軸箱支持剛性の影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/20 21:40 UTC 版)
カーターの研究では、台車枠と輪軸が剛結合している台車モデルにより解析されていた。しかし実際の台車枠と輪軸は相対動きを許容するため何らかの非剛的な結合がされている。このような台車枠-輪軸間の剛性のことを軸箱支持剛性と呼ぶが、軸箱支持剛性が蛇行動特性に与える影響の研究について、以下のように、第二次世界大戦後の日本とイギリスにより主立って進められた。 1946年から1957年にかけて、日本国有鉄道により貨車の速度向上の試みがなされた。この二軸車の貨車は、低い速度でも蛇行動が発生することが問題とされていた。この過程で、鉄道技術研究所の松平精により、航空工学のフラッター理論に基づく運動解析と、車両の1/10スケールモデルの実験によって蛇行動の研究が進められた。この研究の中で、蛇行動は自励振動の一種であり、レールの不整のような外的要因が無くても発生し得ることが示された。松平によれば、この頃の古くからの日本の鉄道技術者たちは、蛇行動の原因は蛇行動曲がりと呼ばれるレールの正弦波形の軌道狂いにより発生するものという説を主張していた。松平の研究が浸透する内に、このレールの軌道狂いを原因とする説は姿を消していった。また、この研究で用いられた車両のスケールモデルによる実験は、レールに相当する回転円盤上に車両を設置して走行する模型車両を定置で模擬・実験するもので、回転円盤を用いた定置形式の車両走行試験の始まりでもある。松平の研究は最初は日本語で発表されたこともあり欧米では良く知られなかったが、ウィッケンス(A.H. Wickens)の著作によると、松平の研究が走行安定性に対する輪軸支持剛性の効果の最初の研究としている。松平は、上記の研究を基に、1951年に蛇行動防止のための2段リンク式走り装置を開発し、後の二軸貨物車の速度向上に貢献している。また、回転円盤を使用した車両試験台は、1/10スケールモデルから1/5スケールモデル用へ発展し、さらには実車を乗せることができるサイズの試験台も開発され、共に初代新幹線用台車の蛇行動試験に用いられ、新幹線の開発に貢献した。日本における蛇行動の研究については、鉄道車両の台車史#日本における多様化についても参照のこと。 1960年代前半、イギリス国鉄は、上記の日本の国鉄と同じように二軸貨車の速度向上の試みを進めていたが脱線発生の増加に悩まされていた。イギリス国鉄はこの問題を解決するため航空産業の技術者だったアラン・ウィッケンス(Alan H Wickens)を採用し、彼が率いる研究チームが結成され、以降は理論、実験の両面からの精力的な研究が進められた。1963年に同研究所のキング(B. L. King)により、続く1965年同研究所のポーレイ(R. A. Pooley)により実車スケールの実験で蛇行動限界速度、振動モードの測定が成され、理論予測と実験の比較もなされている。ウィッケンスは、解析モデルの中で輪軸支持剛性に注目し、輪軸と車体(あるいは台車)間に左右剛性とヨーイング剛性を導入する設計手法を考案する。その後、この考え方の車両モデルは同研究所のブーコック(D. Boocock)により曲線通過解析への応用がなされ、蛇行動特性と曲線通過特性を統一的に扱うための2輪軸と台車間のせん断剛性、曲げ剛性という考え方が考案される。これらの研究成果は、イギリス国鉄の1969年から1975年の高速貨車計画のHSFVシリーズ(en:High Speed Freight Vehicle)の開発へと反映されていく。
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