アティヤの例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/16 10:15 UTC 版)
1988年、アティヤは当時考えられていた位相的量子場の新しい例を書いた論文を提出した。(Atiyah 1988) この中には、いくつかの新しい位相的不変量と新しい考え方がのべられている。それらは、キャッソン不変量やドナルドソン不変量やグロモフの理論(英語版)、フレアーホモロジーやジョーンズ-ウィッテン理論である。 d = 0 の場合には、空間 Σ {\displaystyle \Sigma } は有限個の点からなる。一つの点には、ベクトル空間 V = Z ( p o i n t ) {\displaystyle V=Z(point)} が結び付いていて、n-個の点には n 重のテンソル積 : V ⊗ n = V ⊗ V ⊗ ⋯ ⊗ V {\displaystyle V^{\otimes n}=V\otimes V\otimes \cdots \otimes V} が結びつている。対称群 S n {\displaystyle S_{n}} は V ⊗ n {\displaystyle V^{\otimes n}} 上に作用する。量子論のヒルベルト空間を得る標準的な方法は、古典的なシンプレクティック多様体 (もしくは相空間) を与え、それを量子化する。対称群 S n {\displaystyle S_{n}} をコンパクトリー群 G {\displaystyle G} へ拡張し、直線束からできるシンプレクティック構造の「可積分」な軌道を考えると、量子化は G {\displaystyle G} の V {\displaystyle V} 上への既約表現を導く。これはボレル-ヴェィユの定理(英語版)もしくはボレル-ヴェィユ-ボットの定理(英語版)の物理解釈となる。これらの理論のラグランジアンは古典作用 (直線束のホロノミー(英語版))である。このようにして、次元が d = 0 の位相的量子場の理論は自然にリー群や対称群の古典的表現論に関係している。 d = 1 の場合は : コンパクトなシンプレクティック多様体 X {\displaystyle X} の中の閉ループによって与えられる周期的な境界条件を考える。(Witten 1982)に従うと、そのようなループの周るホロノミーは、d = 0 のときにラグラジアンとして使ったように、ハミルトニアンを変形することに使われる。閉じた曲面 M {\displaystyle M} に対し、理論の不変量 Z ( M ) {\displaystyle Z(M)} は、グロモフの意味で(もし X {\displaystyle X} がケーラー多様体であれば、通常の正則写像である)、擬正則写像の数である。もしこの数が無限大となる、つまり「モジュライ」があるとき、 M {\displaystyle M} 上のデータを固定する必要がある。これは、いくつかの点 P i {\displaystyle P_{i}} をとり、 f ( P i ) {\displaystyle f(P_{i})} を決まった超平面に固定する正則写像 f : M → X {\displaystyle f:M\rightarrow X} を考えることで可能となる。(Witten 1988b)はこの理論の適当なラグランジアンを書き下した。フレアーは(Witten 1982)のモース理論のアイデアに基づき、厳密に扱うフレアーホモロジーを考案した。境界条件が周期的であることに代り、区間である場合には、経路の最初の端点と最後の端点は2つのラグランジュ部分多様体の上にある。この理論は、グロモフ・ウィッテン不変量の理論として発展した。 他の例は、正則な共形場理論であり、1988年当時はヒルベルト空間が無限次元であるため厳密な量子場理論ではなかったかもしれない。共形場理論もコンパクトリー群 G {\displaystyle G} に関連していて、そこでは古典的な相空間はループ群 L G {\displaystyle LG} の中心拡大からなる。これらを量子化すると、 L G {\displaystyle LG} の既約な(射影的)表現論のヒルベルト空間が生成される。ここで群 D i f f + ( S 1 ) {\displaystyle Diff_{+}(S^{1})} は対称群にとってかわり、重要な役目を果たす。そのような理論の分配関数は、複素構造に依存していて、純粋にトポロジカルではない。 d = 2 の場合の最も重要な理論はジョーンズ-ウィッテン理論である。そこでは、古典的な相空間は、閉曲面 Σ {\displaystyle \Sigma } に結び付いていて、 Σ {\displaystyle \Sigma } の上の平坦 G {\displaystyle G} -バンドルのモジュライ空間である。ラグランジアンは(枠付きである)3-次元多様体の上の G {\displaystyle G} -接続のチャーン・サイモンズ形式の整数倍である。整数倍の整数 k {\displaystyle k} はレベルとも呼ばれ、理論のパラメータであり、 k → ∞ {\displaystyle k\rightarrow \infty } は古典極限を与える。この理論は自然に d = 0 の理論と結合し、「相対的」な理論を生成する。詳細はウィッテンにより示され、3-球内の(枠付き)絡み目の分配関数は、まさに適当な単位根に対するジョーンズ多項式の値になる。理論は適当な円分体の上で定義することができる。境界を持ったリーマン面を考えると、この理論は、d = 0 に結合した d = 2 理論の代りに、d = 1 の共形理論になっている。この理論はジョーンズ-ウィッテン理論として発展し、結び目理論と量子論を結ぶ契機となったことが分かる。 d = 3 の場合は、ドナルドソンが S U ( 2 ) {\displaystyle SU(2)} インスタントンのモジュライ空間を使い、微分可能な 4次元多様体の整数不変量を定義した。これらの不変量は第二ホモロジーの上の多項式である。このように4次元多様体は、 H 2 {\displaystyle H_{2}} の対称代数からなる余剰なデータを持っている必要がある。 (Witten 1988a) はドナルドソン理論を形式的に再現する超対称性を持つラグランジアンを提示した。ウィッテンの公式はガウス-ボネの定理(Gauss-Bonnet theorem)の無限次元での類似と考えることができるかもしれない。後日、この理論はさらに発展し、 N = 2 {\displaystyle N=2} の超対称性を持つ4次元の S U ( 2 ) {\displaystyle SU(2)} ゲージ理論は、 U ( 1 ) {\displaystyle U(1)} に還元できるというサイバーグ-ウィッテン理論となっていく。この理論のハミルトニアンのバージョンは、フレアーにより3-次元多様体の接続の作る空間のことばで研究された。フレアーはジョーンズ-ウィッテン理論のラグランジアンであるチャーン-サイモンズ汎関数を使い、ハミルトニアンを変形した。詳細は (Atiyah 1988) を参照のこと. (Witten 1988a) もまた、どのように d = 3 の理論と d = 1 の理論が互いに関連しているかを示していて、これはジョーンズ-ウィッテン理論の d = 2 と d = 0 の理論の関係に酷似している。 さて、固定した次元で考えるのではなく、同時に全ての次元を考えると、位相的場の理論は函手とみなすことができる。
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