エキュメニズムと使徒継承性
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「使徒継承」の記事における「エキュメニズムと使徒継承性」の解説
最も厳密な意味での使徒継承性は、教義における連続性を保障しかつ主張するものであるが、各教派は自派と異なる教義を有する、他のいくつかの教会に対しても、使徒継承性を認める傾向がある。他の教会の使徒継承性を認めるとは、単に組織としての連続性を認めるということに留まらず、他の教派が教会としての一定の正統性をもつことを認めることでもある。したがって、エキュメニズムの流れのなかで、他教派の使徒継承性の確認も論点としてしばしば取り上げられてくるようになった。 基本的に、宗教改革以前から存在する教派同士の間では、その使徒継承性は争われない。例えば正教会や東方諸教会が、ローマ教皇が正統なローマ総主教であることを否定する、ということは起こらない。ことに伝統的な管轄地が重ならなかったカトリック教会と正教会の間では、互いが使徒継承教会であるという認識は、他の対立にもかかわらず、常に維持されてきた。いったいに、非プロテスタント教会は、歴史的起源を同じくするため、細部においては解釈が異なるものの案外に多くの教義と伝統を共有している。さらに20世紀以降、「教会は本来ひとつである」という理解、現在の分裂状態をむしろ異常とする共通の理解のもとに、それぞれの間で相互理解が模索されつつある。とはいえ、1600年間に開いた差異も大きく、その道のりは必ずしも平坦ではない。したがって、互いに使徒継承性を認めるといっても、他教派の聖職者が自教派の信者にサクラメント(秘跡・機密)を与えることや、またその逆は、一部の例外を除き禁止されている。さらに各教会の相互評価も非対称であり、たとえば1960年代以降、カトリック教会は自派が使徒継承教会と認める東方教会の信者に、制約付ではあるが聖体拝領を許し、またそのような教会とのミサの共同司式を一定の条件化に容認するが、対象とされている東方教会では、フィリオクェ問題やローマ司教(教皇)の首位性など教義理解の違いを重大とみなし、カトリックでの聖体拝領を信者に禁止するといった現象が生じている。 カトリック教会から分岐した聖公会は、カンタベリー大主教を通じた自派の使徒継承性を主張しているが、他派からの判断は分かれている。カトリック教会は1896年、レオ13世が教皇書簡「アポストリチェ・クーレ」を発布し、エリザベス時代のカタンベリー大主教、マシュー・パーカーの主教按手の際に用いられたエドワード按手式文に欠陥があるとして、以降の聖公会の聖職位の有効性を否認した。カトリック教会は現在もこの立場を取っている。 2000年の教理省宣言「ドミヌス・イエズス」では、東方教会の使徒継承性を再確認するとともに、宗教改革で分かれた教会は叙階の秘跡を欠くとし、その聖職制度がカトリックの視点からは有効でないとする立場を示している。また、2007年には「教会論のいくつかの側面に関する問いに対する回答」という教皇庁教理省の文書を発表し、その中で「使徒継承のある東方教会(正教会など)は『部分教会すなわち地方教会』ではあるが、ローマ司教であるローマ教皇との交わりにないために部分教会としての条件の一部を欠いており、さらに16世紀の宗教改革から生まれたキリスト教共同体(プロテスタント)は、使徒継承による司祭職の秘跡を欠くため、(カトリックの教えによれば、)固有の意味で『教会』と呼ぶことはできない」との見解を示し、プロテスタント教会などキリスト教の他の教派から批判された。 一方、正教会では、1923年にコンスタンティノープル総主教庁が聖公会の使徒継承性を認め、その聖職位を承認したが、すべての正教会がこの決定に追随したわけではない。また、この承認は同時に限定的なものであって、聖公会の聖職者が正教会に改宗(帰正)した場合は、聖職者としてではなく、平信徒として扱われ、神品機密を受けることが必要とされる。これは主に聖公会での聖職按手が正教会の神品機密とは同等と認められないことに拠っている。 第1バチカン公会議後にカトリック教会(ローマ・カトリック教会)から分かれ、自身をローマ教皇庁の首位権に服さないカトリック教会とする復古カトリック教会も使徒継承性を主張する。復古カトリック教会と聖公会とは20世紀初頭からフル・コミュニオンの関係にあり、ローマ・カトリック教会とは独立ながら普遍的(カトリック)的な信仰を保持するとの自己認識をもっている。プロテスタントの中では、スカンディナヴィアを中心とする一部のルーテル教会も使徒継承性を主張する。これらの教会は、1994年、ブリテン諸島の聖公会とともにポルヴォー共同声明に調印し、各参加教会の使徒継承性を認めるとともに、完全相互陪餐を行うコミュニオンを結成した。のちにスペインおよびポルトガルのアングリカン・コミュニオン加盟教会も、このコミュニオンに加わった。
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