ビジネスモデル‐とっきょ〔‐トクキヨ〕【ビジネスモデル特許】
ビジネスモデル特許(びじねすもでるとっきょ)
最近、ビジネスモデル特許(BM特許)出願が相次いでいる。たとえば、明治生命保険が自社製品の「積み立て保険」について特許申請をしたほか、日産火災海上保険も「インターネット使用の保険契約システム」について特許申請をした。特許庁には多くのビジネスモデル特許が申請されているが、すでにいくつかは特許が認められている。
従来の「特許」は、主に工業分野での発明に対して与えられる。これに対し「ビジネスモデル特許」ではIT分野の発明に与えられる。
ただし、ビジネスモデル特許とは言っても、従来の特許とはっきり分けられるわけではない。ビジネスモデル特許も、管轄は特許庁である。この点は従来の特許と同じである。特許庁ではビジネスモデル特許を「ビジネス関連発明」と呼び、ソフトウエア関連発明の一形態として分類している。
この特許を取得するためには、特許庁に出願して審査を受けることが必要である。具体的には、特許を一つ出願すると、出願料金21,000円、審査請求料金86,300円などの費用がかかる。また特許としてみとめられた場合には、毎年何万円かの特許料を払うことになる。
今、特許申請のなかでも盛んなのは、「ネットオークション」に関する分野である。たとえば、プライスドットコム社の「逆オークション」は商取引の仕組みそのものに特許が与えられた例として、新聞・雑誌から注目された。
ほかの例としては、ウェブ広告のうち、クリックされた回数で広告料金が決まる「クリック保証型」の広告配信システムなどがある。これもビジネスモデル特許を取得している。アメリカのバリュークリック社がこのシステムのライセンスを持っている。このシステムを他社が使用するには、同社にライセンス料を支払わねばならない。
ビジネスモデル特許は、特にアメリカで発展した。アメリカでは有用性がある新しい発明には積極的に特許を与える。この点、日本ではビジネスモデル特許への対応は、国際的に立ち遅れているといわれる。
アメリカでは特許もライセンス料獲得のためのビジネスとして成立している。たとえば、商社やメーカーが、組織的にビジネスモデル特許の大量出願を行ったりする。また個人や中小企業が持っている特許については、特許コンサルタントというような、特許の価値評価をするビジネスが盛んである。
(2000.06.23更新)
ビジネスモデル特許(びじねすもでるとっきょ)-Business Method Patents
”ビジネスモデル特許”とは、ビジネスの方法やビジネスの仕組みに関する特許をいう。米国では、ビジネス方法の特許(Business Method Patent)と呼ばれることが多い。日本では、報道関係者が「ビジネスモデル特許」としたため、一般には、この表現が用いられている。頭文字をとって、BMPと略されることもある。また、ビジネスプロセス特許と呼ぶ人もいる。
1998年~2000年すぎまで、日・米で大きな話題となった特許である。ビジネスモデル特許を契機に、多くの非製造業(広告代理店、金融機関など)が、特許権を戦略的に用いるきっかけとなった。現在は、その流れが定着している。
なお、米国における1998年のState Street Bank最高裁判決が、ビジネスモデル特許を定着させるきっかけを作った。しかし、その後、米国では、2014年のAlice最高裁判決により、ビジネスモデルに関する発明は抽象的であり特許対象から除外されるとの判決が出され、現在では、ビジネスモデルの特許性について、日本より厳しい審査がなされている。
以下、参考のため、2000年当時の状況を記しておく。
ビジネスモデル特許は、1998年7月米国高等裁判所(CAFC)の、State Street Bank事件判決によって、大きく注目されたものである。この判決により、「ビジネスの方法を特許対象から除外するという原則(business method exception)」は誤りであることが示された。裁判所が、ビジネス方法に関する特許について、その有効性を認めたことで、ビジネス方モデル特許を戦略的に用いる米国企業が増加した。
その後、米国では、1999年10月に、AMAZON.COMがビジネスモデル特許に基づいてBarnes&Noble.comを訴え、わずか40日で、差し止めの仮処分を得るという事件が起こった。これにより、ビジネスモデル特許が、現実に力を持つことが認識され、さらなる注目を集めることとなった。
日本でも、State Street Bank事件判決は、一部専門家の間で話題になっていたが、一般には、あまり大きな関心をもたらすものではなかった。
しかし、この判決から約1年ほど後、特許庁が、「特許から見た金融ビジネス」(1999年6月)、「インターネット上の仲介ビジネスについて」(1999年8月)を相次いで公表し、この分野に対する関心が徐々に高まった。1999年9月に入って、日経コンピュータ「ビジネスモデル特許の衝撃」(日経コンピュータ、1999年9月13日号)に、特許庁審査基準室長のインタビュー記事が掲載されたことをきっかけに、先進的な企業はその対応を急いだ。
さらに、先のAMAZON.COM事件が報じられたことにより、盛り上がりつつあったビジネスモデル特許に対する関心が、急激に高まった。このため、2000年に入ってからは、各社とも、ビジネスモデル特許出願を大きく増加させている。また、ビジネスモデル特許の書籍も、多数発行された。
ビジネスモデル特許が話題となった背景には、①プロパテント政策と②インターネットの普及がある。この点については、ビジネスモデル特許の基礎を参照のこと。
ビジネスモデル特許の基礎的な事については、「ビジネスモデル特許の基礎」を参照のこと。また、話題となったビジネスモデルの事例については、「ビジネスモデル特許の流れ」を参照のこと。
我が国では、純粋なビジネスモデルに対して特許は与えられず、コンピュータシステムとしてのビジネスモデルが特許となりうる対象である。つまり、我が国では、ビジネスモデル特許は、ソフトウエア特許の一形態として審査されている。なお、我が国では、技術的な新しさだけでなく、ビジネス手法の新しさも特許許否の判断対象とされている。
米国では、コンピュータシステムであると否とに拘わらず、ビジネスモデル(ビジネス方法)は特許となりうるとの見方が一般的であった。しかし、Biiski判決により、米国においても、コンピュータを用いないビジネスモデルは特許対象でないことが明らかとなり、日米の取り扱いは接近傾向にある。
ヨーロッパは、我が国と同じように、コンピュータシステムとしてのビジネスモデルでなければ特許対象とならない。また、ビジネス手法が新しくとも、技術的な新しさがなければ、特許されないと言う点において、我が国よりも、ビジネスモデルに対する特許保護が狭いといえる。
日・米・欧におけるビジネスモデル特許の比較は、"Patentability of Business Method Inventions in Japan Compared with the US and Europe"を参照のこと。
ビジネスモデル特許についての報道は沈静化しているが、企業活動におけるビジネスモデル特許の重要性は増加しており、実務面では、依然として、ビジネスモデル特許への関心が高いといえる。
(執筆:弁理士 古谷栄男)
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