下水処理場 汚泥処理施設

下水処理場

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/02 20:29 UTC 版)

汚泥処理施設

下水処理場では汚水の水処理に伴い、大量の有機性汚泥が発生する。汚泥処理施設は、これを腐敗しないうちに迅速かつ衛生的に取り出しやすい形で場外へ搬出するとともに、処分や活用をしやすい形にするものである[10]

汚泥処理施設はほとんどの下水処理場に設けられている。基本的には、濃縮と脱水を行い、水分を85%以下まで脱水することが行われている[14]。これは、汚泥を濃縮しただけでは水分が95%以上を占めており泥水状で扱いにくいためである。これを脱水し水分を85%以下にすると湿った泥土状となり、トラックの荷台に載せて運ぶことができ、廃棄物の処理及び清掃に関する法律上でも、有機汚泥の扱いとなるなど、容易に取り扱いができるようになる。

処理方法には、このほか、消化・乾燥・焼却・溶融などがあり、下水処理場の規模・最終処分の形態・処分先の条件などにあわせて様々な方法が組み合わされている。たとえば、一部の処理場では、濃縮した汚泥をパイプ圧送やタンク車による輸送で別の場所へ送り、処理することもある。

処理前の汚泥

終末処理場で発生する汚泥には、大きく分けて以下の二種類がある。

初沈汚泥
最初沈殿池での固形物分離による。無機分や酸化されていない有機物を多く含み、生汚泥とも呼ばれる。
余剰汚泥
生物処理による有機物浄化の過程で増殖した微生物。返送汚泥の一部を分岐して汚泥処理施設へ送る事が多い。

濃縮

初沈汚泥・余剰汚泥を別個・あるいは混合して、一定の濃度に濃縮する。濃縮の方法には、固形物の水相との比重差を利用する方法と、物理的な分離による方法がある。主に脱水工程での効率改善を図る目的で行われ、汚泥輸送を行う場合は、より重要となる。濃縮した中間生成物を、濃縮汚泥と呼ぶ。

重力濃縮
汚泥を沈殿槽に滞留させ、比重差と重力により濃縮を行う。最も基本的な方法だが、期待できる濃度は2~4%である。機械濃縮を行う場合も前段に何らかの重力濃縮を伴う例が多い。
機械濃縮
遠心法と濾過法があり、遠心法は重力濃縮の原理を遠心力によって強化した装置による。濾過法は最近開発された方法で、金属等のメッシュ上に凝集させた汚泥を載せ、重力濾過する。
浮上濃縮
微細な気泡を固形物に付着させ、比重差を逆転し水面に浮き上がらせて濃縮する。気泡の生成方法により、加圧法の各種と常圧法がある。加圧法は、汚泥に圧力を加えてガスを封入し一気に減圧しガス化させ気泡と汚泥を浮上濃縮させる方法である。常圧法は、界面活性剤で泡立てた気泡を高分子凝集剤を加えた汚泥に付着させ浮上濃縮させる方法である。機械濃縮のように特殊な装置が必要ないので、後者は小規模施設で導入が進んでいる。

脱水

脱水は、濃縮汚泥に無機凝結剤又は高分子凝集剤を添加し、脱水機で行われる。汚泥脱水の機構はまず、水中に分散している微細な固形物粒子(コロイド化していると考えられる)の表面電荷を中和し、凝集性を改善したのち高分子の糸で絡め集めフロックとする事からはじまる。フロックの大きさ強度は汚泥脱水機の方式により異なるため、適切な薬剤と添加率を選び、フロックの大きさ強度を調整するためと汚泥との混合状態を均質化するため適度な撹拌方法を選んでいる。濃縮汚泥にフロックを形成させたのち、遠心力や、濾過・圧搾力などを利用した脱水機で水分を分離する。その方法には下記のものなどがある。

真空ろ過
濾布(ろふ:濾過用の布製フィルタ)と減圧用真空ポンプにより水分を吸引除去する、古典的方法。
遠心脱水機(デカンター)
家庭用洗濯機の脱水機と同様に、毎分数千回転する円筒内の遠心力で固液分離する。
ベルトプレス
幅広の2枚の濾布に濃縮汚泥を挟み込み、ローラーで圧搾して水分を搾り取る。
多重円盤
比較的新しい方式で、小型化無人化などを特長とする。多数の金属円盤を重ねたものを濾布に替えて使用する。
スクリュープレス

円筒スクリーン内のスクリュー部に汚泥を投入し、内体積を減少しながらスクリューで送り込み脱水する方法。 脱水された汚泥は排出口より排出され、分離水は円筒スクリーン全体から排出し汚泥脱水を行う。

乾燥

脱水は取り扱いを容易とするが、まだ水分を多く含むため限界がある。また、消化工程を経ていない場合は腐敗しやすい。焼却工程やコンポスト処理に備え、さらに水分を減ずるため乾燥工程をおく場合がある。一部で天日乾燥も行われているが、大部分は熱源による機械乾燥である。熱エネルギーの与え方により直接乾燥と間接乾燥にわかれるが、後段の処理によって適切な方式を選定する。また、しばしば脱臭装置が必要となる。

