あまのじゃく
岩の掛橋(高木敏雄『日本伝説集』第3) 羅石明神が越後と佐渡の間に橋を掛けようと、ある夜、多くの眷属に石運びを命じた。夜明けまでに完成するはずだったが、眷属の中に怠け者で仕事嫌いのアマンジャクがいて、まだ夜半過ぎにもならないのに鶏の啼き真似をした。明神は騙されてたちまち姿を隠し、眷属どもも散り失せて、橋は出来上がらなかった(越後国柏崎)。
『夢十夜』(夏目漱石)第5夜 神代に近い昔。「自分」は軍(いくさ)をして負け、捕虜になった。「自分」は「死ぬ前に一目、思う女に逢いたい」と願い、敵の大将は「夜が明けて鶏が鳴くまでなら待つ」と言う。闇の中、女が白馬に乗って駈けて来る。天探女(あまのじゃく)が「こけこっこう」と鶏の鳴き真似をし、女は「あっ」と言って、馬もろとも岩の上から深い淵へ落ち入った。
『古事記』上巻 高天原から葦原中国へつかわされた雉・鳴女(なきめ)が、天若日子の門にある湯津楓(ゆつかつら)の上にとまって、「なぜ8年間も何の報告もしないのか」と問う(*→〔矢〕1b)。天佐具女(あめのさぐめ)が、「この鳥は鳴く声が良くないので、射殺(いころ)しておしまいなさい」と勧める。天若日子は矢を射て雉を殺したが、矢は雉の胸を貫いて、高天原まで到った〔*『日本書紀』巻2・第1段本文および一書では「天探女」と表記する〕。
『瓜姫物語』(御伽草子) あまのさぐめが瓜姫をつかまえて木の上に縛りつけ、自分が瓜姫の代わりに守護代の嫁になろうとする(*→〔留守〕1)。夜、嫁迎えの輿に乗せられて木の下道を通る時、鳥が「ふるちご(瓜姫)を迎へとるべき手車にあまのさく(さぐめ)こそ乗りて行きけれ」と囀る。人々は松明(たいまつ)を掲げ、木の上に瓜姫を見出す。あまのさぐめは輿から引き出され、罰せられる→〔花〕3。
★4.あまのじゃくが、空の星を取ろうとする。
『あまんじゃくの星取り石』(松谷みよ子『日本の伝説』) 夜、あまんじゃくが二上山のてっぺんへ登り、跳びはねて星を取ろうとしたが、届かない。あまんじゃくは石をたくさん集めて積み上げ、その上に乗って背伸びをして、ほうきを高く上げる。「ああ、もうちっとじゃ」と言った時、一番鶏(どり)が鳴いて、星は見えなくなった。あまんじゃくは悔しがって地団駄を踏み、積み上げた石はガラガラと崩れて転げ落ちた。今でもそのあたりは、山のてっぺんから谷底まで、大小の石がごろごろしている。「あまんじゃくの星取り石」とは、このことだ(岡山県)。
『赤い部屋』(江戸川乱歩) ひねくれた強情者の盲人按摩がいた。人が親切心からいろいろ注意してやると、「それくらいのことはわかっている」と言って、必ず相手の言葉に逆らったことをした。ある日、その按摩が下水工事の穴の側を通るのを見て、「私」は「ソラ危ない。左へ寄れ」と、本当のことをわざと冗談めかして言った。按摩は、からかわれたと思い、反対の右の方へ寄り、穴に落ちて死んだ〔*「私」は退屈しのぎのため、法律に触れぬ殺人法をいくつも考案し、何の恨みもない大勢の人間を殺した→〔泳ぎ〕6b〕。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)10 苦沙弥先生の性格を、姪の女学生・雪江さんは、よく心得ていた。「天探女(あまのじゃく)でしょう。叔父さんはあれが道楽なのよ」と、雪江さんは苦沙弥の妻君に言う。「何かさせようと思ったら、裏を言うと、こっちの思いどおりになるのよ。此間(こないだ)も蝙蝠傘(こうもり)を、わざと『いらない』って言ったら、『いらないことがあるものか』って、すぐ買って下すったの」〔*その後、苦沙弥は『いらないなら傘を還(かえ)せ』と言い、雪江さんは『ひどいわ』と言って泣く〕。
『山鳩の孝行』(昔話) 昔、あまのじゃくな童(わらべ)がいた。父が「山へ行け」と言えば川へ行き、「田へ行け」と言えば、畑へ行った。父は病気になり、「死んだら山に埋めてもらいたい」と思うが、童は反対のことをするだろうから、「川っぷちに埋めてくれ」と遺言して死んだ。ところが童は、それまでの行ないを反省して、今度は言われたとおり、川っぷちに父を埋めた。雨が降ると、水が出て墓が流れそうになる。童は気がかりで、「てて(父)っぽっぽ、ててっぽっぽ」と鳴く山鳩になった(岩手県和賀郡)。
『酉陽雑俎』続集巻4-974 昆明池の中に塚があり、「渾子」と呼んでいる。昔、渾子という名の息子がいた。つねに父の言葉に逆らい、東と言えば西、水と言えば火と言った。父は病気が重くなり、小高い丘に埋葬してほしかったので、「わしが死んだら、必ず水中に葬ってくれ」と、いつわりの遺言をする。父の死後、渾子は涙を流し、「私は、今日だけは父の命令に逆らえない」と言って、父の言葉どおり水中に葬った。
★7.天逆毎姫(あまのさこのひめ)。
『和漢三才図会』巻第44・山禽類「治鳥(じちょう)」 ある書に言う。服狭雄尊(そさのおのみこと)は猛気が胸・腹に満ちあまり、それが吐物となり口外に出て天狗神となった。人身獣首の姫神で、鼻が高く、長い耳と長い牙を持つ。左にあるものを「右」と言い、前にあるものを「後」と言い、自ら「天逆毎姫」と称する。天の逆気を呑み、独りで孕んで児を産み、天魔雄神(あまのさかおのかみ)と名づけた。
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