SNGの導入と運用形態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 08:29 UTC 版)
「SNG (放送)」の記事における「SNGの導入と運用形態」の解説
SNGは、大型であった地球局の設備が1980年代に入り小型化し、「可搬地球局」となって自動車に搭載できるようになったことで、急速にその導入が進んだ。 日本では、電波法第26条に基づく総務省告示周波数割当計画により、固定衛星通信網に用いる周波数は、電気通信業務用又は公共業務用の無線局が利用することとなっており、SNGに用いる通信衛星との通信は、電気通信事業者しか行うことができない。すなわち放送会社はSNGの衛星回線を従来のFPUなどのように「自営回線」とすることはできない。このためSNGの運用は、放送会社がこれら電気通信事業者と契約して、その電気通信事業者の名義で自己所有の地球局の免許(使用許可)を受け、通信サービスの提供を受ける形態をとる。 通信衛星に搭載できるトラポンの数には限りがあり、SNGに使用できる回線数は少ない。また通信衛星の打ち上げや維持管理等には莫大な費用がかかり、これを利用する放送会社は「回線使用料」としてかなりの経済的負担を強いられることになるため、1社が単独でその回線を長時間、占有使用するのには不向きである。またSNGは衛星放送システムと異なり、同一波での送信能力(アップリンク能力)を持つ地球局を日本各地にいくつも必要とし、これらの地球局の個々の判断による円滑なシステム運用は不可能に近い。 そこで放送系列各社でトラポンを「共同所有」、効率よく共同利用するための「統制センタ」を設け、トラポンの運用を一元管理、系列各社が番組素材を必要最小限の時間で目的の演奏所に送る運用形態が構築された。 当初のSNG回線はアナログであり、トラポンを可能な限り有効に利用するため、通常のアナログ標準テレビジョン放送に用いる番組素材伝送用として「ハーフトラポン」と呼ばれる方式が考え出され、送受信を行っていた。これは1つのトラポンの伝送帯域を2分割して運用することにより、2つのチャンネル(2回線)を得る方式であった。周波数の低い帯域側をロアーチャンネル、高い側をアッパーチャンネルなどと呼称していた。ただしこの方式では、隣接する帯域間の混信を避けるため、それぞれの帯域を狭く絞り込むことから、運用上、送信に際して特別な注意が必要であった。その後、さらなる効率化(回線数の増強)や傍受対策などのため、その回線は全てデジタル化された。 SNGには番組素材を伝送する回線(本線)とは別に、同じトラポンを経由する連絡用の回線(OW(オーダーワイヤ)回線などと呼ばれる。)があり、これを用いて演奏所と現場との連絡が行われる。話し始めるタイミング(キュー出し)もこの回線でやり取りされる。すなわちこの連絡用の回線が緊急時の現場からの中継放送などにおいては生命線となる。 しかしこの回線は本線と同じトラポンを経由するため、基本的にブッキング中、すなわち回線の時間割利用を統括するブッキングセンタ(回線予約センタ)に、本線の使用(アップリンク)を予約、割り当てられる必要最小限のトラポンのチャンネル占有使用時間中(本線の使用時間中)のみしか使用することができない。このため特に生中継の場合、事前に十分な時間を要する制作打ち合わせなどについて、この回線を用いて行うことは困難である。出発前にあらかじめ打ち合わせをした通りであればよいが、事件、事故、災害などの現場の状況は大抵は想定通りのものではなく、ブッキングの前に現場と演奏所の間での連絡調整が必要となる。この場合、その連絡調整は自社の連絡用無線や加入電話に依らざるを得ず、当初はスタッフが公衆電話に何度も駆け込むこともしばしば、さらにそのどちらも使用できない場合には、本線でレポータ自らが本番直前に必要事項のみを一方的に伝え、ぶっつけ本番の生中継を行うこともあった。その後、一般の衛星携帯電話が使えるようになり、さらに地上系の携帯電話回線網の拡大と整備により、この問題はほぼ解決した。 SNGによる中継放送でスタジオと現場のレポータなどが会話(かけあい)を行う場合には、「N-1音声」が用意される。N-1音声とは、番組用音声から現場の音声のみを省いたものである。これは、映像、音声が衛星を経由することにより遅れるため、番組となった音声を現場のレポーターにそのまま返すと、レポーター自身の声が遅れて「エコー」がかかったように耳に入り、話すことが困難になるために必要なものである。 従来、N-1音声はトラポン経由で演奏所から現場に送られることが多かったが、連絡用の回線と同様に、時間的な拘束がなく自由度の高い携帯電話回線を用いるほうがより効率的である場合が多いため、近年では携帯電話端末と音声分配装置を合わせたシステムがSNG車に常備されるようになっている。さらに最近では、現場での手間を省き、よりSNGの機動性を高める目的などのため、現場で受信した放送音声から直接作り出して用いるようにもなってきている。 今日のSNGは高機能化し、その運用形態も多様化している。 SNGはテレビニュース用として開発された放送技術であり、従来、テレビの報道番組素材の伝送や緊急の報道番組そのもの、あるいは日常その配信に時間と手間のかかりがちな番組素材、例えば番組予告(番組宣伝)用の完成素材などを系列局に一斉配信する場合などに用いられてきたが、近年では可搬地球局がさらに小型化し、これを搭載したSNG車はラジオカー並みの大きさとなったことから、その小回りを生かし、ラジオ・テレビ兼営の放送局などでは、テレビニュースのみならず、ラジオニュースにも活用されるようになっている。 一方で近年、小型化した可搬地球局を従来のテレビ中継車に搭載、「SNG中継車」となったものが登場し、SNG中継車1台でも、現場で直接、複雑な構成の番組素材制作が可能となり、報道以外にも多目的に用いられるようになっている。すなわち、速報性、同時性の要求される通常のテレビ番組、例えば地上回線の構築が困難な山間部や離島などにある競技場からのスポーツ中継などに好んで用いられるようになっている。 さらに、従来のSNG中継車では困難であった衛星自動追尾の技術が実現され、停止・固定して用いていたSNG中継車を移動中継車として用いることが可能となり、さらなる多目的化が期待されている。
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