ユニバーサルデザインへの批判や誤解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/11 01:55 UTC 版)
「ユニバーサルデザイン」の記事における「ユニバーサルデザインへの批判や誤解」の解説
ユニバーサルデザインという言葉は、1997年のグッドデザイン賞(Gマーク)において「ユニバーサルデザイン賞」が設置されたのを契機に、日本国内において使われるようになった。 グッドデザイン賞において審査委員長を務めた川崎和男は、「ハートビル法、ノーマライゼーション、バリアフリーなどの呼称は、少数派といわれてきた領域を、デザインの対象にしているようだが、実は、デザインそのものの本質を語り直しただけにすぎない。デザインの本質を浮かび上がらせるという点においては、確かに行政から市場経済に対して、一般的な認識を促すことができた。しかし、流行語となったことで、以降、現在(注:2003年ごろ)に至るまで、その本質は見失われてしまった。」と日本国内におけるユニバーサルデザインの状況を批判している。 アメリカでユニバーサルデザインが誕生した社会的背景として、公民権運動の流れから施行されたADA(障害を持つアメリカ人法)という法律の存在がある。建築家であり教育者であるロナルド・メイスは、この法律の限界を踏まえたうえで、あらゆる人が快適に暮らすことができるデザインとしてユニバーサルデザインを提唱した。一方、傷痍軍人や障害者といった人々の自立と雇用を促進し、納税者へと変えることによって低コストな社会を実現して国力低下を防ぎたいアメリカの思惑とも合致したことが、アメリカ社会においてユニバーサルデザインが受け入れられていく土壌ともなった。 また、川崎和男は「彼(ロナルド・メイス)による7原則論が基本と考えられているが、それは米国中心の考え方にすぎない。日本では、1989年の世界デザイン会議で、NASAのデザイナーであった、故マイケル・カリルが初めて提唱している。元々は、WHOの国際障害者年(1980年)のための、メイスンのレポート「バリアフリーをめざして」(1970年)で登場した言葉といわれているが、一方では、カリルによる、先進国家特有の消費経済主義に偏った訴訟社会批判の意味を持った言葉であり、メイスにも影響を与えたと私は考えている。」と、ユニバーサルデザインが生まれた背景について解説している。 バウハウス以来、デザインは人々の暮らしをある種の「規格」にあてはめることによって、合理主義・機能主義的で、大量生産を前提とした工業化社会と芸術のあり方を示し、自由で豊かな生活を実現してきた。反面、デザイン(とその思想を前提とした社会)は人間の持つ多様性を容認せず、規格(モジュール)に縛りつけてしまうという逆説的かつ重大な欠陥を抱えることになった。このことは、「自分の体型に合った服を既成品に見つけることが難しい」という日常的な体験に置き換えて考えると理解しやすい。こういったデザインの理想主義的な側面は、ユニバーサルデザインにおける「誰もが使いやすい」という実現不可能な幻想へとつながっている。このことを踏まえ、川崎和男は日本におけるユニバーサルデザインの問題点を次のように指摘する。 「日本では、高齢化社会を迎えるにあたって、商業的・行政的に最もふさわしい言葉として重宝されている。「誰もが使いやすいモノやコトのデザイン」という定義が一般化してしまったことは、この言葉の本質を訴求するうえでは、大きな誤用であったと指摘しておきたい。(中略)『誰もが使えるモノ』などあるわけがなく、高齢者や幼児、障害者すべてに対するデザインが、いわゆるユニバーサルデザインそのものの本質において、デザインの理想主義の確信を強調させた意味を持っているだけである。」川崎和男は、「必要なのは、この流行語を、『ヒューマン・センタード・デザイン』という言葉による再定義によって、その本質をもっと訴求することである」と述べている。 なお、このようなユニバーサルデザインへの誤解、すなわち一つのものが全員に使えるデザイン、および障害者向けのデザインという誤った理解が、日本のプロダクトデザイナーの間に普及してしまったために、社会全体を、子どもからシニア、外国人や女性、左利きなど、多様な人が不便に感じない社会を作り出すというユニバーサルデザインの思想は、日本では浸透しきれていない。 また、ユニバーサルデザインという言葉の誤用によりに誤解を生じた例もある。例えばユニバーサルスプーンという名称で流通している製品は、高齢者の介護現場で使われることを意識して作られたものもあり、これが必ずしも障害者全般に使いやすいとは言えない状況である。このような、誤用から来る誤解を払拭することは容易ではない。
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