本事件に関する諸説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/10 08:06 UTC 版)
「メアリー・セレスト」の記事における「本事件に関する諸説」の解説
メアリー・セレストの乗組員と、同乗していたブリッグズら家族の消息は全くわかっておらず、彼らの運命を巡って多くの推測が出されている。最大の謎は、航行が十分に可能な状態であるにも関わらず、なぜ船が放棄されたのかという点である。 最も有力で信憑性のある説は、アルコールの樽を原因とするものである。ブリッグズはこれほど危険な船荷を運送したことがなく、不安を抱えていた。9つの樽から漏れがあれば、船倉内で靄が出るほどになる。歴史家コンラッド・バイヤー(Conrad Byer)の説によれば、ブリッグズが船倉を開くよう命じると、アルコールの匂いと靄が激しく吹き出したため彼は船が爆発すると考えたとしている。ブリッグズ船長は全員に救命ボートに移るよう指示した。急ぐあまり、ブリッグズは丈夫な引き縄で船と救命ボートを適切に結びつけることができなかった。風が強くなると、船は救命ボートから離れてしまった。救命ボートに乗った者は溺れたか、または海上を漂流した結果、飢え、渇き、及び直射日光のために死んだかのいずれかだとされる。 2005年、ドイツの歴史家アイゲル・ヴィーゼ(Eigel Wiese)がこの説を改訂した。彼の提案で、ロンドン大学ユニバーシティカレッジの科学者らは、アルコールという揮発性の船荷からの蒸気が発火したとする説をテストするために、船の船倉の縮小模型を製作した。燃料としてブタンを、樽として紙製の立方体をそれぞれ使用して、船倉は封印され、蒸気が発火した。爆発力は、船倉の扉を吹き開き、棺ほどの大きさの縮小模型を振るわせた。しかしながらエタノールもメタノールも、燃焼温度は比較的低い。発火にはこすれあう2つの金属によって発生するような極微な火花が必要である。紙製の立方体は損傷せず、焼け焦げた痕すら残っていなかった。この説ならば、無傷で見つかった残りの船荷と、「船倉扉の1つによるものかもしれない」として手すりの割れ目の説明がつくはずである。この船倉内のアルコール蒸気が燃焼すれば畏怖の念を抱かせただろうし、乗員がボートを降ろすほどであったかもしれないが、炎は焼け跡を残すほど熱くはなかったはずである。一説によれば、ボート後方に垂れ下がる、端のほつれたロープは、乗員が、緊急事態が過ぎ去るだろうと希望して船にしがみついていた証拠であるという。船は総帆状態で遺棄され、暴風雨が直後に記録されている。総帆状態の船の力によって救命ボートとの間のロープが切れたのかもしれない。暴風雨の中の小さなボートであれば、メアリー・セレストのようには進まないだろうと推測される。 また、乗員間の暴動でブリッグズが殺害され、家族は救命ボートで逃げたという説もなされてきた。しかし、ニューイングランドのピューリタンであるブリッグズは、大変宗教的で、公明正大な人間として知られていた。彼は、乗員に暴動を起こさせるような船長ではなかった。一等航海士アルバート・リチャードソンは、アメリカ南北戦争に従軍したのち船乗りになったが、彼を含めた他の船員もまた評判が素晴らしく良かった。 別の説によれば、船は海上で発生する漏斗雲をもつ竜巻の様な暴風雨(水上竜巻)に遭遇したとする。そういう場合、ボートの周囲の海水は上方に吸い上げられるので、メアリー・セレストが沈みつつあるという印象を与えたとする。しかしながら、水上竜巻には海水を吸い上げるような強いものは無い。仮にあったとしても、そのような強大な竜巻であれば船自体が破壊されてしまうので、これは全く合理的根拠を欠いた説である。さらに進んだ説では、海震が乗員にパニックを起こさせ、船を遺棄させたとするが、当時地震が起きたという記録も無い。 海賊の襲撃があったとする考えもあるが、海賊なら、頑丈な船とその船荷を残しておく事は考えにくく、また、船員らを誘拐して身代金を取ろうとした事実も知られていない。 その他、必ずしも客観的事実に基づかない、都市伝説に近しい推測も広く知られている。例えば、未確認飛行物体による誘拐・拉致や、科学では説明のつかない、バミューダトライアングルなどの超常現象にその原因を帰する説、大ダコが現われて人間を残らず海中に引きずりこんだとする説、等々であるが、この事件そのものは「パニックに陥った乗員が退船した」という単純なものであり、最も不思議なのは、乗り手の居なくなった船が、親しい友人の船長の前に現れた偶然であるとも評される。
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