現代小説など
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1933年の『霧笛』以来、生まれ故郷横浜の幕末開花期を舞台にした作品に、『花火の街』『幻燈』『薔薇の騎士』『その人』などがある。『霧笛』については後に「私は横浜生れだし、明治時代の古い横浜に郷愁のやうなものを感じて成長して来た。震災の後に戦災で、もとの面影が跡かたなく消えて了つて見ると。『霧笛』を書いて置いてよかつたと思つてゐる」(『大佛次郎作品集』1951年 あとがき)と書いている。1936年に朝日新聞に連載した『白い姉』で現代小説も書き始め、続く『ふらんす人形』では、ダンスホールで働く当時では珍しいダンサー姉妹を描き、『雪崩』では社会不安を感じ始めてきた昭和初期の若者たちを描いた。この頃仕事場にしていたホテルニューグランドを憂さ晴らしにしばしば抜け出して、横浜中華街の酒場や中華料理店での付き合いや人物観察から、『霧笛』などの作品が生まれた。 『白い姉』(1932)に登場するモダンガール佐保子が告白する、所有物から感じる息苦しさは、サルトル『嘔吐』に描かれる実存の不安と同質なものであり、人間が持ち物から影響を受ける点でマルクス初期の疎外論に近いものであること、また『黒潮』(1948)ではピエール・ジョゼフ・プルードンの「財産は盗みである」という命題を元にした台詞があることを、村上光彦は指摘している。井上靖は、日本の文壇には一つの特別席があり、その席に座っている作家として、泉鏡花、次いで谷崎潤一郎、そして大佛次郎であると述べている。都筑道夫は大佛次郎の文体模写に励み、自身の初期の時代小説は「角田喜久雄が書くような伝奇小説を大佛次郎の文体で書いたものだった」と述べている。 戦後すぐに発表した『帰郷』について大佛は「戦後に心にきざした或る怒りから生れた」と述べ、敗戦直後の日本の混乱に乗じたような人々が、元軍人のニヒリストと対比して描かれている。また続いて書かれた『宗方姉妹』『旅路』『風船』などの作品とともに、山本健吉は「氏の時代小説にあったロマネスクな要素は、ここでは次第に影をひそめて来て、心境小説的な要素がいちじるしく加わって来ている」と評している。 『帰郷』は1955年に英訳され、続いてスペイン語、イタリア語、ノルウェー語、フィンランド語で刊行されている。『旅路』も1961年に英訳、続いてスウェーデン、フィンランド語に訳される。『帰郷』について『ネイション』誌では「戦後の日本の他に類例の無い生活風景描写の中で、この小説は人間の淋しさ、愛情、恐怖、および貪欲の普遍性を扱っている。」と評した。
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