1期生の誕生
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1968年(昭和43年)2月25日、三島由紀夫、中辻和彦、万代潔、持丸博、伊藤好雄、阿部勉、宮沢徹甫ら11名は、銀座8丁目4-2の小鍛冶ビルの育誠社内の論争ジャーナル事務所において血盟状を作成した。三島が、「誓 昭和四十三年二月二十五日 我等ハ 大和男児ノ矜リトスル 武士ノ心ヲ以テ 皇国ノ礎トナラン事ヲ誓フ」と墨で大書した後、各人が小指を剃刀で切って集めた血で署名し、三島は本名で“平岡公威”と記した。 血盟状が出来ると三島は、「血書しても紙は吹けば飛ぶようなものだ。しかし、ここで約束したことは永遠に生きる。みんなでこの血を呑みほそう」と、先ず自分が呑もうとしながら、「おい、この中で病気のある奴は手をあげろ」と皆を大笑いさせ、全員で呑み合った。血には固まらないように塩を入れていた。 3月1日から30日までの1か月、上記の血盟状の論争ジャーナル組と、新たに持丸博が集めた学生を三島が引率する自衛隊体験入隊が陸上自衛隊富士学校滝ヶ原駐屯地において行われた。この第1回は約20数名入隊となったが、直前に中央大学の5名がスト解除で参加できなくなり、持丸は日学同の矢野潤(早大大学院生)に代員の応援を求めた。 これに応じて日学同の森田必勝、山本之聞、石津恭輔、大石晃嗣、武井宗行の5名が急遽入隊することになった。森田は、春休みの帰省中にスキーで右足を骨折して治療中だったため、1週間遅れで参加した。 入隊者は先ず100メートル走、ソフトボールによる遠投、懸垂、走り幅跳び、50メートルの土嚢運搬、1500メートル走などを行ない、「体力測定認定書」を発行され、銃剣道初段の試験もあった。そして朝6時起床、夜21時就寝の日課の中、突然夜中の3時に非常呼集される場合もあり、捧げ銃で御殿場駅まで往復6キロの坂道を走った。 駐屯地に到着した翌日、骨折した右足を引きずりながら懸命に非常呼集訓練に頑張る森田必勝の姿に、三島は感心し注目した。3月下旬には、レンジャー式コンパス行進(一昼夜)や、指揮動作・教官動作訓練の集大成となる35キロの行軍が富士のすそ野で行われた。 3月30日、体験入隊が無事終了した離隊の日、主任教官や自衛隊員と「男の涙」の別れをした学生一行は貸し切りバスで大田区南馬込の三島邸に向い、慰労会の夕食(中華料理とビール)に招かれた。三島は映画『からっ風野郎』の主題歌を歌い、森田は布施明の『恋』を歌った。最後の閉めには学生全員が『ドレミのうた』を替え歌に合唱して三島を冷やかし、大笑いしたという。 この第1回の体験入隊を終えた1期生は、中辻和彦、万代潔、持丸博、伊藤好雄、阿部勉、篠原裕、宮沢徹甫、金子弘道、倉持清、森田必勝、山本之聞、石津恭輔、大石晃嗣、武井宗行、伊藤邦典(神奈川大学)、原昭弘(東京外語大学)などとなった。森田は三島への礼状に、「先生のためには、いつでも自分は命を捨てます」と速達で書き送り、それに対し三島は、「どんな美辞麗句をならべた礼状よりも、あのひとことには参った」と森田に告げた。 「祖国防衛隊」構想に政財界の協力を得るため、与良ヱに相談していた三島は、同月から持丸博を通じ、桜田武(日本経営者団体連盟代表常任理事)らと接触し、初面談を持った。しかし、なかなか承諾を得られず、自衛隊関係者から三輪良雄を通じて説得をすることをアドバイスされていた。 4月14日、論争ジャーナル組の1期生11名は、三島邸で体験入隊の「体力測定書」や銃剣道初段の免状を隊長・三島から授与された後、一同マイクロバスで青梅市の愛宕神社まで参拝に赴いた。これは隊の制服(ドゴールの制服担当デザイナー・五十嵐九十九による)の完成を祝したもので、満開の桜吹雪の下、一同12名が並んで記念写真を撮った。 同月中旬、三島は桜田武、三輪良雄、藤原岩市と四者面談を持った。桜田は前回より理解を示して、民兵組織を「体験入隊同好会」という無難な名称にするように指示し、中核体の隊員のみを無名称で置いて「祖国防衛隊」の任務とすることで合意した。 4月29日、三島は祖国防衛隊の隊員たちを披露するため、高輪プリンスホテルに村松剛1人を招いて昼食会を開いた。制服に着替えた約10名の隊員が金屏風の背後から次々と登場して整列し、三島が作詞した隊歌を合唱した後、隊長の三島をからかう『ドレミのうた』の替え歌を合唱した。三島の顔は喜悦に満ちて幸福そうだったという。 この頃、1期生たちは、夏の体験入隊の2期生を集めるためにそれぞれ知り合いの仲間を探し、早稲田大学の校内には、「体験入隊募集」の看板が設置されるなど広く人材を求めた。応募してきた学生を持丸が一次面接試験し、合格した者はその後に三島と面会するシステムであった。
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