シンプレクティックトポロジーへ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 21:21 UTC 版)
「シンプレクティック幾何学」の記事における「シンプレクティックトポロジーへ」の解説
シンプレクティック幾何の歴史は物理とともに始まり進展していったが、そしてシンプレクティック幾何は大域的幾何としての発展を期待されていた。例えば、ダルブーの定理によれば、局所的にはシンプレクティック空間 ( R 2 n , ω 0 = ∑ i d p i ∧ d q i ) {\displaystyle \left(\mathbb {R} ^{2n},\ \omega _{0}=\sum _{i}dp_{i}\wedge dq_{i}\right)} で話が全て尽きてしまう。したがって、シンプレクティック幾何が扱うべきは大域的な対象であると長く言われてきた。しかし、物理と密着な関わりを持ちすぎたが故に、シンプレクティック幾何学は20世紀前半から始まる大域的解析学とは一線を画している面がある。しかし、特にグロモフ以降のシンプレクティック幾何学は、大域解析学の大きな柱へと成長を遂げることになる。グロモフは論文 のなかで概正則曲線の概念を定義し、その論文がエポックメイキングとなりそれ以降シンプレクティック幾何学は大域的トポロジーの一分野(シンプレクティックトポロジー)に躍り出ることとなる。これを深谷賢治は、『普通の大域シンプレクティック幾何学』 になった、と述べている。 グロモフは次の定理を示した。 定理 (non-squeezing) : r , R > 0 {\displaystyle r,R>0} とする。 また、 B 2 n ( r ) = { ( q , p ) ∈ R 2 n ∣ ∑ i ( q i 2 + p i 2 ) ≤ r } , Z 2 n ( R ) = { ( q , p ) ∈ R 2 n | p 1 2 + p 1 2 ≤ R } {\displaystyle {\begin{aligned}B^{2n}(r)&=\left\{(q,p)\in \mathbb {R} ^{2n}\mid \sum _{i}(q_{i}^{2}+p_{i}^{2})\leq r\right\},\\Z^{2n}(R)&=\{(q,p)\in \mathbb {R} ^{2n}\,|\,p_{1}^{2}+p_{1}^{2}\leq R\}\end{aligned}}} とし、それぞれに R 2 n {\displaystyle \,\mathbb {R} ^{2n}\,} の標準的なシンプレクティック構造 ω 0 = ∑ i = 1 n d p i ∧ d q i {\displaystyle \omega _{0}=\sum _{i=1}^{n}dp_{i}\wedge dq_{i}} から誘導されるシンプレクティック構造を入れる。もし、 ( B 2 n ( r ) , ω 0 ) {\displaystyle \,(B^{2n}(r),\omega _{0})\,} から ( Z 2 n ( R ) , ω 0 ) {\displaystyle \,(Z^{2n}(R),\omega _{0})\,} へのシンプレクティック埋め込みが存在するならば、 r ≤ R {\displaystyle r\leq R} である。 この定理は n = 1 {\displaystyle n=1} のときは自明である。n=1のとき、 Z 2 ( R ) {\displaystyle \,Z^{2}(R)\,} は2次元円盤 B 2 ( R ) {\displaystyle \,B^{2}(R)\,} であり、シンプレクティック埋め込みは面積を保つから、 B 2 ( r ) {\displaystyle \,B^{2}(r)\,} が Z 2 ( R ) = B 2 ( R ) {\displaystyle \,Z^{2}(R)=B^{2}(R)\,} に埋め込めるためには、 B 2 ( r ) {\displaystyle \,B^{2}(r)\,} の面積が Z 2 ( R ) = B 2 ( R ) {\displaystyle \,Z^{2}(R)=B^{2}(R)\,} の面積よりも小さくないといけない。つまり、 r ≤ R {\displaystyle r\leq R} でなくてはならない。この説明を見れば分かるように、 n = 1 {\displaystyle n=1} のとき (空間の次元は2次元) はシンプレクティック埋め込みが面積を保つということがポイントであり、シンプレクティック構造を保つということは直接は使われない。