ウィリアム・バンティングによる減量法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 04:37 UTC 版)
「肥満」の記事における「ウィリアム・バンティングによる減量法」の解説
「ウィリアム・バンティング」も参照 「運動は減量に何の効果も無い」と明言している人物は何人もいる。ノールデンが「消費する以上のエネルギーを摂取するから太るのだ」と唱える遥か以前から、ウィリアム・ハーヴィー(William Harvey, 1807-1876)、ウィリアム・バンティング(William Banting, 1796-1878)といった人物がカロリー理論に相当するやり方を実践しており、「運動をひたすら頑張ってこなせば体重を減らせるはずだ」と考えていた。 ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴィーであった。ハーヴィーがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナール(Claude Bernard, 1813-1878) がパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった。 ロンドン生まれの葬儀屋、ウィリアム・バンティング(William Banting)は、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。身体が重いゆえに自分で自分の靴紐を結ぶことすらできず、膝や足首の関節を痛めないよう、階段を降りる際にはゆっくり後ろ向きで降りる必要があり、階段を上るだけでも息切れするほどであった。バンティングが「この国でもっとも有能な医師」と呼んでいた医者に相談した際には、「体重が増えるのは全く自然なことであり、自分も体重が毎年1ポンドずつ増えている」と言われ、バンティングの身体の状態については全く驚かない、として、「運動、サウナ風呂、洗髪と薬を増やしなさい」と言われただけであった。彼はへその緒が裂け、視力が落ち、耳も聞こえなくなりつつあった。難聴について耳鼻科医に相談するも、「大したことはない」として耳を掃除し、他の障害については何も尋ねなかった。バンティングの身体の不調はますます強まっていった。 バンティングは、体重を減らす目的でテムズ川で毎朝ボートを漕ぎ続けることにした。彼の腕の筋力は強化されたが、それに伴って猛烈な食欲が湧き、体重は減るどころかますます増えていった。医師であり、友人でもあったウィリアム・ハーヴィー(William Harvey)はバンティングに「運動を止めなさい」と助言し、炭水化物を制限する食事法を教えた。ハーヴィーはバンティングに対し、「あなたは太り過ぎだ。脂肪があなたの聴覚管の1つを塞いでいる。すぐに体重を減らさねばならない」と述べた。この食事法に従ったバンティングは大幅に体重を減らしただけでなく、身体の不調も回復していった。1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量にあたって試しては失敗を続けてきた方法についてまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。バンティングはこの書簡の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つとして「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。バンティング自身、テムズ川でボートを漕ぐだけでなく、水泳やウォーキングにも励み、食べる量を極端に減らす「飢餓食」(Starvation Diets)も試したが、体重は減らず、体力はどんどん低下していった。バンティングを減量へと導いたのは、食べる量を減らしたことでもなければ、運動量を増やしたことでもなく、「炭水化物を制限する食事法」であった。彼は、 「I had the command of a good, heavy, safe boat, lived near the river, and adopted it for a couple of hours in the early morning. It is true I gained muscular vigour, but with it a prodigious appetite, which I was compelled to indulge, and consequently increased in weight, until my kind old friend advised me to forsake the exercise.」(「私は、重く、安全なボートを所有しており、川の近くに住んでいた。私は早朝に2 - 3時間ボートを漕ぐ習慣を付けることにした。確かに私の筋力は強化されたが、それに伴って尋常でないほどの食欲が湧くようになり、食欲の抑制が効かなくなった。親切な旧友から『運動の習慣を捨てなさい』との忠告を受けるまで、体重の増加が止まることは無かった」) 「I can confidently state that quantity of diet may safely be left to the natural appetite; and that it is quality only which is essential to abate and cure corpulence.」(「食べる量については、自然に湧いてくる食欲に従って差し支えない。肥満を和らげ、治療するために必要なのは食べ物の『質』だけである、と、確信をもって明言できる」) との言葉を残している。 ノールデンが「消費する以上のエネルギーを摂取するから太るのだ」と唱える遥か以前から、ウィリアム・バンティングはカロリー理論に相当するやり方を実践していた。ほどなくして、これは減量においては何の役にも立たないことに気付いたバンティングは、『市民に宛てた、肥満についての書簡』の中で「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。バンティングに炭水化物制限を教える前のウィリアム・ハーヴィーも、「激しい身体活動に励めば痩せられるはずだ」と考えていた。イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー(Thomas Hawkes Tanner, 1824-1871)も、 著書『The Practice of Medicine』 ISBN 978-1377805573 の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法」の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げ、「これらの方法をどんなに辛抱強く続けたところで、望む目的が達成されることはない」と断じている。 『Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(「ダイエットするかい?」)、「Are you banting?」(「今、ダイエット中なの?」)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法に励む」という意味の動詞として使われるようになり、「Banting」という言葉は、このウィリアム・バンティングの名にちなんで使われるようになった。「Bant」はスウェーデン語にも輸入され、「Att banta」は「to bant」(「食事療法に励む、ダイエットする」)、「Nej, tack, jag bantar」は「No thank you, I am banting.」(「いいえ、結構。今はダイエット中なんだ」)の意味で使われるようになった。英語辞典のメリアム・ウェブスター(Merriam Webster)では「Banting」について、「肥満体策としての食事療法で、炭水化物や甘い味付けの食べ物を避ける」と定義している。 南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークス(Tim Noakes)は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた。ノークスは、「脂肪の摂取を減らし、炭水化物を沢山摂取せよ」と奨める考え方を「Genocide」(「大量虐殺」)と断じている。 サイエンス・ジャーナリスト、ゲアリー・タウブス(Gary Taubes)による著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる。なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴィーにある」と主張した。
