最初の提案
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/20 00:13 UTC 版)
2月13日、国際連盟委員会において、牧野は連盟規約第二一条の宗教の自由についての規定の後に「各国民均等の主義は国際連盟の基本的綱領なるに依り締約国は成るべく速に連盟員たる国家に於ける一切の外国人に対し如何なる点に付ても均等公正の待遇を与え人種或は国籍如何に依り法律上或は事実上何等差別を設けざることを約す」という条文を追加するよう提案した。牧野は人種・宗教の怨恨が戦争の原因となっており、恒久平和の実現のためにはこの提案が必要であると主張した。また、この提案によって即座に各国における人種差別政策撤廃が行われるわけではなく、その運用は国家の為政者の手にまかされると述べた。牧野の提案は、「黄色人種に対する人種的偏見のために、日本が不利に陥ることのないようにせよ」とする本国からの訓令を解釈したものであった。 ベルギー代表は日本案の条文に反対し、ブラジル・ルーマニア・チェコスロバキアの代表が日本の主張に理解を示す発言を行い、中華民国代表は本国の訓令を待つとして意見を保留した。その後「宗教に関する規定」そのものを削除するべきという意見が多数となった結果、第二一条自体が削除された。牧野は人種差別撤廃提案自体は後日の会議で提案すると述べ、次の機会を待つこととなった。 この提案は日本を含んだ海外でも報道され、様々な反響を呼ぶことになる。牧野は西洋列強の圧力に苦しんでいたリベリア人やアイルランド人などから人種的差別撤廃提案に感謝の言葉を受けた。また米国内からも、全米黒人地位向上協会 (NAACP) が感謝のコメントを発表した。また代表団の中でもハウスは好意的であり、デビッド・ミラー(英語版)に実際に人種平等条項を起草するよう指示している。しかしミラーはこの条項が原則の提示に過ぎず、法的効果を持たないため、無意味な条項であると指摘している。 2月14日アメリカに一時帰国したウィルソンは、「人種差別撤廃提案」が国内法の改正に言及しており、内政干渉に当たるという国内の強い批判に直面することとなった。アメリカ合衆国上院では「人種差別撤廃提案」が採択された際には、アメリカは国際連盟に参加しないという決議が行われており、ウィルソンもこの反対を抑えることはできなかった。 3月14日、牧野はオーストラリアのビリー・ヒューズ首相と会談したが、ヒューズ首相は国内事情から賛成できないと述べ、その後のイギリス帝国各国代表を交えた会議でも強硬に反対した。イギリス・ニュージーランド・カナダは牧野の説得で賛成に傾きつつあったが、ヒューズの強硬な態度はこれらの国も反対に回帰させていった。 日本政府も提案の成立が困難であると見るようになり、最悪の場合は議事録に記録することで日本の立場を明らかにするように訓令を行った。外交調査会の伊東や犬養毅は、提案が実現しなければ最悪国際連盟不参加を決めるべきと強硬であった。
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