着陸地点の選択
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/14 03:12 UTC 版)
16号は月面に三日間滞在し、月面車を使用して科学的探査の能力を増強させた「J計画」の二回目の飛行を実行することになっていた。アポロ計画においては最後から二番目の飛行であり、機器や月面での実験について新しい項目が追加されることはなかったため、最後の16号と17号は月の特性について理解が不十分だったいくつかの点を解明する機会を飛行士たちに与えた。16号以前の飛行で持ち帰られた資料は、月の内部から噴出した溶岩が低地や盆地を覆ったことによって形成された月の海からのものであり、月の高地については人類は未踏破の状態だった。 14号と15号が着陸してサンプルを回収したのは雨の海の周辺域で、そこは今から三十数億年前に巨大な隕石が衝突し、そのとき月の内部から噴出した物質が堆積したことで形成された場所だった。これに対し月の高地には、海の領域とは異なる地質学的現象が広範囲に存在していた可能性があった。いくつかの科学者グループは、月の中央高地は地球の火山活動で造成された領域と似通っていると主張し、同じことが月でも起こったのではないかという仮説を立てた。彼らは16号の科学的成果がその答えを導き出してくれることを期待していた。 16号の着陸地点には、当初は神酒の海 (Mare Nectaris) の西部にあるデカルト高地と、アルフォンサス (Alphonsus) クレーターの二ヶ所が候補に挙げられていた。望遠鏡や月周回軌道上から撮影した写真を分析した結果、科学者たちはデカルト高地のケイリー・クレーターにまず第一に興味を抱いた。その地形は、月の海を形成したものよりも粘度の高いマグマによって作られたと思われたからである。周囲にあるクレーターの数から、ケイリーは雨の海とほぼ同じ時期にできたものであると予想された。またデカルト高地の位置は16号以前のアポロ計画の着陸地点とは大きく距離が離れていたため、ここに惑星物理学的観測機器を設置すれば、12号以降で月面に置かれた「アポロ月面実験装置群 (Apollo Lunar Surface Experiments Package, ALSEP)」との間で有効なネットワークが形成されることが期待された。 これに対してアルフォンサス・クレーターでは、主要かつ最重要の関心事として三つの科学的目標が設定された。一つはクレーター壁内部から海ができる以前の隕石の衝突で生成された物質を発見すること、二つ目はクレーター内部から資料を採集すること、そして三つ目は暗い「後光 (ハロー, halo)」を持つ周辺にあるいくつかの小クレーターの底から、過去の火山活動の痕跡を発見することである。地質学者たちはしかしながら、クレーターから採集されたそれら古い時代のサンプルは後に雨の海を形成した巨大隕石の衝突によって変質してしまっており、海が誕生する以前の岩石は採集できないのではないかと懸念していた。さらに14号と15号で得られたサンプルは、16号で採集されるであろう資料の科学的要求をすでに満たしてしまっている可能性もあった。この時点で14号のサンプルはまだ完全に分析が終わっていなかったし、15号に関しては手もつけられていない状況だったのである。 そのような経過で、16号の着陸地点はデカルト高地に決定した。これに伴いアルフォンサスは17号の着陸候補地点となったが、最終的には除外されることとなった。一方で14号が軌道上から撮影した写真を分析した結果、デカルトは十分に安全な着陸地点であると判断され、さらに具体的な目標地点も直径1,000メートルのノースレイ (North Ray) と直径680メートルのサウスレイ (South Ray) という二つの若いクレーターの中間と定められた。このクレーターは隕石の衝突によって形成されたもので、レゴリスを貫通する天然の「ドリル痕」があるため、月面にさらされた基盤岩を採集できるものと期待された。 着陸地点が決定した後、16号の最終目的はデカルト高地とケイリー・クレーターという二つの地質学的単位からサンプルを収集することであると定められた。多くの科学者はこの地形は火山活動によって造成されたものではないかと考えていたが、後に16号が持ち帰ったサンプルを分析した結果、この仮説は誤りであることが判明した。
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着陸地点の選択
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「タウルス・リットロウ渓谷」の記事における「着陸地点の選択」の解説
アアポロ計画の最後の月探査となるアポロ17号では、探査の科学的生産性を最大限に高めるため、計画者はさまざまな科学的目標を設定した。以前のミッションで検討され、却下された着陸地点も再検討された。タウルス・リットロウ渓谷は、ティコ・クレーター、コペルニクス・クレーター、月の裏側のツィオルコフスキー・クレーターなどとともに、アポロ17号の着陸候補地の1つとして検討された。 計画担当者は最終的に、タウルス・リットロウ渓谷を除くすべてを、運用上の正当化と科学的な正当化の組み合わせの検討から除外した。 Tychoへの着陸は、起伏の多い地形のため、ミッションの安全性に問題があると考えられていた。月の裏側にあるツィオルコフスキー・クレーターに着陸すると、着陸後に宇宙飛行士とミッションコントロールの間の連絡を維持するために必要な通信衛星の費用とロジスティックの難しさが増すことから除外され、また、アポロ12号のデータから、コペルニクスの衝突のタイミングと履歴を測定する機会が既に得られていた。 アポロ計画の立案者は、古代の高地物質と若い火山物質を同じ着陸地点で採取することが可能であると考え、古代の高地物質はティコ噴出物の形で、若い火山物質は谷底のクレーター状の地形のいくつかが火山起源であると考えられることからタウルス・リットロウ渓谷を最終的に選択した。
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