イングランド国教会と国王至上法
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「トマス・クロムウェル」の記事における「イングランド国教会と国王至上法」の解説
当時ヘンリー8世は王妃キャサリンとの間に第1王女メアリー(後のメアリー1世)しかおらず、高齢で出産が難しく男子出産を期待出来ないキャサリンとの離婚問題を協議させるため、後に宗教改革議会と呼ばれることになる議会を招集した。王はキャサリンの侍女であり妊娠していたアン・ブーリンとの結婚と生まれる子供を嫡出子とすることを望んでいたため、キャサリンとの婚姻の無効化を望んでいた(カトリック教会では離婚を認めていないため、それまでの結婚そのものを無効とするよう教皇クレメンス7世へウルジーを通じて認可を要請したが失敗)。王の離婚の意思を支持して王の信頼を得ていったクロムウェルは、やがて宮廷内に入って王の腹心となり、1532年には公的な手続きを経ずして閣僚(王室財宝部長官)となった。1533年には財務大臣、1534年には国王秘書長官(英語版)、控訴院記録長官(英語版)、1535年には最高首長代理、1536年には王璽尚書と出世を重ねていくことになる。 こうして王の信頼を得たクロムウェルは、イングランドの宗教改革において重要な役割を果たすこととなった。クロムウェルの閣僚就任以前の議会では、ローマ教皇庁の意向も受け、王の結婚無効化が認められることはなかったが、1532年にクロムウェルが主導権を握るや、議会での議論はたちまち変化していく。議会は庶民院からの請願を王へ提出、教会に対する立法権をイングランド王に移行させると共に、初収入税上納禁止法を制定して教皇庁の収入の源泉であった司教からの上納金(初収入税(英語版))を遮断した。さらに1533年3月にはイングランド宗教改革の土台となる「上告禁止法」を起草し、議会を通過させる。教会裁判の最高決定権は王にあると主張、イングランド法廷を飛び越えた教皇への上告を禁じたこの法は本来王の婚姻問題のために制定されたものであるが、クロムウェルの手腕により、後述のようにより大きな意味を持つ法となっていく。 クロムウェルによる同法の序文には、イングランドは「帝国」であること、イングランドは教皇庁の管轄に属さないこと(よって国王の婚姻の有効問題も教皇庁の認可を必要としなくなった)などが高らかに宣言された。それまでもイングランドの君主が「皇帝」(Emperor)を名乗ることはあったが、これは単に複数の国々を支配する君主という意味である。しかしクロムウェルがここで用いた「帝国」は、イングランドはイングランド以外の君主に支配されることはないという宣言であり、教皇庁から独立した国民国家(nation-state)となったことを告げる画期的なものであった。議会では親カトリック派議員の抵抗が予想されたため、周到な事前工作で反対派の抵抗を封じて上告禁止法を成立させた。 4月、ヘンリー8世の意を受けたカンタベリー大司教トマス・クランマーは法廷を主宰、上告禁止法で離婚問題の最終決定の場となったこの法廷で王のキャサリンとの婚姻無効とアンの結婚を認めた。対するクレメンス7世はヘンリー8世との和解は不可能と判断して破門したが、イングランドの離反は決定的となった。9月には王妃になったアンが第2王女エリザベス(後のエリザベス1世)を出産した。 教皇庁からの独立に伴い、クロムウェルは王に、イングランドにおける教会の頂点に立つことを進言する。1534年に議会で聖職者の服従を明文化した聖職者服従法、王とアンの間に生まれた子を王位継承者と定める第一継承法に続き議会を通過させた首長令(国王至上法)によって、イングランド国教会はローマ・カトリック教会から離脱しプロテスタントの一派を形成、国王ヘンリー8世は「信仰の擁護者」として国教会の長となった。そして王が首長であることを否定する者を反逆者として断罪する反逆法も可決させた。 国王の離婚のためだけに制定されたこの2つの法令は、イングランドにおける宗教史・政治史の転換点ともいえるものであった。それまで欧州全土に普及していた教会組織の中で、一辺境支部に過ぎなかったイングランド教会が、教皇庁から独立した組織「イングランド国教会」となったことを意味したのである(ただし典礼執行・説教・破門など霊的権限は王の権限に入らず、教義はカトリック的という問題も残された)。この一連の改革においてクロムウェルは主要な役割を果たしたが、当然のごとく反対派もまた少なくなかった。ヘンリー8世に媚びるクロムウェルとは対称的に、カトリックとしての立場から一貫して国王に批判的であった前大法官のトマス・モアは、王やクロムウェルに疎まれて失脚し、やがてロンドン塔に投獄され、1535年7月6日に処刑されている。
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