genocide
「genocide」とは、特定の「国家」「人種」「民族」を計画的に破壊することを目的として行われる大量殺戮および集団虐殺行為を表す英語表現である。
「genocide」とは・「genocide」の意味
genocideはユダヤ系ポーランド人で法律家のラファエル・レムキンによって提唱された名詞であり、1944年に著した「Axis Rule in Occupied Europe(占領下のヨーロッパにおける枢軸国の統治)」の中で初めて使用された。単なる大量殺戮ではなく、国家や民族といった組織に対する計画的な破壊意図を含むという点が特徴である。したがって、国際情勢における戦争犯罪として語られるのが一般的である。国家や民族の計画的な破壊を目的としないその他の理由から引き起こされる虐殺を表す場合は一般的にmassacre(マサカー)が用いられる。genocideの発音記号は米国式でdʒénəsὰɪd、英国式で ˈdʒenʌˌsaɪdである。音節はgen・o・cideの三分割でカタカナ表記の発音は一般的に「ジェノサイド」である。第一アクセントは「ジェ」、第二アクセントは「サ」の部分である。なお、派生語として形容詞化したgenocidal(「大量虐殺の」を意味する)がある。道徳性や倫理性の観点から映画の題材として起用されることも多く、史実のgenocideをモチーフにした代表的な作品としては「ホテル・ルワンダ」が広く知られていある。また、厳密には殺害行為以外でも被害者たちの生活基盤を破壊する行為もgenocideに該当する場合がある。第二次世界大戦後に設立された国際連合においては、戦争犯罪の防止を目的として1948年にジェノサイド条約が制定された。ジェノサイド条約に照らし合わせて国際的にジェノサイドであると認識されているものには、以下のような事例が挙げられる。(関係国が関与および事実を否定したものを含む)
・アボリジニ強制同化政策(19世紀後半~20世紀前半オーストラリアにて)
・オスマン帝国によるアルメニア人虐殺(19世紀末~20世紀初頭トルコにて)
・ソ連によるホロドモール(1930年代ウクライナにて)
・ナチスドイツによるホロコースト(1933年~1945年ドイツにて)
・カンボジア大虐殺(1975年~1979年カンボジアにて)
・ユーゴスラビア紛争(1990年代~2000年代ユーゴスラビアにて)
・ルワンダの虐殺(1994年ルワンダにて)
・中国によるウイグル人弾圧(2014年~新疆ウイグル自治区にて)
「genocide」の語源・由来
genocideはギリシャ祖語で「人種」の意味を持つgenosと、ラテン語で「殺害する」を意味するcaedoを繋げた造語である。genosは「生む」を意味する印欧語根のgenh-と名詞語尾の接辞であるosが結び付いたgenhosが語源とされている。genhosは「人種、一族」を表す名詞であり、ラテン語になる過程でgenosとなった。caedoの源流は「切る」の意味を持つ印欧語根のkheyd-で、イタリック祖語でkaidoの形になった後にラテン語でcaedoとなる。「genocide」と「holocaust」の違い
holocaustもgenocideと同じような日本語訳として「大虐殺」を意味することがあり、特に宗教的な理由から引き起こされるものを指すのが基本である。これはholocaustが元々ユダヤ教において動物の丸焼きを神前に供える祭事を指す言葉であることに由来する。虐殺の中でも火による焼殺を指すケースが一般的である。英語において定冠詞のtheが付け加えられると、第二次世界大戦中にナチスドイツが引き起こしたユダヤ人に対する虐殺行為を指す。英語圏においては定冠詞の有無によってユダヤ人大虐殺とその他の意味を区別するが、日本ではホロコーストと言えば一般的に前者がイメージされる。holocaustがユダヤ人大虐殺を意味するようになったのは、当時の現地で「ドイツ軍がユダヤ人を生きたまま焼き殺している」という噂が広まったためである。実際のユダヤ人大虐殺では銃やガスが用いられている。終戦から30年以上が経過した1978年にアメリカで制作されたテレビドラマ「ホロコースト」が流行したことによって、世間一般にもthe holocaust=ユダヤ人大虐殺という認識が広まった。ただし、ユダヤ教において元来holocaustは神聖な祭事であるため、一部のユダヤ教徒からはユダヤ人大虐殺をholocaustになぞらえることに異議を唱える者もいる。
「genocide」の使い方・例文
・Genocide is an unforgivable act.(大量虐殺は許されない行為である)・Genocide resolution was adopted by the United Nations.(虐殺非難決議が国連で採択された)
ジェノサイド【genocide】
ジェノサイド
(Genocide から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/21 04:20 UTC 版)
ジェノサイド(英: genocide)は、政治共同体あるいは民族もしくは人種集団を計画的に破壊することである[1]。ジェノサイド条約第2条によれば、政治共同体の、人種的、民族的、宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる行為のこと[2]。集団殺害(しゅうだんさつがい)、大量虐殺(たいりょうぎゃくさつ)[1][2]。
注釈
- ^ 文語訳聖書では、通常「絶滅」などと訳される民数記21:3の「ホルマ」(ヘーレムの語根ハラムの派生語。新改訳聖書ではホルマがそのまま使われている)を「殲滅」と訳し、「ほろぼし」のルビを振っている
出典
- ^ a b c d 西井正弘「ジェノサイド」『世界大百科事典 12 シ―シャ』平凡社、2007年9月1日 改訂新版発行、51頁。
- ^ a b 斉藤功高「ジェノサイド」国際法学会編『国際関係法辞典』三省堂、1995年8月10日 第1刷発行、ISBN 4-385-15750-2、377頁。
- ^ a b スプリンガー 2010, pp. 16–19.
- ^ 添谷 2011, p. 28.
- ^ 添谷 2011, p. 32.
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- ^ Samantha Power、A Problem from Hell: America and the Age of Genocide、ロンドン、フラミンゴ出版社、2002年(邦訳サマンサ・パワー『集団人間 破壊の時代――平和維持活動と市民の役割』(星野尚美訳、ミネルヴァ書房、2010 年[要ページ番号])
- ^ 添谷 2011, p. 47.
- ^ 添谷 2011, p. 48.
- ^ James J. Martin, The Man Who Invented ‘Genocide’: The Public Career and Consequences of Raphael Lemkin, California: Institute for Historical Review, 1984。木村愛二『アウシュヴィッツの争点』(リベルタ出版,1995年)325-327 頁。
- ^ C.I.J.Recueil 1996, Vol.II, p.616, par.31
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- ^ “Joint Statement on Holodomor”. 国際連合. ウィキメディア財団 (2003年11月10日). 2011年5月閲覧。
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- 1 ジェノサイドとは
- 2 ジェノサイドの概要
- 3 定義と由来
- 4 ジェノサイド条約
- 5 事例
- 6 その他の事例
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