臨死体験と心脳問題
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心停止状態にある人間の臨死体験を研究する事は心脳問題のアプローチと成り得る。臨死体験研究においては、脳機能が停止(あるいは極端に低下)し意識不明の状態にある患者が、明晰な意識や思考を保ったまま「身体から抜け出し」病室や遠隔地の光景を(意識回復後に)正確に描写する例などが存在する。明るい部屋に入り、電灯のスイッチをOFFにしても室内がまだ明るいままなら、光源は電灯の他にあると考えざるを得ない。従ってこうした臨死体験例は、心や意識が脳とは独立に存在する事を示唆していると捉える研究者も多い。 こうした立場によく見られる仮説として、脳を意識のフィルターあるいは変換器と捉える解釈がある。研究者のヴァン・ロンメル(英語版)やエベン・アレグザンダー、東京大学医学教授の矢作直樹などの見解が挙げられる。 エベン・アレグザンダーの仮説 2012年10月、ハーバード大学の脳神経外科であるエベン・アレグザンダーは、かつては唯物論者であり心脳一元論者であったが、脳の病に侵され入院中に臨死体験により回復するという体験をした。退院後、体験中の脳の状態を徹底的に調査した結果、昏睡状態にあった7日間、脳の大部分は機能を停止していたことを確認した。また臨死体験中には、かつて顔も知らないまま生き別れになった姉に出会うなど、通常の脳機能では知覚し得ない情報も得られた。そうした体験から「脳それ自体は意識を作り出さない」だろうと述べている。。 ロジャー・ペンローズ・スチュワート・ハメロフの仮説 ロジャー・ペンローズとスチュワート・ハメロフは心脳問題と臨死体験の関連性について以下のように推測している。「脳で生まれる意識は宇宙世界で生まれる素粒子より小さい物質であり、重力・空間・時間にとわれない性質を持つため、通常は脳に納まっている」が「体験者の心臓が止まると、意識は脳から出て拡散する。そこで体験者が蘇生した場合は意識は脳に戻り、体験者が蘇生しなければ意識情報は宇宙に在り続ける」あるいは「別の生命体と結び付いて生まれ変わるのかもしれない。」 マリオ・ボーリガードの仮説 モントリオール大学の神経科学者マリオ・ボーリガードは臨死体験における心脳問題と関連して、「脳が損傷を受けたことにより人の精神機能に変化が起こったからといって、精神や意識が脳から生まれているという証明にはならない。プリズムを白い光が通過すると、分光が起こって様々な色のスペクトルが生じる。だが、これはプリズムがあるから光が違って見えるのであり、プリズムそのものが光源になっているわけではない。それと同じように、脳は人間の精神や意識の状態を受容し、変容させ、発現するが、そこが光源というわけではない」と述べている。 バーナード・カーの仮説 クイーンメリー大学のバーナード・カー(英語版)によれば「人間の精神は別の次元と相互作用によるものであり、多次元宇宙は階層構造になっており、私たちがいる次元はその最下層にあたる」という。そして「少なくとも4つの次元が実際にあるが、このうち人間の物理的なセンサーは3次元宇宙にのみ働いている」「超常現象の存在は、精神がこの実体宇宙の中に存在しなければならないことを示唆している」と述べている。 前世記憶と心脳問題 臨死体験の関連研究として前世記憶の研究がある。仮に人間が前世の記憶を保持しているとすれば、それは肉体の死により意識が消滅せずに記憶が持ち越されたと考えられるため、心身二元論を支持している事となる。 前世記憶の研究者としてはヴァージニア大学のイアン・スティーヴンソンやジム・タッカーが挙げられる。イアン・スティーヴンソンは幼い子供が前世の記憶を持っていたとする事例を2000例ほど集め、様々な説(虚偽記憶説や作話説など)を検証した結果、「生まれ変わり説」を結論として受け入れている。ジム・タッカーは「物理世界とは別の空間に意識の要素が存在」し「その意識は単に脳に植え付けられたものではない」と自説を述べている。
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臨死体験と心脳問題
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脳科学者である茂木健一郎は、臨死体験の不思議は、目の前に机が見えるということの不思議と同質のものであり、心脳問題の観点から捉えるべき、という内容の発言をしている。 臨死体験の研究成果が普及するにつれて、従来の神経科学研究の前提である「心・意識は脳が生み出す」という心脳一元論に疑問を呈する声も出てきている。ヴァン・ロンメルは、臨死体験を研究した結果、意識は本来は時空を超えた場所にあるのではないかと考えるようになり「脳が意識を作りだすのではなくて、脳により意識が知覚される」のではないかと述べている。ロンメルは意識と脳の関係を、放送局とTVの関係に例えている。また、ケネス・リングやエベン・アレグザンダーは、脳は意識の加工処理器官であるという説や、脳の機能は本来の意識の働きを制限し選別するものだという説に傾いている。 明るい部屋に入り、電灯のスイッチをOFFにしても室内がまだ明るいままなら、光源は電灯の他にあると考えざるを得ない。従って脳波がフラットな状態での臨死体験例は、心や意識が脳とは独立に存在するという事実を示唆している、とサム・パーニアは述べている。こうしたNew Dualismとも呼ばれる潮流に対して、まだ仮説に過ぎないとの指摘もある。
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