観光名所と文化財保護における問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 03:32 UTC 版)
「万里の長城」の記事における「観光名所と文化財保護における問題」の解説
現在、万里の長城は中華人民共和国政府によって、重要な歴史的文化財として保護されているが、万里の長城はあまりにも長大すぎるために、メンテナンスの手が行き届かず、観光用に整備された一部のほかは、かなりの部分が、明代に建設されて以降整備されることもなく、そのまま崩落するに任せている状態である。 一方で、修復の進んだ北京市周辺の長城は、観光名所として多くの観光客が押し寄せている。特に八達嶺長城は、北京市から60kmというアクセスの良さも相俟って、中国観光の目玉の一つとなっており、世界からも観光客が押し寄せる場所である。 著名人も中華人民共和国を訪問した際に、万里の長城を訪問することは珍しくない。中華人民共和国においても、万里の長城は大観光地のひとつであり、大型連休期間中などには、長城を埋め尽くすほどの観光客が押し寄せる。 観光客向けに整備されていない長城は野長城と呼ばれる。近年は整備されていない野長城としての趣を評価する向きもあるが、ただでさえ崩落が進み危険な野長城にわざわざ登って荒らしたり遭難したりする観光客がみられたため、野長城に登ることが2006年施行の「長城保護条例」で禁止された。 しかし、未だに野長城に登ろうとする観光客が後を絶たず、2011年には北京市だけで49件の事故・9人が死亡し、2012年には日本人ツアー客が、野長城の付近の山で遭難して死亡する事故があった(野長城は、険しい山中にあるため、山に入る時点で危険であり、中国の法令に違反しているため、ツアーでも絶対に登ってはいけない)。 また、地元住民が長城のレンガを建築資材用に盗んだり、骨董品として販売するなどし、万里の長城の破壊が進んでいる。また、長城がダム工事により一部沈んだり、道路建設により分断もされている。観光客の多い北京市近郊などでは、心無い観光客による落書き や立ち入り禁止を無視しての遭難が絶えない一方で、潤沢な予算によって続々と長城の復興が進められている。 しかしその他の長城、特に中華人民共和国で、最も貧しい地域の1つである甘粛省や陝西省では、地元住民による建材の略奪の他、現地当局にまともな予算も専門家もいないことから、雑な修復がされる箇所も見られる(ほとんど現存していない秦代、漢代までの物を含めると総延長2万キロを超える)。長城の破壊には50万元以下の罰金または10年以下の禁錮刑の罰則が存在するが、それにもかかわらず万里の長城の破壊は進行しつづけている。 2006年4月に行われた中華人民共和国の学術団体「中国長城学会」の調査によると、万里の長城が有効保存されている地域は、全体の2割以下で、一部現存している地域も3割であり、残り5割以上は姿を消しているとの報告があった。2015年には、明代長城のうち、およそ3割が風化やレンガの略奪などで消滅したとの報道があった。 2009年には、内モンゴル自治区において、金の採掘のために、鉱山会社が万里の長城の一部を破壊したとの報道があった。 一方で、探査技術の進歩や開発の進展によって、古い時代の長城が新たに発見されることは珍しいことではない。2009年には、吉林省通化市で、秦・漢時代の長城が新たに発見され、長城の東端が11km東に伸びたとの報道があった。 2009年4月18日、中華人民共和国国家文物局は、万里の長城の総延長を、従来の6,352 km(東端は河北省山海関とされていた)から、8,851.8kmに修正発表した。狼煙台5723カ所も確認され、煉瓦などでできた人工壁6259.6kmに加え、くぼみや塹壕部分の359.7 km、崖などの険しい地形2232.5kmが含まれたことから、総延長が延びたとみられる。 2012年6月5日、中華人民共和国国家文物局は、秦代、漢代など他時代を含んで調査した所、万里の長城の総延長は従来の2倍以上の21,196.18kmであったと発表した。 2016年9月23日、遼寧省にある長城の一部が、修復作業の際に業者がコンクリートで平らに塗り固めていたことが判明した。中国国内でも「爆破したほうがまし」など怒りの声が挙がっている。後に中国政府も「歴史的な容姿が著しく損なわれた」として、修復作業に関わった業者の責任者らを処分する方針を示している。 万里の長城は世界でも広く知られている、中華人民共和国を代表する観光名所であるため、特に北京市近郊の長城においては、大規模なイベントに利用されることが多く、しばしば中国国外の有名人が招かれて、イベントを行うこともある。2007年にはフェンディのファッションショーが長城で行われ、2008年には北京オリンピックの聖火リレーにおいて、八達嶺を通過した。
※この「観光名所と文化財保護における問題」の解説は、「万里の長城」の解説の一部です。
「観光名所と文化財保護における問題」を含む「万里の長城」の記事については、「万里の長城」の概要を参照ください。
- 観光名所と文化財保護における問題のページへのリンク