現行方式との比較
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/11 05:17 UTC 版)
現在、地球上から宇宙空間へ人間や物資を運ぶ手段はソユーズなどの化学ロケットしか存在しない。各国、コスト削減と成功率の競争中であり、日本はH-IIAロケットを開発運用中である。 ロケットを宇宙への物資運搬手段として考えた場合、地球の重力に抗して宇宙空間まで移動するのに莫大な燃料を消費する。ロケットは、原理的に本体の重量のおよそ90%以上を燃料が占めるので効率が悪い。また、燃料として過塩素酸塩を含有する固体燃料や非対称ジメチルヒドラジンなどを使用するものは燃料そのものが有害物質で、燃焼時に有毒物質を発生して環境汚染の原因になる。爆音や有毒ガスの発生以外にも、信頼性や事故発生時の安全措置の面でも不安がある。 このため、将来恒常的に大量の物資・人員を輸送することを念頭に置いた場合、経済的で低公害の輸送手段が望まれる。現在、ロケットに代わるさまざまな輸送手段が検討されており、軌道エレベータはその一つである。 エレベータの乗り込む部屋に相当する「籠」の昇降には電気動力などを使い、ロケットのように燃料自体を運び上げる必要がないため、一度に宇宙空間に運び出す、または宇宙から運び降ろす物量を大幅に増やすことができる。また、上るときに消費した電力は位置エネルギーとして保存されているので、降りでは回生ブレーキを使って位置エネルギーを回収し、エネルギーの損失を抑えることができ、コストが非常に安くて済む。一つの試算によると現行ロケットの場合、物資1ポンドあたりの輸送コストが4 - 5万ドルであるのに対し、軌道エレベータの場合約100ドル(1kg当たり220ドル)となる。電力供給に関しては有線、無線式どちらも検討されている。加えて太陽電池や燃料電池も有効とされている。有線での給電では、カーボンナノチューブはそれに必要なだけの伝導性を持たないため、支柱へ別途送電線を組み込む必要がある。 昇降機がケーブルと接触した状態のまま動く場合、その速度を200km/h程度とした場合、地上から静止軌道までは約1週間、上端までは更に5日間かかることになる。静止衛星用のロケットは時速40,000km以上となるが、直接静止軌道へ行くことはなく、いくつかの軌道を遷移して遠回りするように移動するため10日ほどかかっている。エレベータの安全性から、特別な訓練を受けた宇宙飛行士でなくとも宇宙に行くことができるようになると想定されるが、非常に時間が掛かるため、利用者にストレスを与えないように、旅客用の昇降機(籠)には高い居住性を持たせる必要がある。リニアモーターなどを使用すれば時間を短縮でき、例えば昇りのとき1Gで加速し、中間点からは1Gで減速すると約1時間で静止軌道に到着することになるが、中間地点での速度は64,000km/hに達する。ただし、現在研究中のプランでは磁気浮上方式は検討対象外になっている。ちなみに、ISSは近地点高度278km、遠地点高度460kmの範囲の軌道に維持されている。この程度の高度でよければ、200km/h程度の速度でもごく短時間に到達できる。 なお、通常のエレベータと違い、1本のケーブルを複数の昇降機が同時に利用することになる。しかしながら、単線の列車と同じシステムなわけで、すれ違い駅を設けることができるまでは、片道通行での運用しか考えられない。したがって、現実的には、貨物列車のように昇降機を同じ方向にのみ動かし貨物量を稼ぐ、単線運用が実用的である。
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