林冲像の形成とは? わかりやすく解説

林冲像の形成

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/28 15:54 UTC 版)

水滸伝の成立史」の記事における「林冲像の形成」の解説

豹子頭林冲(第6位)は、現行水滸伝』で序盤魯智深柴進楊志重要人物橋渡しする役割持ち人気も高い人物であるが、先述のように『癸辛雑識』に引く宋江三十六人賛の中にその名は見られず、比較新しいキャラクターである。その容貌は「身長八尺、豹頭環眼、燕頷虎鬚」と形容され、丈八蛇矛用いるという描写は、『三国志演義』張飛描かれ方と全く同じであり、実際に彼は梁山泊内で「小張飛」とも呼ばれている(第48回)。しかしながら短慮粗暴な性格ながら楽天的喜劇的な人物として描かれる張飛とは異なり林冲沈着冷静悲観的悲劇的な人物であって張飛的な外見とは大きな隔たりがある。すでに述べたように明初の雑劇『豹子和尚自還俗』では、豪放磊落な(張飛的な性格を持つ)魯智深同様のあだ名呼ばれており、「豹子」の語は張飛的なキャラクターを表すあだ名になっていたことが伺える。これは、梁山泊序列林冲1つ上に位置する第5位の関勝が、張飛義兄であった関羽の子孫で、容貌関羽そっくりという設定があったことから、『三国志演義』関羽・張飛ペア対比する形で、関勝林冲組み合わせとして性格設定されたと見られるが、現行水滸伝』の林冲に関する物語からは、張飛的なエピソードはあまり多くないまた、物語上で関勝林冲絡み少ない)。 ただし、概ね冷静沈着である林冲性格も、途中で幾たびか変化する場面見られる林冲主役として活躍する物語第7回から第11回までであるが、後半第10回には陸謙殺害した後、雪山逃亡する途中焚き火で暖を取っていた農民酒肉求めて断られると、力尽く農民らを追い払い一人で酒を飲んで酔いつぶれ、逆に捕らわれてしまうという破天荒自暴自棄的な姿が描かれそれまで林冲像とかなり矛盾している。これを無実の罪で陥れられ、やむなく殺人犯すという破滅的な局面追われ林冲性格の変化捉える高島俊男のような見方もあるが、この場面で林冲性格は、むしろ『三国志演義』における張飛描かれ方と同じである。このほかにも林冲恩人と慕う小二が「教頭短気なお人で、すぐに人殺し火付けをなさる」と述べるなど(実際林冲そのような行動見られない)、張飛性格残滓いくつか水滸伝』にも見られる一方で崑曲京劇など演劇世界では通常林冲はひげのない二枚目役者演じることが慣習となっており、生真面目性格悲劇的な人物として描かれていた。このような相反し林冲像は、元々の小説的構想であった小張飛」的林冲という造形の上に、演劇など演じられる二枚目冷静な林冲物語かぶせてできあがったためと思われる演劇における林冲物語は「夜奔」と呼ばれ、これは明代中期開先(zh)(1502年 - 1568年)が作成した宝剣記』という南曲元になっている。『宝剣記』における林冲は、愛妻との別離悲劇ヒーローぶりが『水滸伝』と共通しており、『宝剣記』の林冲夜奔物語が『水滸伝物語形成過程取り込まれ可能性伺える。しかし『宝剣記』は先の自序によれば嘉靖26年1547年)の成立であり、百回本として確立した武定本の成立期1540年頃)よりも後に書かれと見られるため、逆に宝剣記』が『水滸伝』の林冲物語参考にして書いたものと見なされてきた。ただし近年小松謙研究により、開先はこの物語一から作ったではなく交流のあった劉澄甫や陳溥の父が作成した話を集大成したことが判明し物語成立自体数十さかのぼ可能性指摘された。また陳与郊が『宝剣記』を改作した南曲霊宝刀』(1617年)が、『宝剣記』の記述を『水滸伝』の物語整合性を取る方向改変していることからも、原『宝剣記』が『水滸伝』の前に成立し、その林冲物語影響与えている可能性高まった。 『宝剣記』では、林冲官職が『水滸伝』よりも高く設定されていたり、配流される途中出会った公孫勝参軍という歴とした官僚として登場するなど、林冲公孫勝地位設定が『水滸伝』と大きく異なる。両者はともに宋江三十六人賛の中に数えられておらず、『大宋宣和遺事』の段階でも名前のみ登場する影の薄い人物である。独自の物語持たず名前のみが伝えられ2人用いて作られ新し物語が原『宝剣記』であり、それが水滸伝形成過程取り入れられたものと思われる

※この「林冲像の形成」の解説は、「水滸伝の成立史」の解説の一部です。
「林冲像の形成」を含む「水滸伝の成立史」の記事については、「水滸伝の成立史」の概要を参照ください。

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