日本の経緯と対応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/26 08:20 UTC 版)
明治日本の産業革命遺産では、旧官営八幡製鉄所の旧本事務所・修繕工場・旧鍛冶工場・遠賀川水源地ポンプ室、三池港、長崎造船所の向島第三ドック・旧鋳物工場併設木型工場・ハンマーヘッド型起重機(ジャイアント・カンチレバークレーン)・占勝閣、橋野高炉跡及び関連施設、および旧集成館に含まれる関吉の疎水溝が稼働遺産とされている。これらは現況の使用状況に係らず民間が所有しているという前提であり、長崎造船所の旧鋳物工場併設木型工場のように実際には資料館となっており生産施設ではないものもあり、三角港のように船舶の発着があり港として稼働していながら港湾管理が行政にあることから稼働遺産とはされなかったものもある。 世界遺産推薦にあたっては当該国の法的保護根拠が求められ(完全性)、日本では文化財保護法を拠所としてきたが、国宝・重要文化財に指定されると建築物であれば消防用設備設置や耐震工事を除き増改築などの現状変更(建築行為)が制限されるため、稼働遺産では生産に支障をきたす恐れもあり所有者側が指定を拒むこともある。1996年(平成8年)の文化財保護法改正で所有者が申請し一定の改修を認めた登録有形文化財制度が導入され、これは建物外観のみを残すファサード保存的なものでも構わないが(アダプティブユース)、世界遺産では認められない(真正性(英語版))。また、文化財保護法が稼働機械類を対象としないことから、これに倣い自治体の文化財保護条例でも殆どの場合で対象とはなっていない。 このため2010年(平成22年)9月10日に当時の民主党菅直人内閣下で、規制・制度改革に関する分科会による「産業遺産の世界遺産登録に係る運用の見直し」の検討を開始、10月21日には「産業遺産の世界遺産登録に向けた文化財保護法中心主義の廃止」が示された。2011年(平成23年)3月7日に「産業遺産の世界遺産登録等に係る関係省庁連絡会議」が開催され、4月8日に九州・山口の近代化産業革命遺産群は文化財保護法以外の保全方策を検討する旨を「規制・制度改革に係る方針」で閣議決定した。2012年(平成24年)2月9日、野田内閣の「特区・地域活性化・規制改革小委員会」は、稼働中の産業遺産の世界遺産への登録に関して文部科学省と外務省との調整を指示。5月25日の閣議決定事項「稼働中の産業遺産の世界遺産登録推薦に係る新たな枠組みについて」で、世界遺産登録推進は文化庁ではなく内閣官房地域活性化統合事務局が担当することになり、これをうけ地域活性化統合事務局内に「産業遺産の世界遺産登録推進室」を置き、「稼働資産を含む産業遺産に関する有識者会議」・「資産に係る産業に関連する審議会」・「資産の保全手法に関する審議会」が新設された。 2012年(平成24年)末に発足した安倍内閣は前政権の施策を継承し、2013年(平成25年)の6月から7月にかけ国土交通省の交通政策審議会の港湾分科会が三池港、海事分科会が長崎造船所、経済産業省の産業構造審議会が八幡製鉄所の保護方法について検討。世界遺産推薦のために景観法を改正し、港湾法や公有水面埋立法も適用することが決まった。また、稼働遺産への税制上の特例措置(固定資産税等の減免)もとられることになり、PPP(官民パートナーシップ(英語版))の推進も決まった。 2013年(平成25年)9月17日、同時に世界遺産推薦候補に上がっていた長崎の教会群とキリスト教関連遺産と勘案した結果、稼働遺産を含む明治日本の産業革命遺産を政府として正式に推薦する政治決着が成され、同月20日に外務省において開催された「世界遺産条約関係省庁連絡会議」も了承。2014年(平成26年)1月29日に推薦書をユネスコへ提出、9月26日から10月5日までユネスコ諮問機関のICOMOSの現地調査が入り、2015年(平成27年)5月4日には登録勧告が出され、6月28日から7月8日に開催された第39回世界遺産委員会において登録が決定した。
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