リカード・モデルとは? わかりやすく解説

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リカード・モデル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/27 06:50 UTC 版)

1772年生まれのイギリスの政治経済学者、デヴィッド・リカード

リカード・モデル(: The Ricardian model)は、国際貿易が起こる理由は国家間で各産業の生産性が異なるからであると説明し、さらに貿易開始によって国の厚生が改善すると示す理論モデルのこと[1][2]1772年生まれのイギリスの政治経済学者、デヴィッド・リカード[3]が提示したモデル[1][2][4]。限界生産力逓減の法則、the Ricardian economicsともいう。

歴史的背景

デヴィッド・リカードは27歳のとき、アダム・スミスの『国富論』を読み、そこで提示されていた様々な概念を応用してリカード・モデルが構築されるに至った。リカード・モデルの原型とも言えるアイディアは1817年出版の『経済学および課税の原理』 に記述されている。そこには、地代の理論、労働価値の理論、そして比較優位の理論について記述されている。

リカードはアダム・スミスを読んでから10年後に最初の経済学論文を書き、最終的に「金銀論争」によって19世紀イギリスのインフレーション理論で経済学界に名声を得た[1]。この理論はマネタリズムとして知られるようになり、過剰な通貨がインフレーションを引き起こすという理論である[5]。彼はまた古典派経済学の成立にも寄与しており[6]自由貿易[7]や政府による法の強制や貿易障壁のない競争を擁護した[8]

モデルの概要

国際貿易のモデルであるリカード・モデルは、国が貿易を開始すると各国が比較優位産業に特化し、国全体の生産性が改善し、厚生が改善することを示す[2][9]

ルディガー・ドーンブッシュスタンレー・フィッシャーポール・サミュエルソンは、連続的な空間に財が無数に存在する経済で、どのように比較優位産業が決定されるか考察している[10]

収穫逓減の法則

リカードが『穀物価格低下が資本利益に与える影響についてのエッセイ』で示したもう一つの重要なアイデアが収穫逓減の法則である[11][5]。収穫逓減の法則[12]とは、生産要素の一つに追加の単位を投入し、他の要素を一定に保つと、その追加単位によって生み出される産出量は次第に小さくなり、最終的には全体の産出量が増加しなくなるというものである[13][14][15]

比較優位

リカードは関税やその他の国際貿易制限に反対した。彼が考案した比較優位の理論は、ある国が他の国と比べて特定のをより低いコストで生産できる能力を意味する[5]。リカードは『経済学の原理』で、比較優位はより効率的な生産を生み出すための専門化技術であると述べ(52)、生産者間の機会費用について記述している。完全競争と歪みのない市場が存在する場合、各国は自国が比較優位を持つ財を輸出する傾向がある。

数値例

例えば、2つの国がカードと鉛筆を同じ時間で生産できると仮定する(下表参照)。国1は、カード1単位の代わりに鉛筆4本を生産できるが、鉛筆1本を作るためにはカード1/4単位の生産を犠牲にする。同様に国2は、カード1単位の代わりに鉛筆2本を生産できる。

カード1単位 鉛筆1本
国1 鉛筆4本 カード1/4単位
国2 鉛筆2本 カード1/2単位

国2がカードの生産に特化すれば、鉛筆1本の代わりにカード1/2単位を生産できる。この例では、国1は鉛筆において国2よりも比較優位(4本対2本)を持ち、国2はカードにおいて国1よりも比較優位(1/2単位対1/4単位)を持つ。リカードの比較優位の考え方によれば、両国はそれぞれ得意な財の生産に特化すべきである。『フォーチュン経済学百科事典』によれば、リカードの比較優位の理論は「現代の経済学者の大多数が自由貿易を支持する主要な根拠」である(827)[要検証]

リカードモデルに見る収入の概念。下から賃金、収益、賃借料

現代における利用

19世紀の人物であるデヴィッド・リカードの理論は、現代経済学においても広く利用されている。彼の経済地代理論は主に農業モデルに基づいており、生産性の高い土地はより多くの収穫を可能にし、市場は有利・不利な土地の作物に同一価格を支払うため、生産者はより多くの収益を得るために高い地代を支払ってでも良質な土地を求めた[5]

また、リカードは最低賃金についても影響力のある理論を持っていた。人口増加により職の需要が増えると賃金は低下し、人々が生き残るために低賃金でも職を受け入れるため、生活を支えられない水準にまで下がると指摘した[2]。この観察は現代の最低賃金法を巡る議論においても重要な示唆を与えている。

参考文献

主な著者、編者の順。

  • “David Ricardo 産業間貿易比較優位:技術(生産性)格差各国間の生産の機会費用の差異による特化” (電子書籍・電子雑誌). 通商白書 (経済産業省). (2021-06). 
  • 大日本百科辞書編輯所 編「(David Ricardo)」『経済大辞書』同文館〈大日本百科辞書 4〉、1924年、(コマ番号:451)頁。 
  • ロッシアー 著、杉本栄一 訳、福田徳三、坂西由蔵 編『英国経済学史論 : 十六・十七両世紀に於ける図書』 第6冊、同文館〈内外経済学名著〉、1947年、(コマ番号:14)頁。「デヴィツド・リカルド【DavidRicardo】の死に至るまでであった。」 昭和22年。
洋書
  • Henderson, David R (1993). “David Ricardo” (英語). The Fortune Encyclopedia of Economics. pp. 826 *Fusfeld, Daniel R (1990). “Ricardo, David.” (英語). The World Book Encyclopedia (1990 ed.) 

