(3) 著作権市場の健全化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/16 14:17 UTC 版)
「デジタル単一市場における著作権に関する指令」の記事における「(3) 著作権市場の健全化」の解説
目的3点目の「市場健全化」とは、著作物を第三者が利用した際に、著作権者に公正な報酬が支払われる仕組みを目指した内容である。しかし、第15条 (原案では第11条) と第17条 (原案は第13条) はそれぞれ「リンク税」「アップロード・フィルター条項」と批判的に呼ばれ、指令の提案から成立にかけて世論は賛否両論を繰り返したことで知られている。 ※指令が欧州議会で可決した2019年3月時点でも、メディアでの報道は原案の条番号で表記していることがあり、留意が必要である。 報道著作物 まず「報道著作物」(英: press publications) についてである。DSM著作権指令における報道著作物とは「編集・校閲体制を整えた新聞、雑誌、ニュース報道など、いわゆるジャーナリズム活動によって創作される言語著作物を主体とする。ただし、科学論文雑誌など科学・学術を目的とした定期刊行物については、当定義に含めない」とされる (第2条 定義)。第三者の報道著作物をニュースアグリゲータなどインターネットサービス事業者が利用する場合、利用料を支払わなければならないとDSM著作権指令で規定された (第15条)。例えばGoogleニュースで新聞や雑誌記事が使われた場合、発行元である新聞社や雑誌社はその記事利用料をGoogleニュースに対して要求できる。なお、このような報道著作物の執筆者 (つまり著作者) が例えばフリーランスなどの立場で新聞・雑誌などに寄稿している場合、新聞社・雑誌社に対して原稿利用のライセンス許諾を与えているか、または著作権そのものを譲渡しているケースが考えられる。このような場合でも、インターネットサービス事業者が利用料を支払う相手先は新聞社・雑誌社であり、ライセンス許諾または譲渡契約の内容に基づいて、利用料を執筆者に分配するマネーフローとなる (第16条)。 第15条はあくまでインターネットサービス事業者を想定していることから、以下の条件に該当する場合は利用料の支払義務は発生しない。 インターネットサービス事業者ではなく個人が利用し、かつ私的または非営利目的の場合 ハイパーリンクを使って報道内容をオンラインでシェアした場合 (例: Facebookなどのソーシャルメディアでオンライン新聞記事のリンクを紹介する投稿) 報道内容に関して独自の表現で説明・論評したり、報道内容のごく短い箇所を引用した場合 ユーザ・アップロード型のコンテンツ 続いて、一般ユーザが創作してYouTubeやFacebookなどにアップロードした文章や画像・音声などの扱いだが、ユーザ本人に著作権が発生することから、アップロード先 (いわゆるプラットフォーム事業者) との間で権利関係の問題が発生する。DSM著作権指令では、2001年の情報社会指令の方針を踏襲する形で、プラットフォーム事業者がユーザからライセンス許諾を得るなどの権利処理を求めている。これにより、アップロードしたユーザは報酬に関してプラットフォーム事業者との間で交渉しやすくなることが期待されている。ただし、コンテンツ共有が非営利目的あるいは少額の収益に限定される場合は、たとえライセンス許諾などの手続を怠ったとしても免責される (第17条)。 なお、非営利で運営されるウィキペディアや、教育・科学目的のオンラインレポジトリー、GitHubに代表されるオープンソース向けソフトウェア開発プラットフォーム、B2Bのクラウドサービスなどは第17条の適用対象外となる。 また表現の自由を擁護するため、同17条では引用、批判、解説、カリカチュア (風刺画)、パロディないしパスティーシュ (模倣) の目的であれば、ユーザがコンテンツを自由に創作してアップロードできると定めた。換言すると、これらのコンテンツをプラットフォーム事業者が著作権侵害のおそれがあるとして、みだりに削除してはならない。過去にこのような制限・例外規定を導入するかはEU加盟各国の判断に任されていたが、DSM著作権指令によって明示的に義務化されている。 プラットフォーム事業者に課された規定には、"best efforts" (最善を尽くして)、"with high industry standards of professional diligence" (業界の慣行に基づいた高水準の対応に基づき) といった表現が使われており、ライセンス許諾や利用料などの具体的な手続がDSM著作権指令上で定められているわけではない。よって、あくまで業界や時世に則したEU加盟各国の国内法化に任されており (第17条)、私的契約の自由と著作者・著作隣接者が受け取れる報酬の公正性の間で、バランスをとることが求められている (第18条)。
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