シンプレクティック多様体とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 同じ種類の言葉 > 学問 > 学術 > 様体 > シンプレクティック多様体の意味・解説 

シンプレクティック多様体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/06 01:59 UTC 版)

数学におけるシンプレクティック多様体(シンプレクティックたようたい、symplectic manifold)は、シンプレクティック形式と呼ばれる非退化閉形式である 2-形式を持つ滑らかな多様体である。シンプレクティック多様体の研究分野はシンプレクティック幾何学シンプレクティックトポロジーと呼ばれる。シンプレクティック多様体は、古典力学の抽象的定式化であるハミルトン力学などにおいて多様体の余接バンドルとして自然に表れるもので、この分野に対して大きな動機付けを与えた。実際、系の取り得るすべての配位が成す集合を多様体としてモデル化すると、この多様体は系の相空間を記述する。

シンプレクティック多様体上の微分可能な実数値関数 H はエネルギー函数英語版(energy function)を与えることができ、これをハミルトニアンと呼ぶ。どのようなハミルトニアンに対してもハミルトンベクトル場が対応付けられる。ハミルトンベクトル場の積分曲線ハミルトン方程式の解曲線になる。ハミルトンベクトル場は、シンプレクティック多様体上のフロー(ハミルトンフロー、あるいは、シンプレクティック同相写像と呼ばれる)を定め、リウヴィルの定理によれば、ハミルトンフローは相空間上の体積要素を保存する。

動機

シンプレクティック多様体上の幾何学、その動機である古典力学(解析力学)との関係は、シンプレクティック幾何学も参照のこと。

シンプレクティック多様体は古典力学から発生していて、特に閉じた系の相空間の一般化である。[1]ハミルトン方程式が一組の微分方程式から系の時間発展を引き出せることと同じように、シンプレクティック形式からはハミルトン函数 H の微分である dH により系のフローを記述するベクトル場を得ることができる。ニュートンの運動方程式は線型微分方程式であるので、その写像も必然的に線型となる。[2]従って、線型写像 T* M → TM、(同じことであるが、 T* M ⊗ T* M の元)が必要となる。ω により T* M ⊗ T* M の切断を表すこととすると、ω が 非退化 であるということは、全ての微分 dH に対して一意にベクトル場 VH が存在し、dH = ω(VH,· ) を満たす。ハミルトニアンが積分曲線に沿って定数であることを要求するので、必然的に dH(VH) = ω(VH, VH) = 0 を得る。このことは ω が 交代的 であり、従って 2-形式であることを意味する。結局、必然的に ω は積分曲線のもとで不変であることとなり、つまり、 ω の VH に沿ったリー微分はゼロとなる。カルタンの公式英語版(Cartan's formula)を適用して、次の式を得る。

クリックすると拡大する

シンプレクティック多様体 (K, ω) のラグランジュ部分多様体 L がはめ込み(immersion) i : L ↪ K(この i を ラグランジュはめ込み という)によって与えられるものとし、 π: K ↠ B が K のラグランジュファイバー構造とすると、合成写像 (π ∘ i): L ↪ K ↠ Bラグランジュ写像 と呼ばれる。このとき、 π ∘ i の境界値集合が焦線である。

二つのラグランジュ写像 1 ∘ i1): L1 ↪ K1 ↠ B1 および 2 ∘ i2): L2 ↪ K2 ↠ B2 が互いに ラグランジュ同値 であるとは、微分同相写像 σ: L1 → L2, τ: K1 → K2, ν: B1 → B2 が存在して、二つのラグランジュ写像と可換、かつ τ がシンプレクティック形式を保つことを言う[4]。式で書けば

が満たされるということである。ただし、τ*ω2 は ω2 の τ による引き戻し英語版(pullback)とする。

特殊化および一般化

  • シンプレクティック多様体は、そのシンプレクティック形式が概複素多様体として両立する計量を持つならば、接束が概複素構造を持つ(が、必ずしも可積分でない)ことで概ケーラー多様体になる。シンプレクティック多様体はポアソン多様体の特別なものであり、シンプレクティック多様体の定義においてシンプレクティック形式が至る所で非退化であるという条件を外しても、ポアソン多様体であることは変わらない。
  • 次数 k の多重シンプレクティック多様体 (multisymplectic manifold) とは、非退化な閉微分 k-形式を持つ多様体を言う。詳しくは(F. Cantrijn et al. 1999)[5]を参照。
  • 高次シンプレクティック多様体 (polysymplectic manifold) とは、高次シンプレクティック接空間に値をとる (n + 2)-形式から得られるラグランジュベクトル束を言い、ハミルトン場の理論で利用される。詳細は (G. Giachetta, L. Mangiarotti & G. Sardanashvily) [6]を参照。
  • 多重シンプレクティック多様体(polysymplectic manifold)は、多重シンプレクティックな接空間に値を持つ -形式が容易されたルジャンドルバンドルである。これはハミルトニアンの場の理論に有益である。

