黎明期の誘導爆弾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/19 16:30 UTC 版)
ごく初期の誘導爆弾としては、ドイツ帝国が第一次世界大戦中の1917年夏に実戦投入した有線誘導式のトルペドグライダーがあるが、本格的に誘導が可能な滑空爆弾が使用されるのは第二次世界大戦からとなる。ナチス・ドイツは、装甲目標用のフリッツXと非装甲目標用のHs293を開発し、このうちフリッツXは1943年9月9日に、連合国軍に投降したイタリア艦隊に対して使用され、戦艦「ローマ」を撃沈、戦艦「イタリア」を大破させ、同月イギリス地中海艦隊の戦艦「ウォースパイト」を撃破することに成功している。Hs293は、1943年8月27日にイギリス海軍のスループ「エグレット」を撃沈している。アメリカ軍は、VB-1 AZONと呼ばれる誘導爆弾を開発し、欧州戦線の地上目標に対して使用している。 日本でも陸軍の技術者が「搭乗員が100%戦死する体当たり攻撃(特攻)は技術者の怠慢を意味する不名誉なこと」として親子飛行機構想を提案したことで、赤外線誘導のケ号自動吸着弾、液体ロケットモーター付きの手動指令照準線一致誘導によるイ号一型甲/乙無線誘導弾、砲火の衝撃波を検知して自動誘導を行うイ号一型丙自動追尾誘導弾が開発されたが、試作段階で終わった。小型のイ号一型乙無線誘導弾のみは実用段階に達していたとされるが、実験中に誘導装置が故障し、1945年2月に熱海の温泉旅館「玉の井旅館」へ墜落、女中1人が死亡、浴客1人が負傷、旅館も全焼という大事故を発生させ、女風呂を直撃したという事から「エロ爆弾」のあだ名が付けられたという。 赤外線や衝撃波検知による自動誘導だった日本のケ号やイ号一型丙を除き、フリッツX、Hs293、AZON、イ号一型甲/乙無線誘導弾は、いずれも誘導母機からの目視による無線誘導で、誘導員は爆弾の尾部に取り付けられた発光体(電球、または火薬によるフレア)を目で追いながら爆弾を操縦して目標へ手動で誘導する仕組みであった。このため、命中精度は誘導員の技能に強く左右される他、天候によっては目標までの視程が確保できないために使用できないことがある。また、目標が視認できる距離内に誘導母機を接近させる必要がある他、誘導中は急な機動ができないため、地上からの反撃が予想される戦域での運用には困難を伴うなどの欠点を含有していた。なお、アメリカ軍はレーダー誘導式の爆弾であるASM-N-2 BATを開発、実戦投入しているが、目立った戦果は無かったうえ、相手のレーダー波でかく乱されるなどの致命的な問題点があった。日本陸軍の無線誘導弾と同時期に日本海軍が特攻兵器の一つとして実戦に投入した桜花は、操縦者自体を誘導装置とするものであるが、投弾に至るまでの行程そのものと欠点は、列国の誘導爆弾とほぼ共通している。第二次世界大戦後にはソビエトでドイツから接収したフリッツXを原型としてSNAB-3000の開発が進められ、当初は無線誘導だったが、後に赤外線誘導に変更されたが航空機のジェット爆撃機への搭載に不適などの理由により中止された。また、同時期、UB-2000F(ロシア語版)の開発も平行して進められたがこちらも同様に中止された。1950年代にはAGM-12が配備され、ベトナム戦争に投入されたものの、上述の欠点を引き継いでおり、戦果は芳しくなかった。
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