戦争への序章
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「ロシア・ポーランド戦争 (1605年-1618年)」の記事における「戦争への序章」の解説
詳細は「動乱時代」を参照 16世紀末から17世紀初頭にかけ、ロシアはかつてない政治的・経済的危機にあった。ツァーリ・イヴァン4世(雷帝)が1584年に没し、その息子で次のツァーリとなったフョードル1世には知的障害があり子に恵まれず、イヴァン4世のもう一人の息子ドミトリー・イヴァノヴィチが1591年に謎の死を遂げて以後、様々な勢力がツァーリの位を巡って争った。1598年、フョードル1世は没して長らく続いたリューリク朝は断絶し、その摂政ボリス・ゴドゥノフが自ら全ロシアのツァーリとなった。ボリス・ゴドゥノフ自身はどちらかというと穏健で善意の政策をとったものの、社会からの彼のツァーリとしての正統性を疑う見方や、そもそもリューリク朝断絶の理由となった皇太子ドミトリーの死自体がゴドゥノフの手によるものではないかという疑惑が、ゴドゥノフの統治の障害となった。ゴドゥノフは反対勢力を支配下に置こうとしたものの、彼らを完全に滅ぼそうとはしなかった。 1600年末、ポーランド・リトアニアからの外交使節団が、リトアニア大公国宰相のレフ・サピェハ(Lew Sapieha, レオナス・サピエガ)やポーランドの大貴族スタニスワフ・ヴァルシツキ (Stanisław Warszycki) らに率いられモスクワに到着し、ポーランド・リトアニア共和国とモスクワ国家との同盟(および将来の同君連合)を提案した。もしどちらかの国の君主が跡継ぎなく死んだ場合、もう一方の国の君主が両国の王となるというのが彼らの提案だった。しかし、ツァーリのゴドゥノフは同盟案を拒否し、リヴォニア戦争の休戦条約(ヤム・ザポルスキの和約)を1622年まで延長させた。 ポーランド王ジグムント3世や共和国のマグナート(大貴族)たちは、自国軍が小さく、国庫は空で、戦争が一般の支持を得られないことから、ロシアへの本格的侵攻が不可能であることはよく分かっていた。しかしロシアの情勢が悪化の一方であることから、ジグムントやマグナートたち、特にロシア国境付近に領土や兵を持つマグナートたちはロシアの弱体化と混乱から領地を拡大するなど何らかの利益を得る方法を模索していた。ちょうど同じ時期、内戦状態にうんざりしたロシアのボヤーレ(貴族)たちは事態を鎮めるべく周囲の国の助けを借りることを考えていた。 自らがツァーリとなるために支援を得ようとした貴族もいれば、西隣のポーランドの貴族たちの享受する選挙王政や二院制などの「黄金の自由」の民主主義体制に魅せられ、ポーランドの政治家の助けを借りてポーランドとの連合を組むことを考える貴族もいた。さらに、北隣のスウェーデンとの紐を深めようとした貴族もいたが、これがヤコブ・デ・ラ・ガーディエ (Jacob De la Gardie) 率いるスウェーデン軍のロシアへの導入(デ・ラ・ガーディエ戦役)と、彼らとロシアとの戦争(イングリア戦争)を招くこととなる。 今後のロシアについてポーランド・リトアニアと連合を組むべきだという意見の支持者は、ポーランドとリトアニアが制度的な連合を組んだルブリン合同と同じような連合を考えていた。彼らの構想では、ポーランド・リトアニア連合共和国とロシアは外交と軍事を共通化し、ロシア貴族にも住みたい場所に住む権利や土地資産を買う権利を与え、交易や交通の障壁を取り除き、単一通貨を導入し、ロシアにおける宗教の寛容化を進め(特に正教会以外の教会を建てる権利)、ボヤーレの子供たちを教育やアカデミーの発達したポーランドへ送るという将来が描かれていた。 しかし、こうした一方的な政策はロシアの人々に支持されなかった。多くのボヤーレが、カトリック教会が優勢なポーランド・リトアニアと連合を組めば、ロシア正教会の伝統が危機に瀕すると考え、ロシアの文化を脅かすあらゆること(とりわけ正教会の影響力を弱める政策、例えばポーランド人との通婚やポーランドの学校での教育など)に反対した。特に通婚やポーランドへの子弟派遣は、ポーランドの支配下に置かれた旧リトアニア領のルテニア地方で、正教会を奉じていたルテニア貴族たちが次第にポーランド化・カトリック化する事態を招いていたため警戒された。これはボヤーレたちの間におけるコスモポリタニズム(市民主義)とロシア・ナショナリズム(民族主義)の対立だったといえる。
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