[7]

関連項目

  1. ^ Ben Webster: What is a symplectic manifold, really? http://sbseminar.wordpress.com/2012/01/09/what-is-a-symplectic-manifold-really/
  2. ^ Henry Cohn: Why symplectic geometry is the natural setting for classical mechanics http://research.microsoft.com/en-us/um/people/cohn/thoughts/symplectic.html
  3. ^ a b Maurice de Gosson: Symplectic Geometry and Quantum Mechanics (2006) Birkhäuser Verlag, Basel ISBN 3-7643-7574-4 (page 10)
  4. ^ a b c Arnold, V. I.; Varchenko, A. N.; Gusein-Zade, S. M. (1985). The Classification of Critical Points, Caustics and Wave Fronts: Singularities of Differentiable Maps, Vol 1. Birkhäuser. ISBN 0-8176-3187-9 
  5. ^ F. Cantrijn, L. A. Ibort and M. de León, J. Austral. Math. Soc. Ser. A 66 (1999), no. 3, 303-330.
  6. ^ G. Giachetta, L. Mangiarotti and G. Sardanashvily, Covariant Hamiltonian equations for field theory, Journal of Physics A32 (1999) 6629-6642; arXiv: hep-th/9904062.
  7. ^ G. ジャチェッタ(G. Giachetta)、L. マンジアロッティ(L. Mangiarotti)、サルダナシヴィリ英語版(G. Sardanashvily), Covariant Hamiltonian equations for field theory, Journal of Physics A32 (1999) 6629-6642; arXiv: hep-th/9904062

参考文献

  • Dusa McDuff and D. Salamon: Introduction to Symplectic Topology (1998) Oxford Mathematical Monographs, ISBN 0-19-850451-9.
  • Ralph Abraham and Jerrold E. Marsden, Foundations of Mechanics, (1978) Benjamin-Cummings, London ISBN 0-8053-0102-X See section 3.2.
  • Maurice de Gosson: Symplectic Geometry and Quantum Mechanics (2006) Birkhäuser Verlag, Basel ISBN 3-7643-7574-4.
  • Alan Weinstein (1971). “Symplectic manifolds and their lagrangian submanifolds”. Adv Math 6 (3): 329–46. doi:10.1016/0001-8708(71)90020-X. 
  • Hitchin, Negel (1999). “LECTURES ON SPECIAL LAGRANGIAN SUBMANIFOLDS”. Studies in advanced mathematics.  On arxiv url=https://arxiv.org/abs/math/9907034
  • 深谷賢治: シンプレクティック幾何学 岩波書店, 現代数学の展開 8, ISBN 4-00-010658-9

外部リンク


シンプレクティック多様体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/08/31 09:19 UTC 版)

体積形式」の記事における「シンプレクティック多様体」の解説

すべてのシンプレクティック多様体(あるいは、実際すべての概シンプレクティック多様体(英語版)(almost symplectic manifold))は、自然な体積形式持っている。M がシンプレクティック形式 ω を持つ 2n-次元多様体であればシンプレクティック形式非退化性の結果、ωn はどこでも 0 にならない。この結果すべてのシンプレクティック多様体は向き付け可能である(実際向き付けなされている)。多様体がシンプレクティック多様体で、かつ、リーマン多様体であれば2つ体積形式は、多様体ケーラー多様体である場合一致する

※この「シンプレクティック多様体」の解説は、「体積形式」の解説の一部です。
「シンプレクティック多様体」を含む「体積形式」の記事については、「体積形式」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「シンプレクティック多様体」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ



シンプレクティック多様体と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「シンプレクティック多様体」の関連用語

シンプレクティック多様体のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



シンプレクティック多様体のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのシンプレクティック多様体 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの体積形式 (改訂履歴)、可微分多様体 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS