ブロードバンドの到来と音源、コンピュータの高性能化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 08:13 UTC 版)
「デスクトップミュージック」の記事における「ブロードバンドの到来と音源、コンピュータの高性能化」の解説
MIDIファイルがインターネットで多く配布されるようになったもう一つの要因として、音声データそのものと比較して圧倒的にデータ容量が少ないことが挙げられる。しかしインターネットのブロードバンド化が進んで大容量データを高速に送受信できるようになり、データ容量の差に対する感覚は徐々に解決されてゆく。 加えて、パソコンの高性能化によって手軽にオーディオデータが扱えるようになり、制作したデータの容量を圧縮するMP3などの圧縮フォーマットが広まったことで、MIDIファイル(つまり演奏情報)ではなく音声そのものを録音して公開するという選択肢が現実的になってきたのである。ブロードバンドの普及に伴ってMIDIファイルを配布するサイトが減少し、そのようなコンテンツを扱うコミュニティも人気が無くなっていく状態となった。音声ファイルを公開する場合、制作側と聴く側のMIDI環境を統一しなくても良いため、標準規格を持ついわゆるDTM向けの音源を必ずしも導入する必要は無い。このため、制作した楽曲を公開したいと考える制作者も前述のようなSCシリーズやMUシリーズ以外を選ぶことができるようになった。 このような流れを反映してか、メーカーの戦略にも変化が生じる。例えばSD-90などの近年のローランドのDTM音源は、MIDIだけでなくオーディオデータを扱えるという点を売りにするようになった。しかし、SD-90はかつてのデファクトスタンダードであったSC-88ProやSC-88VLに比べて普及しなかった。SDシリーズ最高峰のモデルSD-90、SD-80は最大同時発音数128音というSC-88Proの2倍の発音数を持ち、内蔵する波形データこそ違うものの、プロ用シンセサイザーと同等の音源エンジンを搭載していると言われているが、ここまでのスペックはユーザには逆に過剰と思われたのか、それとも、SD-90/80にはSC-88/SC-88Proと直接互換性のある音色モードが用意されていなかったせいか買い換えが進まず、SC-88ProやSC-88VLは現在でもなおMIDIデータ作成における標準的位置を占めている。 また、SD-90と同時期のヤマハのDTMフラッグシップモデルであるMU2000は、ユーザーが独自に音色を追加できるサンプリング機能をはじめとして、AN音源やVA音源といったDSPで発音する拡張音源ボードをオプションで取り付けることができる。しかしそれらの機能を全て発揮させようとすると、DTM音源で重要とされる、異機種間の演奏データの互換性が損なわれることになる。これはDTM音源の最高位モデルとプロ用のシンセサイザーモジュールとの垣根が曖昧になりつつあることの好例であるといえる。 ヤマハ社の音源モジュールはかつて非常にラインナップが多かったが、DTMにおけるフラッグシップモデルであったはずのMU2000は単体製品としての製造は完了し、プロ向けシンセサイザーモジュールMOTIF-RACK ESと、ディスプレイ無しのXG音源MU500という製品構成となっており、パワーユーザーにはシンセサイザーモジュールを、初心者には安価なDTM音源を、という選択肢になっている。 同様にローランド社もDTMにおけるフラッグシップモデルであるSD-90/80の生産は完了し、ディスプレイなしのSD-20のみのラインナップとなり、プロ向けにシンセサイザーモジュールFantom XRを発売している。 1998年にはGS、XGのお互いの規格のGMからの拡張部分を統一したフォーマットとしてGM2が制定されたが、ブロードバンドの普及によってMP3などの圧縮音声ファイルフォーマットによる配信が一般化したこともあり、普及には至っていない。 また、ヤマハのXG音源の一つMU2000EXでは正式にGSをサポートし、さらにローランドのGS音源の一つSD-90も正式にXGLite(XGの簡易フォーマット)をサポートするなど、2つのライバル会社間の異なる規格がさらに歩み寄りを見せた。 2010年にヤマハは残る最後のDTM音源モジュールMU500の生産を完了し、ローランドはSD-50を発表した。2015年にはSD-50は生産を完了し、ローランドはソフトウェア音源であるSOUND Canvas for iOSを発表した。
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