※この「ウィリアム・バンティングによる減量法」の解説は、「肥満」の解説の一部です。
「ウィリアム・バンティングによる減量法」を含む「肥満」の記事については、「肥満」の概要を参照ください。
ウィリアム・バンティングによる減量法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/30 13:56 UTC 版)
「ダイエット」の記事における「ウィリアム・バンティングによる減量法」の解説
「ウィリアム・バンティング」も参照 「運動は減量に何の効果も無い」と明言している人物は何人もいる。ノールデンが「消費する以上のエネルギーを摂取するから太るのだ」と唱える遥か以前から、ウィリアム・ハーヴィー(William Harvey, 1807-1876)、ウィリアム・バンティング(William Banting, 1796-1878)といった人物がカロリー理論に相当するやり方を実践しており、「運動をひたすら頑張ってこなせば体重を減らせるはずだ」と考えていた。 ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴィーであった。ハーヴィーがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナール(Claude Bernard, 1813-1878) がパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった。 ロンドン生まれの葬儀屋、ウィリアム・バンティング(William Banting)は、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。身体が重いゆえに自分で自分の靴紐を結ぶことすらできず、膝や足首の関節を痛めないよう、階段を降りる際にはゆっくり後ろ向きで降りる必要があり、階段を上るだけでも息切れするほどであった。バンティングが「この国でもっとも有能な医師」と呼んでいた医者に相談した際には、「体重が増えるのは全く自然なことであり、自分も体重が毎年1ポンドずつ増えている」と言われ、バンティングの身体の状態については全く驚かない、として、「運動、サウナ風呂、洗髪と薬を増やしなさい」と言われただけであった。彼はへその緒が裂け、視力が落ち、耳も聞こえなくなりつつあった。難聴について耳鼻科医に相談するも、「大したことはない」として耳を掃除し、他の障害については何も尋ねなかった。バンティングの身体の不調はますます強まっていった。 バンティングは、体重を減らす目的でテムズ川で毎朝ボートを漕ぎ続けることにした。彼の腕の筋力は強化されたが、それに伴って猛烈な食欲が湧き、体重は減るどころかますます増えていった。医師であり、友人でもあったウィリアム・ハーヴィー(William Harvey)はバンティングに「運動を止めなさい」と助言し、炭水化物を制限する食事法を教えた。ハーヴィーはバンティングに対し、「あなたは太り過ぎだ。脂肪があなたの聴覚管の1つを塞いでいる。すぐに体重を減らさねばならない」と述べた。この食事法に従ったバンティングは大幅に体重を減らしただけでなく、身体の不調も回復していった。1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量にあたって試しては失敗を続けてきた方法についてまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。バンティングはこの書簡の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つとして「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。バンティング自身、テムズ川でボートを漕ぐだけでなく、水泳やウォーキングにも励み、食べる量を極端に減らす「飢餓食」(Starvation Diets)も試したが、体重は減らず、体力はどんどん低下していった。バンティングを減量へと導いたのは、食べる量を減らしたことでもなければ、運動量を増やしたことでもなく、「炭水化物を制限する食事法」であった。彼は、 「I had the command of a good, heavy, safe boat, lived near the river, and adopted it for a couple of hours in the early morning. It is true I gained muscular vigour, but with it a prodigious appetite, which I was compelled to indulge, and consequently increased in weight, until my kind old friend advised me to forsake the exercise.」(「私は、重く、安全なボートを所有しており、川の近くに住んでいた。私は早朝に2 - 3時間ボートを漕ぐ習慣を付けることにした。確かに私の筋力は強化されたが、それに伴って尋常でないほどの食欲が湧くようになり、食欲の抑制が効かなくなった。親切な旧友から『運動の習慣を捨てなさい』との忠告を受けるまで、体重の増加が止まることは無かった」) 「I can confidently state that quantity of diet may safely be left to the natural appetite; and that it is quality only which is essential to abate and cure corpulence.」(「食べる量については、自然に湧いてくる食欲に従って差し支えない。肥満を和らげ、治療するために必要なのは食べ物の『質』だけである、と、確信をもって明言できる」) との言葉を残している。 ノールデンが「消費する以上のエネルギーを摂取するから太るのだ」と唱える遥か以前から、ウィリアム・バンティングはカロリー理論に相当するやり方を実践していた。ほどなくして、これは減量においては何の役にも立たないことに気付いたバンティングは、『市民に宛てた、肥満についての書簡』の中で「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。バンティングに炭水化物制限を教える前のウィリアム・ハーヴィーも、「激しい身体活動に励めば痩せられるはずだ」と考えていた。イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー(Thomas Hawkes Tanner, 1824-1871)も、 著書『The Practice of Medicine』 ISBN 978-1377805573 の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法」の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げ、「これらの方法をどんなに辛抱強く続けたところで、望む目的が達成されることはない」と断じている。 『Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(「ダイエットするかい?」)、「Are you banting?」(「今、ダイエット中なの?」)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う」という意味の動詞として使われるようになり、スウェーデン語にもこの言葉が輸入されて使われるようになった。 南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークス(Tim Noakes)は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた。ノークスは、「脂肪の摂取を減らし、炭水化物を沢山摂取せよ」と奨める考え方を「Genocide」(「大量虐殺」)と断じている。 サイエンス・ジャーナリスト、ゲアリー・タウブス(Gary Taubes)による著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる。 なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は「(この食事法を教えてくれた)ハーヴィーにある」と主張した。
※この「ウィリアム・バンティングによる減量法」の解説は、「ダイエット」の解説の一部です。
「ウィリアム・バンティングによる減量法」を含む「ダイエット」の記事については、「ダイエット」の概要を参照ください。
- ウィリアム・バンティングによる減量法のページへのリンク