このほかガスタービン発電機から出る高温の排気を利用して乾燥させるガスコジェネレーションを行い、汚泥から出た蒸気を使い発電するコンバインドサイクル発電の技術が確立している[注 4]

熱風乾燥
高温の空気をパイプ内で旋回させ、投入した脱水汚泥は数秒で乾燥される。効率に優れるが安定性で劣る。
機械攪拌乾燥
攪拌装置を設置した高温の円筒内で、数分から数十分かけて乾燥させる。運転条件の変動に強く安定している。高温の空気による直接加熱式と、円筒外部を熱媒で高温に保つ間接加熱式がある。

含水率を10~20%とすると乾燥汚泥肥料とできる。溶融炉へ送る場合は5~40%、微生物発酵でコンポストを製造するなら60~65%とし、焼却処理では自燃可能な70%を目標とする。

消化

濃縮汚泥を嫌気性微生物の作用で安定化し減量化するために行われる。適切な運転でメタンガスが得られるため、資源リサイクルの観点から再評価されている。主に、下記の方法で行われる。

  1. 沈殿する汚泥と浮上する汚泥に分けて、沈殿する汚泥を1次消化タンクに投入。
  2. 加温しながら1次タンクに送り込み酸発酵させ、その後2次タンクでメタン発酵させる[注 5]。30日ほど滞留させ汚泥からメタンガスを発生後、次の処理工程(汚泥の脱水又は焼却、堆肥化等)に移行する。
  3. メタンガスが発生した汚泥に、凝集剤という粘度を付ける薬品を添加し、脱水機で汚泥を水分と固形物に分離させる。

焼却・溶融・炭化

脱水した汚泥を高温にし、焼却または溶融することで、減量化・安定化を図るとともに、無機化して、より安全なものにする。焼却による有害ガスの発生対策を行う必要がある。 なお、炭化といって、「炭」にする方法も開発されている。有害ガスの発生が少ないのが特徴である[15]

汚泥の減量化

活性汚泥法を用いる施設においては、生物槽に破砕した汚泥を戻して減量化するシステムが出てきている。これは、汚泥の発生そのものを減らそうとする試みである。

余剰汚泥に可溶化・再基質化処理を行い、生分解性を改善したのち生物処理工程へ戻す。処理法としてオゾン、強アルカリ、酵素、超音波、電解、熱、ミル、などが開発、実用化されている。このほか、槽内生態系の食物連鎖を長くする、低負荷で内生呼吸による自己酸化を促す、といった伝統的手法に基づくものもある。


  1. ^ ここで言う浄化とは、主に下水中の有機物を除去する工程であり、手段として物理的、生物的処理などが用いられる。
  2. ^ 京都府の「洛南浄化センター」「洛西浄化センター」「木津川上流浄化センター」大阪府下の「高槻水みらいセンター」「中央水みらいセンター」「渚水みらいセンター」。
  3. ^ 鳥羽水環境保全センター吉祥院支所
  4. ^ 下水処理場ではないが大阪府枚方市の村野浄水場では、この技術により2000年「第5回「新エネ大賞」新エネルギー財団会長賞」を受賞している。
  5. ^ 最近はこの2つの工程を一つのタンクで行うことが多い。
  6. ^ 処分・利用の前に洗浄を行う場合もある。
  1. ^ 糸川浩紀 (2022年12月27日). “「下水処理場の名前」の話”. JS技術開発情報メール. 日本下水道事業団. 2024年2月3日閲覧。
  2. ^ 松井 1992, pp. 8–9.
  3. ^ 旧三河島汚水処分場喞筒(ポンプ)場施設”. 東京都 (2022年). 2023年1月15日閲覧。
  4. ^ 下水道経営管理実務研究会 2006, p. 149.
  5. ^ 下水道経営管理実務研究会 2006, pp. 221–222.
  6. ^ 松井, 1992 & pp6-9.
  7. ^ 下水道経営管理実務研究会 2006, pp. 224–225.
  8. ^ 下水の処理方法 (福島県の下水道)
  9. ^ 下水道経営管理実務研究会 2006, pp. 222, 224–225.
  10. ^ a b c 下水道経営管理実務研究会 2006, p. 222.
  11. ^ 国土交通省近畿地方整備局大阪湾再生会議・資料
  12. ^ a b 松井 1992, pp. 158–162.
  13. ^ 松井 1992, p. 165.
  14. ^ 下水道経営管理実務研究会 2006, p. 223.
  15. ^ 下水道経営管理実務研究会 2006, pp. 223–224.
  16. ^ 下水道の新しい取り組み - 国土交通省近畿地方整備局
  17. ^ 下水道におけるリン資源化検討会 - 国土交通省
  18. ^ 下水汚泥からメタンとリンを高効率で回収する技術2006年12月06日 19:50更新 - IBTimes(アイビータイムズ)
  19. ^ 下水道ものしり辞典 - 財)日本下水道協会






下水処理場と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「下水処理場」の関連用語

下水処理場のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



下水処理場のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの下水処理場 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS