グローバル金融システムの未来
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/01 15:55 UTC 版)
「グローバル金融システム」の記事における「グローバル金融システムの未来」の解説
IMFの報告によると、グローバル金融システムは、金融の安定性を改善しつつあるものの多くの過渡的な問題を抱えている。その問題は地域の脆弱性と政治体制によって生み出される。問題の1つは、米国の緩和的金融政策からの出口戦略である。金利上昇後の金融レジームに対する投資家の期待を反映するように市場が調整されるため、手際よく秩序正しくするのは難しいかもしれない。金利の上昇とボラティリティの増大に伴う市場流動性の構造的な低下や、短期証券やシャドーバンキングシステム(特に住宅ローン市場および不動産投資信託)における構造的なレバレッジ解消によって状況が悪化した場合、金利が急激上昇するかもしれない。他の中央銀行は、近年採用してきた非伝統的金融政策からの出口を模索している。しかし日本のような国々はデフレ圧力に立ち向かうために大規模な刺激策を試みている。ユーロ圏諸国は、通貨同盟を強化し、銀行や政府へのストレスを軽減するために、数々の国内改革を実施している。しかしポルトガル・イタリア・スペインなど一部の欧州諸国では、企業部門が重度にレバレッジされ、金融市場が分断化されているため、困難な状況が続いている。これらの国では価格設定が非効率的であり、投資家が良質な資産を見極めることは難しい。このような状況で営業する銀行は、市場の調整に耐え、潜在的な損失を吸収するために、適切な準備を進める必要があるかもしれない。新興市場国は安定化の問題を抱えている。外国人投資家が国内市場に押し寄せていることから債券市場が金融緩和に敏感になっている。信用拡大の状況下で企業がレバレッジを高めているため資本逃避のリスクに晒されている。新興市場国の政策当局の使命は、持続可能でバランスのよい金融セクターを育成し、投資家を退出させないようにして市場の成長を促進し続けることである:xi-xiii。 グローバル金融危機とその後の不況は、グローバル金融システムの構造に関する新たな議論を呼んだ。注目されたのは、金融統合、グローバル・ガバナンスの不備、そして金融グローバル化の新たなシステミック・リスクである:2–9。1945年に正式な国際通貨システムが創設され、その守護者としての権限がIMFに与えられて以来、世界は政治的にも経済的にも大きく変化した。これは国際金融制度のパラダイムを根本的に変え、IMFと世界銀行の使命を複雑化した:1–2。正式で確固とした通貨システムが欠けていたため、国内マクロ経済政策に対するグローバルな制約が失われ、金融活動に対するルールに基づく統制が不足した:4。フランスの経済学者であり、世界経済フォーラムのブレトン・ウッズ再生委員会事務局長であるマーク・ウザンは「グローバル中央銀行」や「世界金融当局」のような急進的な提案は実現不能であると指摘し、次のような中期的な取り組みを示している。曰く、透明性と開示を改善し、新興国市場の金融風土を強化し、先進国におけるプルーデンス規制環境を補強し、新興国市場における資本取引の自由化と為替レート体制の選択を改善すべきであるという。またウザンは金融危機の管理や多国間機関の資金の増強に関して民間部門の参加を促すことにも注目している:1–2。 外交問題評議会はグローバル金融の評価でグローバル金融改革の阻害要因を2つ挙げている。一つは、機関が多すぎて、指令が重複し、権限範囲が限定的であること。もう一つは、国益と国際改革を調和させることが難しいことである。現在、各国のマクロ経済政策を調整する包括的な構造が存在せず、グローバル金融危機の前後にグローバルな貯蓄の不均衡が高まり、世界の準備通貨の世話役としての米国の地位が疑われるほどになった。危機を経ても外国為替市場の安定化を目指すマクロ経済政策を追求する取り組みは未だ制度化されていない。銀行業務と投資活動を適切に監視し管理する方法について国際的なコンセンサスが欠如している。このため将来のグローバル金融危機を防止できないかもしれない。バーゼルⅢの基準を満たす銀行規制の実施は遅れており、しばしば延期される。このことは、2019年までに大方の基準が有効にならないことを意味し、規制されないシステミック・リスクにグローバル金融が晒され続けることを表している。バーゼルⅢやG20は、金融安定理事会の能力を強化し、協力を促進し規制変更を安定化させるように取り組んでいるが、大方の規制は国内レベルや地域レベルにとどまっている。
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