しかし、 n ≥ 2 {\displaystyle n\geq 2} のときは状況が違う。このとき、 B 2 ( r ) {\displaystyle \,B^{2}(r)\,} から Z 2 ( R ) {\displaystyle \,Z^{2}(R)\,} への体積を保つ埋め込みは、 r , R {\displaystyle r,R} の大小関係に関わらずいくらでも存在する。それにもかかわらず、シンプレクティック構造を保つという条件を加えるだけで、その埋め込みが存在するかは r , R {\displaystyle r,R} の大小関係に依る。この意味で、グロモフが示したこの非圧縮定理 (non-squeezing theorem) は非自明である。グロモフによるこの定理の証明には、概正則曲線が用いられている。ここで、概正則曲線の定義を述べる。 Σ {\displaystyle \Sigma } をリーマン面、 ( M , ω ) {\displaystyle (M,\omega )} をシンプレクティック多様体とし、それぞれの概複素構造を i 及び J としよう。このとき、滑らかな写像 u : Σ → M {\displaystyle \,u:\Sigma \to M\,} が概正則曲線(概正則写像、 J {\displaystyle J} -正則曲線)であるとは、 J ∘ d u = d u ∘ i {\displaystyle \,J\circ du=du\circ i\,} を満足することをいう。 エケランド(Ekeland)とホファー(Hofer)はシンプレクティック容量 (symplectic capacity) の概念を提唱した。 2 n {\displaystyle 2n} 次元シンプレクティック多様体に対するシンプレクティック容量とは、 2 n {\displaystyle 2n} 次元シンプレクティック多様体 ( M , ω ) {\displaystyle (M,\omega )} に対して正数を割り当てる関数 c {\displaystyle c} で次の性質を満たすものである。 ( M , ω ) , ( M ′ , ω ′ ) {\displaystyle (M,\omega ),(M',\omega ')} をシンプレクティック多様体とする。 もしシンプレクティック埋め込み ϕ : ( M , ω ) → ( M ′ , ω ′ ) {\displaystyle \,\phi :(M,\omega )\to (M',\omega ')\,} が存在すれば、 c ( M , ω ) ≤ c ( M ′ , ω ′ ) . {\displaystyle \,c(M,\omega )\leq c(M',\omega ').\,} c ( M , λ ω ) = | λ | c ( M , ω ) , λ ∈ R ∖ { 0 } . {\displaystyle \,c(M,\lambda \omega )=|\lambda |c(M,\omega ),\,\,\,\lambda \in \mathbb {R} \setminus \{0\}.\,} 0 < c ( B 2 n ( 1 ) , ω 0 ) = c ( Z ( 1 ) , ω 0 ) < ∞ . {\displaystyle \,0<c(B^{2n}(1),\omega _{0})=c(Z(1),\omega _{0})<\infty .\,} 特に n = 1 {\displaystyle n=1} のとき、 c ( M , ω ) = | ∫ M ω | {\displaystyle \,c(M,\omega )=\left|\int _{M}\omega \right|\,} とすれば、これは2次元シンプレクティック多様体に対するシンプレクティック容量であることが確かめられる。しかし、 n ≥ 2 {\displaystyle n\geq 2} のとき、 c ( M , ω ) = | ∫ M ( − 1 ) n n ! ω n | 1 / n {\displaystyle c(M,\omega )=\left|\int _{M}{\frac {(-1)^{n}}{n!}}\omega ^{n}\right|^{1/n}} としても、これはシンプレクティック容量にはならない。
※この「シンプレクティックトポロジーへ」の解説は、「シンプレクティック幾何学」の解説の一部です。
「シンプレクティックトポロジーへ」を含む「シンプレクティック幾何学」の記事については、「シンプレクティック幾何学」の概要を参照ください。
- シンプレクティックトポロジーへのページへのリンク