利益がもたらされる経路
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/18 01:48 UTC 版)
「貿易の利益」の記事における「利益がもたらされる経路」の解説
貿易の利益として以下のものが挙げられる。 完全競争市場のモデルが示唆するような、価格の低下による消費者余剰の増大による利益。完全競争市場ではなくても、貿易による競争の激化でマークアップが低下し、それによって価格が低下するメカニズムもある。 リカードモデルが示唆するような国際貿易による生産の国際分業、特化による利益。 ポール・クルーグマンの独占的競争市場の貿易理論が示唆するような規模の経済, 集積の経済、そして消費者が購入可能なバラエティの増加による利益。 マーク・メリッツ(英語: Marc Melitz)の異質的企業の貿易理論が示唆するような産業内・企業間の資源再配分による生産性の利益。 リカードモデルやヘクシャー=オリーン・モデルのような伝統的な理論では、閉鎖経済と自由貿易経済を比較して貿易の利益を議論することが多い。2国2財のモデルにおいて、国際貿易によって比較優位のある産業に特化し、さらに交易条件が改善し両方の財の消費量が増大することから無差別曲線が右上にシフトする。これによって消費者の効用水準が上昇することから、貿易の利益が生じる。また、輸入財に賦課される関税が低下することによって消費者余剰が増大することの利益も貿易の利益に含まれる。国の需要と供給が国際価格に影響しない小国の場合は関税を取り払うことで必ず厚生水準が改善するが、交易条件効果のある大国のケースでは、正の最適関税が存在し、関税を低下させることで必ずしも厚生が改善しないことがある。 デヴィッド・リカードは、1817年に出版された本で比較優位の原理を説明し、貿易の利益の解析的な説明を行っている。ポール・サミュエルソンの1939年と1962年の論文において、貿易の利益がもたらされる厳密な理論的な条件が明らかにされた。アロードブリューモデルにおいて開放経済に移行することで誰の効用も低下しない条件の導出は1972年のムーレイ・ケンプの論文でなされた。 1970年代後半から1990年代前半にかけて発表された一連のポール・クルーグマンの独占的競争市場の理論では、企業が生産する際に固定費用を支払うことから、貿易によって生産量が増大すると平均費用が低下し、それによって企業に利益がもたらされるという貿易の利益も議論された。しかし、参入・退出が自由なモデルでは企業の利潤が常にゼロになるように企業数が調整されるため、貿易が開始されても企業の利潤が増加することはない。また、独占的競争市場の理論では、消費者の選好がCES効用関数で記述され、消費できる財のバラエティが増加すると効用が上昇するように仮定されている(ラブ・オブ・バラエティ, Love of variety)。このことから、国際貿易が開始されて外国のバラエティが輸入されると消費者の効用水準が上昇する。これらの経路が新しい貿易の利益の源泉として90年代以降脚光を浴びた。 2003年に発表されたマーク・メリッツ(英語: Marc Melitz)の異質的企業の貿易理論では、国際貿易によって生産性の低い企業から生産性の高い企業に資源が再配分されることによる産業の平均生産性の上昇を新しい貿易の利益として強調している。国際貿易が起こって国内市場で競争の程度が激しくなると生産性の低い企業が市場から退出する。一方で、生産性の高い企業は輸出を開始するので資源をより多く必要とするようになる。このように、生産性の低い企業が退出、生産性の高い企業の利潤が増大することで、収入ベースで測った産業の平均生産性が上昇する。ダニエル・トレフラーはカナダのデータからこの理論的予測と整合的な実証的事実を得ている。
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