関連資料

  • 田中忠夫「第4章 デイビツト、リカルド」『経済思想史概説』広文堂、1929年、(コマ番号:44, 56, 61, 63-65, 93, 97, 108)頁。doi:10.11501/1279135国立国会図書館書誌ID:1279135 昭和4年。
  • 渡辺一郎「デヴッド・リカアド(David Ricardo)」『経済学説の史的研究 : スミス・マルサス・リカアド』三省堂、1935年、199-369頁。 昭和10年。
  • 水野正夫「移転価格税制と関税評価制度の接点」(電子書籍・電子雑誌)『税法』第577号、日本税法学会、2017年5月、191-219頁。 
  • 進化経済学会 第18回金沢大会実行委員会, ed (2014-03-14). [proceedings_No18-1.pdf “Forttnightly Review, April, reprinted in A.C. Pigou (ed.)”] (PDF). 進化経済学会 第18回金沢大会 発表論文集 (進化経済学会). proceedings_No18-1.pdf 2025年7月27日閲覧。. 別題『進化経済学論集 第18集』。

脚注

記念の銘板。キングスクロス地区ゴードン街30番(ロンドン)
  1. ^ a b c Henderson 1993
  2. ^ a b c d Fusfeld 1990
  3. ^ 『経済大辞書』 1924, (David Ricardo)
  4. ^ ロッシアー 1947, pp. (コマ番号:14)
  5. ^ a b c d Henderson 1993, p. 826
  6. ^ Glossary A-D”. Environmental Science [環境経済|索引]. 2025年7月26日閲覧。
  7. ^ Glossary [索引]”. 2007年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年12月3日閲覧。
  8. ^ Fusfeld 1990, p. 325
  9. ^ Bernhofen, Daniel M. (2005-11). “Gottfried Haberler's 1930 Reformulation of Comparative Advantage in Retrospect” (英語). Review of International Economics 13 (5): 997-1000. ISSN 1467-9396. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-9396.2005.00550.. 
  10. ^ Dornbusch, R.; Fischer, S.; Samuelson, P. A. (1977). “Comparative Advantage, Trade, and Payments in a Ricardian Model with a Continuum of Goods”. The American Economic Review 67 (5): 823-839. https://www.jstor.org/stable/1828066. 
  11. ^ Basic economic principle”. www.delaval.com. 2006年10月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年12月3日閲覧。
  12. ^ 鈴木喜以智(山形県米穀課) (1938-12-05). 大蔵省印刷局. ed. “広告:「収穫逓減の法則は作用しをるや」目黒書店『月刊農業と経済』12月号”. 官報 (日本マイクロ写真) (3576): 160(コマ番号:17). doi:10.11501/2960068. 国立国会図書館書誌ID: 2960068. 
  13. ^ 「第52回 第五類」『帝国議会衆議院委員会議録』第00030号、衆議院事務局、1935年、(コマ番号:101)、doi:10.11501/1448012。「現在ニ於テ適當トカ、収穫逓減ノ法則ガクッ付イテ、ソシ間違デアル、量ト云フコトヲ考ヘズ、価格ダケヲ御考ニナッテハドウデスカトシテ」 
  14. ^ 衆議院「第65回」『帝国議会衆議院委員会議録』第00220号、衆議院事務局、1935年、(コマ番号:327)、doi:10.11501/1448541。「所謂収穫逓減ノ法則ニ制セラレテ、無暗ニ金ヲ掛ケテモサウハ増加シナイ、デアルカラ先程農林大臣ガ農村ノ今困難ナ原因ハ」 
  15. ^ 衆議院「衆議院速記録用字例」『帝国議会資料 > 便覧』、衆議院事務局速記課、1940年、(コマ番号:76)、doi:10.11501/1900214。「生産費ノ低減逓減-収穫逓減ノ法則、逓増逓減、員逓次」 

関連項目

50音順。

人名

外部リンク


比較優位

(リカード・モデル から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/21 07:40 UTC 版)

比較優位(ひかくゆうい、: comparative advantage)とは、経済学者であったデヴィッド・リカードが提唱した概念で、比較生産費説リカード理論と呼ばれる学説・理論の柱となる、貿易理論における最も基本的な概念である。アダム・スミスが提唱した絶対優位(absolute advantage)の概念を柱とする学説・理論を修正する形で提唱された。

