「不死王」と「魔神マイルフィックの大災厄」(短篇『不死王』)
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物語中盤、ジヴラシアは幻視によって今回の危機に関連する、過去のあらゆる歴史の光景を見せられる。その中の一つに、剣を持つ男が天空を飛翔し、巨大な怪物に立ち向かう光景があった。その世界は激しい風と雨に覆われ、男が飛ぶ空にはひときわ明度を増す満月があった。 これは本作の時代から約千年前、当時からは想像もつかない高度な魔法文明によって栄華を極めていた時代の光景であり、新装版に収録された短編『不死王』で描かれている。その時代、超魔法によって人々はあらゆる恩恵を享受し、文明の担い手たる魔導師達は生命の摂理をも操ろうとしていた。しかし高度な文明を誇る一方、魔法の知識を独占する少数の魔導師による専制支配や、魔力を持たない人間の奴隷支配などの腐敗も蔓延し、森の彼方の国「ファールヴァルト」は、その神をも恐れぬ魔力へのあくなき追究によって崩壊していた。 そして世界全体が降り止まぬ暴風雨によって、今や危機に瀕していた。その暴風雨を引き起こしているのは、魔界の覇者といわれる魔神「マイルフィック」で、その妖力によって作り出された無数の大竜巻が海水を舞い上げ、それによって降り注ぐ豪雨が、世界中の都市を水没させようとしていた。また各地で魔界の住人が出没し、人間を襲い始めていた。 この事態を受けて各種族の魔導王が集結、天空に浮かぶ魔神を超魔法によって攻撃する計画が立てられた。しかしこの計画を成功させるには、魔神に接近し、魔法を誘導する避雷針となる魔剣を突き立てなければならない。それが可能なのは世界でただ一人、不死身の存在といわれる「不死王」だけであった。しかし「不死王」は、「ファールヴァルト」崩壊の原因となった恐るべき魔人、悪魔と同等に人類にとって危険な存在であった。 エルフ王アルドウェンは勇敢にも、「不死王」の説得のため、今や不死怪物の都と化した「ファールヴァルト」に向かい、途中出会った、恋人の行方を「ファールヴァルト」に捜し求める元奴隷剣闘士と共に「不死王」と遭いまみえ、紆余曲折の末「不死王」の助力を取り付ける。しかし「不死王」が魔神に剣を突き立て、それを標的に天空から降り注いだ超魔法が魔神をこの次元から消滅させたと同時に、魔法を行使した魔導王たちも魔力の反動によって全員落命する。 世界は危機から救われたが、暴風雨による世界中の都市の崩壊と、魔神との戦いで高度な魔法を習得した魔導師たちが全て斃れたことによって、魔法文明は終焉を迎える。実はマイルフィックと魔界の勢力の出現は、当時の世界が魔力(世界の理を歪める力)を行使しすぎたせいで、別次元との境界が薄くなってしまったのが原因である。更に回復、蘇生呪文の発達が、かつては不老不死の種族であったエルフ族を、老衰し死を迎える種族に変えた。 アルドウェン王は最後の不老不死のエルフで、行き過ぎた魔法文明の発達が、世界の均衡を崩し崩壊を招くと考え、更に今後エルフ族も他の種族も、均一の寿命になるであろうということを予見していた。マイルフィックによる攻撃とは別に、アルドウェンは密かに魔法文明の抹消を図っており、息子に命じて各地の魔法の文献や道具を破棄して回っていた。「ニルダの杖」に守られたリルガミンにだけは侵入できず、魔法文明の遺産が遺される事になるが、それが後の時代の禍根となるとは、知る由もなかった。 「不死王」はアルドウェンの策略で高度な魔法を封じられ、同時に「不死王」の目前で、魔神を倒すために多くの同胞を死に追いやった贖罪と、不老不死の自分の存在は後の世界にあってはならないと考えたアルドウェンが自ら命を絶つ。魔法文明を知る者として一人残された「不死王」は、その後約千年、影から人の世を見守り続ける。 この新装版に加えられた短編『不死王』は、本作の伏線となっている作品であり、「世界の均衡」というテーマも共通している。星の均衡を司るル'ケブレスが本作のタイトルで「龍」として表されているように、短編『不死王』では、過度な魔術の発達によって世界の崩壊の危機を招いたことや、生命倫理を無視した魔術研究で「不死王」が生まれた事、そして魔法によって繁栄しすぎたこととバランスをとるようにエルフ族の寿命が短くなりつつあるのを、最後の不老不死エルフ、アルドウェンの悲哀を通して描かれるなど、「生命」に関するテーマが色濃く描かれている。 魔法文明崩壊後、ただ一人永遠の命の持ち主として残された「不死王」は、本作で主要登場人物として登場するが、彼が「梯子山」の戦いに挑む目的は、アルドウェン達の遺志をついで、世界の均衡を乱す者、「不死」を騙る者を自分の手で討つためである。
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