「完璧な連発銃」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/05/01 13:28 UTC 版)
「ウィンチェスターM1912」の記事における「「完璧な連発銃」」の解説
64式7.62mm小銃の開発者の一人である伊藤眞吉は、1981年(昭和56年)に全日本狩猟倶楽部の会報『全猟』にウィンチェスター M12について、下記のような講評を寄せており、何故ウィンチェスターが本銃を「World Famous Winchester Perfect Repeater(世界に有名なウィンチェスターの完璧な連発銃)」とまで自称したかについて、詳細な解説を行っている。 伊藤が所属していた大日本帝國陸軍の陸軍技術本部及び、防衛庁(陸上自衛隊)の技術研究本部では「銃器学」と呼ばれる学問の教本が整えられており、鉄砲の安全性(英語版)を担保する三要素として「(薬室の)不完全閉鎖時の発射不能」「発射瞬時の(薬室)解放不能」「使用者が自由に操作できる安全装置(英語版)を備えている」事が必要不可欠であると記述されていたという。伊藤はこの三要素に独自にもう一要素、「(安全装置が)"安"か"火"かが自分にも他人にも容易に識別可能な事」を追加した安全四要素を提唱しており、ドイツのGew98(Kar98kや米国のスプリングフィールドM1903小銃も含まれる)や、日本の有坂銃などの軍用制式小銃(英語版)が、この要件に合致した構造と安全装置を有している「良い銃」の例として挙げており、多くの民間向けスポーツ銃器はこれらの要素のいずれか又は全てが最初から欠落しているか、(個々の部品の機能性についての知識が不十分なまま銃工が形だけを模倣したなどといった経緯の結果として)安全機能の実装が不完全な為にこれらの要素の実現も不完全になっている「悪い銃」である事が残念乍ら多いとも評しているが、伊藤は本銃に関しては重量が重く替え銃身の互換性が完全ではない事の2点を商品としての弱点と指摘しているものの、安全性に関しては「自称通りに『完璧』である」という評価を残していた。 本銃には「アクション・スライド・ロック」と呼ばれる部品が遊底と引金機構部(英語版)の間に備え付けられており、遊底の閉鎖機構(ロッキング)を構成している。このアクション・スライド・ロックは遊底の閉鎖が不完全な時にはコッキングされた撃鉄の溝と噛み合って撃鉄が不用意に落ちる事を阻止する作用を行う事で「不完全閉鎖時の発射不能」を実現しているが、本銃では更に遊底の内部に「ファイアリングピン・リトラクター」と呼ばれる部品も組み込まれており、不完全閉鎖時にはこのファイアリングピン・リトラクターが撃針の固定をも行ってしまう事で、二重に安全性が確保されている。 また、アクション・スライド・ロックは遊底が完全に閉鎖された際には先台(英語版)と遊底の連結桿(アクション・バー)の溝に噛み込んで連結桿が後退する事を阻止する機能を有しているが、この機能が作用するのは散弾実包(英語版)が発火して発射圧の反動により遊底の包底面(ボルトフェイス)に後退力が作用している間だけであり、銃口から散弾(英語版)やスラッグ弾(英語版)等と共にワッズ(英語版)が抜けて銃身内から発射圧力が無くなってしまうと(すなわち発射が完了した後は)、アクション・スライド・ロックと連結桿の噛み合いは外れ、再び遊底は自由に後退可能となる。本銃はこれにより「発射瞬時の解放不能」という機能を実現しているが、本銃では更に遊底の内部に「ブリーチ・ボルト・リテイニングレバー」と呼ばれる部品も組み込まれており、包底面に発射圧が掛かっている間はブリーチ・ボルト・リテイニングレバーがレシーバーの溝に噛み込んで遊底の後退を直接阻止する作用も果たす事で、二重に安全性が確保されている。 本銃の安全装置には、後年のポンプアクションや半自動式散弾銃(英語版)の多くで採用された、用心金(英語版)後方に設けられた、引金を固定する形式の「クロスボルト式安全装置」が採用されている。伊藤本人はこの形式の安全装置については「本来右利きの射手の為に作られた安全装置(左へ押し込むと発火位置、右へ押し込むと安全位置となる)の為、左利きの場合には発射の際に不意に人差し指がクロスボルトに触れてしまい、火から安へ勝手に切り替わってしまう事がある」という弱点を指摘しており、目視で安全位置が確認しがたい場合があり、他物に押されて動きやすいなどといった欠点も列記しているものの、本銃に関してはクロスボルトの部品交換で容易に動作方向の反転を行う事が可能である事。本銃の引金機構部は引金が逆鈎(英語版)を兼ねる部品点数が少ない簡素な構造で、引金と撃鉄の間にトリガー・ディスコネクターのような余分な部品も存在せず(故にスラムファイアが可能となっている)、引金と撃鉄自体が良く焼入れされた鋼材で作られている事から、一度クロスボルトが安全位置にセットされた場合、引金前端が折れるか、撃鉄の溝が削れるかといった破壊的な事象が起きない限りは撃鉄は決して前進する事が出来ない為、高々度を飛行する航空機から落下させたり、千尋の谷底へ投げ落としても暴発は起きないだろうと結論づけている。 なお、伊藤は本銃と同時期に日本のオリン晃電社でOEM製造されていたウィンチェスター M23水平及び、ウィンチェスター M101上下という二つの中折式二連散弾銃(英語版)についても、本銃と同様の高い固有安全性を有していると評価していた。
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