルコニウムは、陽極酸化処理によって多彩な発色を呈する。紫外線劣化しない発色法として宝飾品・装飾品に用いられる。
関連項目
脚注
不働態化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 16:24 UTC 版)
炭素鋼を中性の水に浸しておくと、すぐに錆びが発生し、腐食が進む。一般的に、腐食とはアノード反応とカソード反応の組み合わせによって起こるもので、電気化学なメカニズムが腐食の基本原理である。酸素が溶存する中性水溶液中では、以下のようなアノード反応とカソード反応が起きている。 アノード反応(鉄側):Fe → Fe2+ + 2 e− カソード反応(水溶液側):1/2 O2 + H2O + 2 e− → 2 OH− このように、アノード側の鉄が Fe2+イオンとして溶け出て、腐食が進む。 一方、ステンレス鋼を同種の環境においても普通は腐食することはない。このとき、ステンレス鋼の表面には「不働態皮膜」と呼ばれる特殊な皮膜が生まれており、金属がイオンとなって溶け出て行くことをこの被膜が妨げている。不働態皮膜は化学的に安定かつ緻密に表面を覆っており、もしステンレス鋼表面が傷つき皮膜が破壊されても、通常は瞬時に再生する。このように、熱力学的には腐食が本来は進むはずの環境で、不動態皮膜によって腐食が著しく遅くなり、腐食が実質的に止まることを「不働態化」と呼ぶ。不働態化した状態を「不働態」と呼ぶ。不働態化は普通の鉄でも起きる。例えば、鉄を硝酸水溶液に浸したとき、一定以上に硝酸濃度を高くすると不働態化して鉄の溶解が止む。ステンレス鋼が鉄と異なる点は、ステンレス鋼の不働態化は一般的な環境でも起きるという点である。これによって、ステンレス鋼の高い耐食性が実現している。 不働態化の様子は、金属の「アノード分極曲線」から読み取ることができる。アノード分極曲線とは、ある電解質溶液に対象の金属を電極にして浸したときに流れる電流密度を電極電圧の関数として表した曲線で、この曲線における電流密度は金属側の腐食速度を意味する。平衡電位から電圧を増やしていくと、電流密度も上昇していく。しかし不働態化を起こす金属の場合、ある電位で電流密度がピークを打ち、その電位を超えると電流密度が急激に下がりだし、電流密度が低いレベルで一定を保つようになる。この低いレベルで電流密度が落ち着いている状態が不働態である。不働態になる前のピークの電流密度を「臨界不働態化電流密度」、臨界不働態化電流密度を示すときの電位を「不働態化電位」、不働態化しているときの電流密度を「不働態維持電流」という。そして、さらに電位が増えると、ある程度以上の電位で電流密度が再度増えだし、不働態皮膜が溶解して活性状態に戻る。 このアノード分極曲線における臨界不働態化電流密度が、金属が不働態化する上で重要な特性値となる。一般に、金属が不働態化するには、臨界不働態化電流密度よりも大きな電流がカソード反応から提供される必要がある。不働態化するには、環境側によって決まるカソード分極曲線がアノード分極曲線の臨界不働態化電流密度のピークを乗り越え、不働態域に行き着いて平衡状態になる必要がある。よって、臨界不働態化電流密度が低ければ低いほど、金属は不働態化しやすい。クロムを鉄に添加すると、クロム含有量を増やすにつれて臨界不働態化電流密度は下がり、不働態化電位も低くなり、不働態域が広がる。すなわち、あまり酸化性が強くない環境でも不働態化しやすくなる。さらに、クロム含有量を増やすにつれ、不働態維持電流も小さくなり、不働態が安定する。このクロムの効果が、ステンレス鋼の定義においてクロムの一定以上の含有を必須としている理由である。鉄に添加して有効な不働態皮膜を発生させることができるクロム以外の元素は、現在までのところ見つかっていない。 ステンレス鋼が作る不働態皮膜の詳細は現在も様々な手段による解析が行われており、まだ正確には解明できていない面もある。不働態皮膜の厚さは、組成や環境にもよるが、1–3 nm ないし 1–5 nm と極めて薄い。そのため、皮膜が肉眼で見えることはない。 ステンレス鋼の不働態皮膜の構造は2層構造となっており、外層側が水酸化物、内層側が酸化物となっている。内層酸化物は3価クロムイオン (Cr3+) が濃縮して構成しており、ステンレス鋼の素地と皮膜は、酸化物イオン (OH−) を介して結合していると考えられている。この内層酸化物が、不動態皮膜の耐食性を主に生み出していると考えられている。解析結果の一例だが、水和オキシ水酸化クロム (Cr-O-OH-H2O) と呼ばれる錯化合物が主体として皮膜を構成しているというモデルが考えられている。また、不動態皮膜は非化学量論的化合物であり、明確な結晶構造を持たない。クロム量が多いほど、非晶質構造の度合いが大きくなる。 ステンレス鋼が弾性変形しても、不働態皮膜もそれによく追従して破壊されることはない。上記でも述べたとおり、もしステンレス鋼表面が傷ついて皮膜が機械的に破壊されても、瞬時に再生する性質を持つ。また、ステンレス鋼の不働態皮膜は半導体型で、クロム 20 % 程度までではn型半導体、それ以上ではp型半導体となっている。 鉄とクロムの2元合金に、さらにニッケルやモリブデンなどの他の元素を加わえても、耐食性向上の効果がある。ニッケルは、臨界不働態化電流密度と不働態維持電流を小さくする。モリブデンも臨界不働態化電流密度を小さくする。しかし、いずれの元素も不働態化電位を高くする。モリブデンは不働態中には存在しないが、不働態皮膜の再生を助ける働きをすると考えられている。
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