これは、自由貿易において各経済主体が(複数あり得る自身の優位分野の中から)自身の最も優位な分野(より機会費用の少ない、自身の利益・収益性を最大化できる生産)に特化・集中することで、それぞれの労働生産性が増大され、互いにより高品質の財やサービスと高い利益・収益を享受・獲得できるようになることを説明する概念である。

アダム・スミスの絶対優位は、各分野における経済主体間の単純な優劣を表現するに留まるため、自由貿易と分業の利点や実態が限定的にしか表現できていないのに対し、リカードの比較優位は、各経済主体内において複数あり得る優位分野間の時間的な収益性・効率性の比較とその選択・集中にまで踏み込むため、より精度の高い自由貿易・分業の説明・擁護に成功している。

  • 比較優位における労働生産性とは一人当たりの実質付加価値高を意味する。
  • 比較優位の解説に際しては、国家による統制を核としている重商主義に対する批判から始まった歴史的な経緯もあって、国家間の貿易がよく引き合いにされるが、地方公共団体及び企業や個人などのあらゆる経済主体においても同様である。

概念

18世紀アダム・スミストーマス・マンが提唱した重商主義を批判した。重商主義に基づき貨幣などの金融資産の蓄積を目的として、保護貿易や貿易相手からの搾取を行っても、植民地維持の費用増大を招き、自国内で権力者のみが富むだけで、その経済主体全体の生活水準の向上には結びつかないからである。

そして、アダム・スミスは1776年自由貿易の重要性と社会的分業による労働生産性の向上を説いた。これは絶対優位にもとづいていたが、これでは交換の利益を説明しきれていなかった。なぜならば、絶対優位においては労働量資本力を重視し他の経済主体よりも得意な分野に特化するので、絶対優位にある経済主体と絶対劣位にあるそれとでは、前者が一方的に利益を得て後者が一方的に損害をこうむる。しかし、これは貿易による現実とは相容れない。

デヴィッド・リカードは1817年に彼の理論を拡張して比較優位の概念を発表した。ここでいう比較とは、労働生産性の各経済主体間の比較ではなく、ある経済主体内での各産業間での比較を意味する[1]。その各産業間での生産性格差[注釈 1]を他の経済主体のそれと比較すること、つまり、経済主体内での相対的有利さを経済主体ごとに比較したときにどちらが優位であるかという二重の相対比較が比較優位である。絶対優位であっても、両方に比較優位はあり得ない。

さらに、労働力なども含めた資源は有限であり、あらゆる産業において絶対劣位にある経済主体でも比較優位な産業は存在する。仮に資源が無限にあれば、絶対優位のある経済主体のみで生産を行うことが最適となるが、現実には資源は有限であるためにある財の生産を行う場合には他の財の生産を諦めるという機会費用が発生する。直接的な費用だけではなく、この機会費用まで含めて考えれば、絶対優位にあるからといってその財を生産することが最適とは限らなくなる。

絶対優位と比較優位の比較
視点 絶対優位 比較優位
提唱者 アダム・スミス デヴィッド・リカード
生産要素 労働量資本力 労働生産性
生産要素を誰と比較するか 他者 他者
他の経済主体と何を比較するか 労働生産性(最大化) [生産性⇔機会費用]
何に特化するか 他の経済主体より得意な分野 機会費用の低いもの(生産性の高い方)

単純化された例

ポール・サミュエルソンは、比較優位を「弁護士と秘書」の例で以下のように説明している[2]

有能な弁護士Aは、弁護士の仕事だけでなく、タイプを打つ仕事も得意だったとする。秘書は、弁護士・タイプの仕事において、弁護士Aより不得意である。更に、秘書はタイプはそこそこできるが弁護士の仕事はほとんどできない。しかし相対的な比較として各自の弁護士の仕事の能力を基準にすれば、秘書のタイピング能力は弁護士Aより優位であると見ることができる。このような場合、弁護士Aは弁護士の仕事に特化し、秘書にタイプの仕事を任せる。それが、弁護士・タイプの仕事が最も効率よくできるからである。

弁護士がタイプを打つと、弁護士報酬という機会費用を捨てることになる。弁護士がタイプを打つのは、恐ろしい機会費用がかかっていることになる。秘書がタイプを打っても、機会費用は低い。無駄な事をしない=何がトクかを常に考える(時間でも費用でも)ことが、「比較優位」を実践していることになる。

具体例

比較優位の提唱者であるデヴィッド・リカードのメシュエン条約の引用例に従って、グレートブリテン王国(以降「イギリス」)とポルトガル王国(以降「ポルトガル」)の2国及び毛織物ワインの2財をモデルにする。

今、イギリスの全労働者が1単位時間分だけ働いた場合の生産量を、毛織物なら

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。 記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。2015年1月

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