貿易の利益
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/23 08:21 UTC 版)
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貿易の利益(ぼうえきのりえき、英: Gains from trade)とは、国際貿易がもたらす利益のこと[1][2]。様々な貿易の利益がある[3]。
概要
価格の低下
貿易を開始することで相手国から輸入財を低価格で購入できるようになる利益がある。また、貿易による競争促進効果(英: The pro-competitive effect of trade)でマークアップが低下し、価格が低下するメカニズムもある[5]。
関税の低下も輸入財の価格を低下させ、消費者余剰が増大させる利益もある[1]。国の需要と供給が国際価格に影響しない小国の場合は、関税を取り払うことで必ず厚生水準が改善するが、交易条件効果のある大国のケースでは正の最適関税が存在し、関税を低下させることで厚生が改善しないこともある[6] [7]。
伝統的貿易理論
リカードモデルやヘクシャー=オリーン・モデルが示唆するような比較優位産業に特化することによって生じるマクロ生産性改善の利益がある。国際貿易によって国が比較優位のある産業に特化し、比較劣位産業の財を安く輸入できることから交易条件が改善し、無差別曲線が右上にシフトする。そして、消費者の効用水準が上昇することから貿易の利益が生じる[8]。デヴィッド・リカードは、比較優位の原理を説明し[9]、貿易の利益の解析的な説明を行っている[10][注 1]。ポール・サミュエルソンの1939年と1962年の論文において、貿易の利益がもたらされる厳密な理論的な条件が明らかにされた[11]。アロードブリューモデルにおいて開放経済に移行することで誰の効用も低下しない条件の導出は1972年のマレー・ケンプの論文でなされた[12]
新貿易理論
新貿易理論と呼ばれるポール・クルーグマンの独占的競争市場の貿易理論は、伝統的貿易モデルにはない新しい貿易の利益の源泉を示唆する[13]。企業が生産する際に固定費用を支払うことから、貿易によって生産量が増大すると平均費用が低下し、それによって企業に利益がもたらされるという貿易の利益も議論された[13]。しかし、参入・退出が自由なモデルでは企業の利潤が常にゼロになるように企業数が調整されるため、貿易が開始されても企業の利潤が増加することはない。また、独占的競争市場の理論では、消費者の選好がCES型効用関数で記述され、消費できる財のバラエティが増加すると効用が上昇するように仮定されている(ラブ・オブ・バラエティ, 英: Love of variety)。このことから、国際貿易が開始されて外国の財バラエティが輸入されると消費者の効用水準が上昇する[14]。実際、輸入財バラエティの増加でアメリカの消費者が利益を得ていることがデータを用いて示されている[14]。
新々貿易理論
新々貿易理論と呼ばれるマーク・メリッツの異質的企業の貿易理論が示唆するような産業内・企業間の資源再配分による生産性の利益もある[15]。国際貿易によって生産性の低い企業から生産性の高い企業に資源が再配分されることによる産業の平均生産性の上昇を新しい貿易の利益として強調している[15]。国際貿易が起こって国内市場で競争の程度が激しくなると生産性の低い企業が市場から退出する。一方で、生産性の高い企業は輸出を開始するので資源をより多く必要とするようになる。このように、生産性の低い企業が退出、生産性の高い企業の利潤が増大することで、収入ベースで測った産業の平均生産性が上昇する。ダニエル・トレフラーはカナダのデータからこの理論的予測と整合的な実証的事実を得ている[16]。
計測
学術研究では自然実験を利用した計測値と、理論モデルにデータをあてはめて計測した計測値がある。理論モデルに基づいた計測について、イェール大学のコスタス・アルコラキスらは、同質的企業の独占的競争市場の貿易モデルでは以下の式で貿易の利益を表現できることを示した[17][4]。
貿易の利益
貿易の利益
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 15:41 UTC 版)
詳細は「貿易理論#貿易の利益」を参照 貿易は(完全競争の下では)それに関わった双方の国に利益(総余剰)をもたらす事が知られている。貿易の利益には、さまざまなタイプがある。以下はその一例である。 これを再び小麦を例にして説明する。簡単の為、両国では同じ通貨を使っているものとして話をすすめるが、別の通貨を使っていたとしても結論は同じである。 輸入によりA国では小麦の価格が下がる。仮に一袋あたり100円価格が下がったとする。するとA国の小麦農家の利益は1袋あたり100円少なくなってしまうが、この減少分は価格低下によりA国の消費者が小麦を100円安く買える分の利益で相殺される。しかも小麦の価格が下がったのであるから、A国の消費者は小麦を単に安く買えるだけでなく、以前より多くの小麦を買えるという利益も得られる。よって国全体で見た場合、A国では貿易により利益が生じる。 B国では逆に小麦の値段が上がる。仮に一袋あたり50円価格が上がったとする。するとB国の消費者は一袋小麦を買うのに50円多く払わねばならず、損をする。しかしその分、B国の小麦農家の儲けは一袋あたり50円多くなるので、消費者の損は小麦農家の儲けにより相殺される。 また値段が上がったせいでB国内で小麦が売れる量が減少してしまうが、余った小麦は、より売れ行きがよいA国で売る事ができる。しかも前述のように、A国の方が小麦の値段はB国のそれを下回らない。よって小麦農家の利益は貿易により増加する。従って国全体で見た場合、B国でも貿易により利益が生じている。 以上のように、国全体で見た場合、貿易に関わったA国、B国の双方に利益が出る。しかし国内での利益には偏りが生じる。A国では、小麦農家は損しているが、消費者はそれを上回る得をしている。一方逆にB国では消費者は損をしているが、小麦農家はそれを上回る得をしている。
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