非金属ばね
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 21:16 UTC 版)
金属材料では実現できない機能や特性を得たいとき、非金属材料がばね材料として使われる。プラスチックやゴムといった高分子材料も、ばね材料として利用される。ゴムの弾性を利用するばねは、特に「ゴムばね」と呼ばれる。ゴムの弾性は非線形であり、ひずみが小さい範囲でのみ線形とみなせる。具体的な材料としては、汎用に使われる天然ゴム、耐候性の高いクロロプレンゴム、振動減衰特性が良いブチルゴムなどが使われている。金属ばねと比較すると、ばね定数を方向に応じて自由に調整できる、ゴムの内部摩擦によって変形時に減衰力が生まれる、といった長所を持っている。車両用や産業機械用の防振ゴムとして広く利用されている。一方で、高温・低温で性能が劣化しやすい、長期間の大荷重負担でクリープが生じやすい、といった短所もある。さらに、ゴムばねの挙動は明確には計算できないので、おおよその範囲で計算する必要がある。 プラスチック材料もばねに用いられる。金属ばねと比較すると、プラスチック製ばねには軽量、錆びない、成形が容易といった長所がある。一方で、ゴムのようにクリープが起こりやすい、鋼材と比較すると強度や弾性率が小さいといった短所がある。プラスチック材料の中では、エンジニアリングプラスチックがばね用として一般的である。例としてはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のコイルばねなどが、耐薬品性が必要な個所で活用されている。 プラスチックの強度の低さを克服するために、強化繊維を含有させた繊維強化プラスチック(FRP)もばね用材料として使われている。ばね材料として用いられるFRPには、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の2つがある。強化繊維の配向によって、FRPは力を受ける向きによって強度や弾性率が異なるという特徴がある。そのため、ばね定数を最適化したり、FRPが持つ高い強度を生かすためには、適切な配向でばねを設計する必要がある。軽量化のためにGFRP製の板ばねが自動車懸架装置用として実用化されたことがあるが、コストが高い・リサイクルしづらいといった欠点により定着はしていない。CFRPも、板ばねとしての利用が代表例である。他の材料と比較すると、CFRPは比強度や比弾性率が特に優れており、加えて疲労強度も高いという長所を持つ。これらの長所を生かして、他の材料では不可能な用途にCFRP製ばねを適用することが試みられている。 無機材料のセラミックスもばねとして利用されている。既存の金属ばねでは対応不可能な700℃から1000℃の高温下でも実用できる耐熱性を持つ。セラミックスは脆性材料であり、小さな欠陥でも破壊に至り、強度のばらつきが大きいため、ばね用材料としては不適当と以前は考えられていた。その後の製造技術の進歩によって、高強度のセラミックスが誕生し、ばねとして実用可能となった。実際の使用例としては、高温下使われる治具用ばねに窒化ケイ素が使われている。 気体や液体の流体を利用するばねも存在し、特に空気の弾性を利用したばねは「空気ばね」と呼ばれる。一定温度下では気体の体積は圧力に逆比例するというボイルの法則が、空気ばねの弾性を生み出す基本原理となる。ばねの高さ・受けることができる荷重・ばね定数が独立に設定できる、絞りを設けることで減衰力を発生させることができる、調整弁を設けることでばね高さを一定に保つことができる、といった長所を持っている。特に、一つ目の長所により、同じ条件下の金属ばねと比較してばね定数を小さくでき、車両の懸架装置として用いた場合は乗り心地を良くすることができる。形状によって、ベローズ形とダイヤフラム形の2種類に大きく分けられる。欠点としては、金属ばねと比較して構造が複雑で、空気ばね以外の付属装置も必要となり、コストが高い。 空気ではなく、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを利用するばねもあり、このようなばねは「ガスばね」と呼ばれる。ばね特性設定の自由度が高く、省スペースで大きな荷重を働かすことができるといった長所がある。一方で使用温度に制約があり、ガス漏れのおそれがあるといった短所がある。
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