紀行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/11 07:53 UTC 版)
歴史
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『古事記』『日本書紀』に主人公が旅をしていくモチーフや、『万葉集』に地名と感情を読み込んだ歌群がある他、平安初期の旅行記として円仁『入唐求法巡礼行記』や円珍『行歴抄』、成尋『参天台五台山記』がある。これらは紀行の前身と位置づけられる[2]。
一般的に、日本の紀行は平安時代の紀貫之『土佐日記』に始まる。同時代の紀行的な内容を含む作品として、熊野参詣を含む増基『いほぬし』のほか、『蜻蛉日記』『更級日記』にも紀行的な内容が含まれている。
鎌倉時代に入ると、社寺参詣の流行を背景にして、源通親『高倉院厳島御幸記』、藤原定家『後鳥羽院熊野御幸記』、鴨長明作と思われる『伊勢記』などの漢文体紀行が出現する[2]。また、京都と鎌倉を往復する文化人が増えたことで、『海道記』『東関紀行』といった和漢混淆体の紀行が出現する[2]。その後、南北朝時代・室町時代に入ると、社寺参詣や歌枕を訪ねる風流漂泊の旅のほか、戦乱や地方大名の勃興による文化人の移動が盛んになり、50編近くの紀行が誕生する[2]。
江戸時代に入ると、旅行が比較的容易になった影響で旅行者が増大し、おびただしい数の紀行が生まれた。江戸時代の紀行を専門とする板坂耀子によれば、江戸時代の紀行は2500点以上の作品が存在するが、そのほとんどがくずし字から活字になっていないとされる[3]。また板坂は、江戸時代の紀行文の特徴として、「旅行先の土地や旅の実態、見聞した事物とそれに関する知識、また旅によって変化する自己の内面を、できるだけ多く読者に伝えようとする姿勢」「感傷的にならず積極的に旅の困難に対処し、時には笑い飛ばす主人公の造形」「自己の内面も外部の風景も、常套句や共通の常識、既成の様式によりかからず、具体的で的確な語句を用いて確実に伝えようとする工夫」の3点を特徴として挙げている[3]。あわせて、江戸時代の紀行の代表作は、松尾芭蕉『おくのほそ道』ではなく、貝原益軒『木曽路記』と橘南𧮾『東西遊記』と小津久足『陸奥日記』と述べている[3]。
江戸時代以降、交通網の発達や中産階級の増大に伴い、膨大な数の紀行が生まれた。紀行の舞台となる場所も、日本だけでなく、世界各地に及んでいる。
日本の紀行文
古代
中世
近世
- 『東国紀行』(谷宗牧)
- 『善光寺紀行』(尭恵)
- 『北国紀行』(尭恵)
- 『 理慶尼の記』(理慶尼)
- 『丙辰紀行』(林羅山)
- 『更科紀行』(松尾芭蕉)
- 『野ざらし紀行』(松尾芭蕉)
- 『奥の細道』(松尾芭蕉)
- 『秋山紀行』(鈴木牧之)
近代
- 『はて知らずの記』(正岡子規)
- 『みちの記』(森鷗外)
- 『五足の靴』(与謝野鉄幹、北原白秋、木下杢太郎、吉井勇、平野万里)
- 『海南小記』(柳田國男)
- 『みなかみ紀行』(若山牧水)
- 『阿房列車』シリーズ(内田百閒)
- 『欧米の旅』(野上弥生子)
- 『日本脱出記』(大杉栄)
現代
- 『どくろ杯』『マレー蘭印紀行』ほか(金子光晴)
- 『なんでもみてやろう』(小田実)
- 『どくとるマンボウ航海記』(北杜夫)
- 『時刻表2万キロ』『最長片道切符の旅』ほか(宮脇俊三)
- 『南蛮阿房列車』(阿川弘之)
- 『街道をゆく』(司馬遼太郎)
- 『印度放浪』『全東洋街道』ほか(藤原新也)
- 『深夜特急』(沢木耕太郎)
- 『遠い太鼓』(村上春樹)
- 『にっぽん蔵々紀行』(勝谷誠彦)
- ^ 舛谷, 鋭、マスタニ, サトシ、Satoshi, Masutani「トラベルライティングを考える」2019年3月、doi:10.14992/00017699。
- ^ a b c d 日本古典文学大辞典編集員会『日本古典文学大辞典 第2巻』岩波書店、1984年1月、122-123頁。
- ^ a b c 板坂耀子『江戸の紀行文』中央公論新社、2011年1月。
- ^ Schoff, Wilfred Harvey, ed. (1912), The Periplus of the Erythraean Sea: Travel and Trade in the Indian Ocean by a Merchant of the First Century, New York: Longmans, Green, & Co., ISBN 978-81-215-0699-1 p.16
- 1 紀行とは
- 2 紀行の概要
- 3 海外の紀行文の例
- 4 関連項目
紀行と同じ種類の言葉
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