立法権と行政権の関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 09:16 UTC 版)
行政府から立法府への抑制手段の例としては、政府独自の立法権、法律裁可権、法律発案権、法案の拒否権などが挙げられる。この他、議院内閣制において重要なものに議会解散権がある。但しこのうちの如何なる抑制手段を認めるかは、国や時代により異なる。 政府独自の立法権 行政府に一定の独自の立法権が認められている場合には、立法府への抑制手段となる。大日本帝国憲法下においては、議会の関与しない立法として緊急勅令(大日本帝国憲法第8条)と独立命令(大日本帝国憲法第9条)が認められていた。これに対して日本国憲法下では、国会が国の唯一の立法機関であると規定されている(日本国憲法第41条)。内閣には政令制定権が認められているが(日本国憲法第73条6号)、法律を前提としない独立命令や法律に反する代行命令は禁止されており、法律を執行するための執行命令と法律により委任を受けた委任命令に限られている。これは行政立法の一種ではあるが、国会への抑制手段とは言えない。 法律裁可権 大日本帝国憲法下では天皇に法律裁可権を認めていた(大日本帝国憲法第5条)。これに対して日本国憲法下では、行政府による法律裁可権を認めず国会を国の唯一の立法機関とし(日本国憲法第41条)、原則として国会の議決のみによって法律は成立するとしている(日本国憲法第59条1項)。 法律発案権 議院内閣制の下では首相に法律案の提出権が認められている。これに対して、大統領制の下では大統領の法律発案権は認められていない(教書の送付に留まる)。 法案の拒否権 アメリカ合衆国憲法で採用されている(第1条第7節第2項)。すべての法律案は法律となる前に合衆国大統領に送付されるが、大統領は承認しない場合には拒否理由を添えて議院に差し戻すことができる。この場合、各議院はそれぞれ3分の2以上の賛成で再可決・承認すれば法律となるとしている。 議会解散権 議院内閣制の下では首相に議会解散権が認められている。日本では内閣に衆議院解散の権限が認められている(実質的根拠について争いがある)。これに対して、大統領制の下では一般に大統領の議会解散権は与えられていない。 立法府から行政府への抑制手段の例としては、行政の組織や権限に関する立法権、条約批准権、国政調査権、質問権、質疑権、報告受理権などがあり、このほか議院内閣制においては内閣総理大臣の指名や内閣不信任決議がある。このうちの如何なる抑制手段を認めるかは、行政府から立法府への抑制手段の場合と同様に国や時代により異なる。 行政の組織や権限に関する立法権 立法府が行政の組織や権限に関する立法を行うことは、それ自体が行政府への抑制手段となる。 条約批准権 日本国憲法下においては、条約の締結権を内閣の権限とする一方、事前または事後に国会での承認を必要としている(日本国憲法第73条3号)。なお国際法上、基本的な重要性を有する国内法の規則に違反して締結したことが明白な条約は無効にできる(条約法に関するウィーン条約第46号第1項ただし書き)。 国政調査権 日本国憲法下においては、両議院に国政調査権を認めている(日本国憲法第62条前段)。 質問権 日本では国会法で、国会議員は内閣に質問することができるとする。質問は議題とは関わりなく内閣に対して説明を求めたり、所見を質したりするものである。 質疑権 日本では衆議院規則及び参議院規則で、国会議員は議題案件について疑義をただすことができるとする。 報告受理権 日本では一般国務および外交関係(日本国憲法第72条)、国の収入支出の決算(日本国憲法第90条)、国の財政状況(日本国憲法第91条)について憲法に規定がある。 内閣総理大臣指名権 議院内閣制の下での内閣総理大臣の選出方法について、イギリスでは二大政党制の下で下院の第一党の党首が首相に任命されるのが慣行となっているのに対し、日本やドイツでは議会で首相指名選挙が行われる。 内閣不信任決議権 議院内閣制の下では議会には内閣に対する不信任決議、一方の内閣には議会解散権が認められているため、両者に意思の対立があれば、解散を経て議会選挙を通じて国民がその問題に決着をつけることになる。日本では内閣は国会に対して連帯して責任を負うとされ(日本国憲法第66条3項)、衆議院に内閣不信任決議を認めており、衆議院で内閣不信任決議が可決されたときは内閣は10日以内に総辞職か衆議院の解散・総選挙を選ばなければならない(日本国憲法第69条)。
※この「立法権と行政権の関係」の解説は、「権力分立」の解説の一部です。
「立法権と行政権の関係」を含む「権力分立」の記事については、「権力分立」の概要を参照ください。
- 立法権と行政権の関係のページへのリンク